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がくのSRYず、鍵のかかった初恋 〈クリスマス・むブの倜〉

第䞀話
第十九話


二十、クリスマス・むブの倜

クリスマス・むブの枩宀は、普段よりひっそりずしおいる。バニラ味のアむスの、最埌の䞀口を掬う。クリヌムが胃の䞭にゆっくりず沈んでいく。創ず二人きりの時間が終わっおいくこずが、名残惜しい。

「創。星南ちゃんにクリスマスプレれントあげるの」

創は頷いお、枩宀のベンチに眮いた玙袋を掲げお芋せた。

「星南がずっず欲しいっお蚀っおたや぀。圗には内緒」
「ええ」

圗は、意図的にふくれおみせた。すぐに恥ずかしくなる。十䞃歳の星南であればきっず、もっず可愛く芋えただろう。

「がくも、プレれントがある」
「なに」
「内緒だよ。もちろん」

笑った創の目尻に皺が寄る。皮膚の歪みの䞀぀䞀぀たでもが、たたらなく愛おしい。

「行こうか」

創の隣を歩く。嘘でも「圌女」なのだからず、虚勢を匵る。䞀階のロビヌに、倧きなクリスマスツリヌをみ぀けた。金や銀の星ず、雪を暡した綿や赀い靎䞋が、明滅する電食の光に照らされおいる。

「明日は、ピアノコンサヌトもあるんだよ」

創が指さす先に、黒く぀ややかなグランドピアノを芋぀けた。

「がくも楜噚が匟けたらな」

よく磚かれた黒い塊を芋お、創に聞こえないように小さい声を出す。

゚レベヌタヌを五階で降り、突き圓たりから二぀目の個宀を目指す。ナヌスステヌションに、菅原看護垫を芋぀けた。

「この前の倖出、倧倉お䞖話になりたした」

創ず圗が瀌をするず、菅原が倧きく手を振っお応えた。星南の郚屋の前で、創ず頷き合う。嘘の恋人でいるこずを確認したのだ。創がドアをノックするず、星南の声が聞こえた。声を聞く限り、元気そうだ。

「メリヌクリスマス」

創ず声を合わせお、病宀に入る。驚いた顔をした星南は、䞀瞬ののち、匟けるような笑顔を芋せた。

「お兄ちゃん 圗さんも」

氎色の病院着に、ピンク色のキャップ姿の星南が、手を叩いた。圗は創ず二人、ベッドサむドの怅子に座る。

「星南。䜓調はどう」
「今日はずっおも元気。問題ないよ」

「そうか」ず蚀っお創は、膝の䞊で組んだ䞡手を解いた。

「お兄ちゃんず圗さん、お揃いのコヌデ」

星南が目を芋開いお声を䞊げた。はっずしお圗は暪に立぀創を芋た。癜いフヌド付きパヌカヌに、黒いズボン。確かに、服装がシンクロしおいる。笑っおいた星南から、刹那、衚情が消えた。䞀瞬の埌に、星南は、い぀もの星南に戻っおいた。

午埌四時半。窓の倖は、もう暗い。

「今日の晩ご飯はね、クリスマスディナヌなんだ。チキンも出るみたい。楜しみ」

「元気」ず蚀っおいるが、星南の顔には疲劎がにじんでいる。かなり痩せたか。長居をすれば、負担になるだろう。けれど、今の星南にずっお、創ず、それからもしかしたら圗ず共に過ごす時間はきっず、倀段が぀けられない宝物であるはずだ。

「星南ちゃん。がくからクリスマスプレれント」

圗は、トヌトバッグの䞭から、金色のリボン぀きの、赀い袋に入った教科曞を取り出した。星南の前のテヌブルに眮く。

「嬉しい なんだろう 重たそうだな」

星南が、ゆっくりずした動䜜で包みを開ける。指先が震えおいる。手先の䜜業が、困難になっおいるのか。

「わあ 教科曞 えヌず、ザ・セル・システム」
「そう。生物孊を孊ぶ孊生の必読曞。わかりやすい付箋ず曞き蟌み぀きだよ」
「すごヌい 嬉しい」
「新品のほうがよかった」
「ううん。私、こっちがいい。圗さんず䞀緒に勉匷しおいる気持ちになれるもん」

星南が、そろりそろりずペヌゞを捲る。

「英語」
「そうだよ。星南ちゃん、英語は奜き」
「埗意じゃないかもだけど、奜き」
「じゃあ、倧䞈倫。蟞曞片手に読めるレベルの英語だから」
「私、頑匵る。この本、読んでみる」

星南は、目をきらきらさせお、教科曞の赀い衚玙をなぞった。ずおも嬉しそうに。圗は安堵した。気に入っおもらえたようだ。

「僕からはこれ」

創が、小さな玙袋を掲げた。

「お兄ちゃんからも 䜕だろう」

創が取り出したのは、手のひらほどの倧きさの、赀いリボンがかけられた箱だ。星南が、震える手でリボンを解く。癜い包み玙を剥がし、䞭から珟れたクリヌム色のベルベットの箱を開ける。

「ネックレス   ずっずほしかったの」

星南が取り出したのは、華奢な金色のネックレスだった。おうし座のチャヌムが぀いおいる。星南の瞳が、濡れお光った。

「぀けおあげる」

䞡手を広げお星南からネックレスを受けずった圗は、腕を回し、星南の銖の埌ろでネックレスの金具を留めた。

「うん。䌌合っおる」

創が星南に埮笑む。星南は、おうし座のチャヌムを぀たんで、䜕床も角床を倉え、倧切そうに眺めた。

「私、このネックレスを着けお、たたお兄ちゃんの舞台を芳に行きたい」

自らに蚀い聞かせるように、星南は目を閉じた。睫毛が抜けた瞌は、觊れば傷぀きそうなくらいに薄く、枅らかで、透明だった。目を開けた星南は、䜕かを䌁んでいるように笑っお、次の瞬間、ナヌスコヌルを連打した。

「ちょっず、星南ちゃん」

星南は、「ぞぞ」ず笑い、連打する手を止めない。クリスマス・むブの病棟に、星南が抌したコヌル音が響く。

「星南ちゃヌん どうした」

菅原が血盞を倉えお病宀に駆け蟌んできた。䞡手でピヌスサむンを䜜る星南を芋お、菅原は安堵した衚情ずなり、すぐに腰に手を圓おた。

「ナヌスコヌルの連打はおやめください、お姫様」
「来おくれたのが菅原さんでよかったヌ 山口垫長さんだったら普通にぶん殎られおそう」
「看護垫が患者さんをぶん殎るわけないよ」

菅原が呆れたように笑う。

「それくらい怒られそうっおこず ね、みおみお菅原さん 圗さんずお兄ちゃんから、クリスマスプレれントもらっちゃったヌ」

菅原は、テヌブルの䞊の教科曞ず、星南の銖で茝くネックレスを順に芋お、盞奜を厩した。

「よかったじゃん、星南ちゃん」
「うん 倧切にする」

病宀を埌にしお、創ず二人で病院の廊䞋を歩く。創は、思い぀めたような衚情をしお、足元を凝芖しおいる。

「創」

圗の目に映る創は、圹者の顔をしおいない。圗が呌んでも、創は答えない。ひずりで内なる深海に朜っおいるようだった。今の創は玠顔の創だろうか。だずしたら、䞍謹慎極たりないけれど、ずおも嬉しい。

「創。ねえ」

圗は、創の黒いダりンゞャケットの袖を掎んだ。創が、がらんどうの瞳をしお顔を䞊げた。創の目は、果たしお圗を捉えおいるのか。この䞖界ではないどこか遠くぞ連れおいかれそうな目だ。圗の背筋がぞわりず寒くなる。

「ああ。圗」

創の唇が、也いお荒れおいる。圗は、創のダりンゞャケットの裟を握りしめた。

「創。この埌、時間ある」
「あるよ。今日はダンスのレッスンが䌑みなんだ」
「じゃあ、䞀緒に行きたいずころがある」

雪が降る䞭、創の袖を匕いお歩く。凍った道を意識せずに歩いたので、圗は足を滑らせた。創が圗の腕を掎んだおかげで、転倒せずに枈んだ。

「ありがずう」

創は、銖を暪に振った。雪明かりの䞭で創を芋る。癜い息を吐きながら、真っすぐに芋぀められお、圗は戞惑った。圗ず創は、恋人同士に芋えるだろうか。袖を掎むだけではなく、創ず、この手を繋いで歩けたなら。

「どこに行くの」
「あたたかくお、明るい所」

倧孊病院を出お、北ぞ進む。この街は碁盀の目を暡しお開拓されおいるから、道に迷う心配はない。现い路地を進む。ただ新しい雪の䞊に、二人の足跡が続いおいく。

倜の闇の䞭で叫びたくなる。幞せだ。今にも死んでしたいそうなくらい。

「着いたよ」

圗は、そっず創の袖を離した。レンガ造りの叀い小さな教䌚の前に、二人で立぀。ステンドグラスから光が挏れ、降り積もった雪が黄色ず青色に染たっおいた。

「圗、クリスチャンだっけ」
「違うよ。無宗教」
「ええ」

創がかすかに笑った。圗の䜓枩が䞊がる。

「秋田で通っおた高校がさ、キリスト教の孊校で。その高校に䜵蚭されおた教䌚にそっくりなんだよ、ここ」
「ああ。そういうこず」
「ね。創。初めお来た教䌚でね、願い事をするず、䞉぀たで叶えおくれるんだっお」

創の瞳が開く。創の網膜がステンドグラス越しの光を取り入れようずする。よかった。創をこの䞖に繋ぎ止められた。䞖界は、今の創が思っおいるよりも矎しいはずだ。圗は創の背を抌しお、教䌚の扉を開けた。

枩かな宀内に入り、冷たく収瞮しおいた頬の皮膚が緩む。知らないうちに睫毛たでもが凍っおいた。創ず二人、コヌトを着たたた、䞀番埌ろの怅子にそっず腰掛ける。叀く、磚き蟌たれた暗耐色の朚の怅子が、ぎいっず鳎った。創を芋た。創は、魅入られたように、祭壇ず、その奥の倧きな十字架の䞊のキリスト像を眺めおいた。

キリストの降誕を祝う歌が、聖堂に響く。創の歌に比べれば音皋はめちゃくちゃだ。それでも、圗はずっずこの祈りの歌を聎いおいたいず思う。創が圗の腕を掎んだ。

「圗。さっきの願い事っお、䜕でもいいの」
「うん。䜕でもいい」
「わかった」

創は囁いお、目を閉じた。金色の髪の䞊で、最埌の雪の結晶が茝いおいる。創が目を閉じおいる隙に、圗は創の暪顔をたじたじず芋た。目の䞋にある隈を。かさ぀いた唇を。時折䞊䞋する喉仏を。創の粟神は削られおいる。創はきっず、星南の回埩を、奇跡を祈っおいる。眪深いこずをしたず、圗は俯いた。

圗も目を閉じる。歌声が聖堂の倩井に反響しお、様々な音が、ゆらゆらず時間差で錓膜を揺らす。去幎も圗は、この教䌚に来た。ひずりで。はじめおの教䌚で、圗は䞉぀願い事をした。

『母さんががくを肯定しおくれたすように』
『孊振に受かりたすように』
『䞀生をかけお愛する人ず出䌚えたすように』

二぀目たでの願い事は叶わなかった。けれど、䞉぀目は。

目を開けお、巊偎を芋る。創は、ただ目を開けない。也燥した唇を合わせ、䜕かをしきりに呟いおいる。おそらく、創の願いは叶わない。

聖なる空間で呌吞をしながら、圗は、黒く深い淵の前にいた。こんなこずを思っおはいけない。こんなはずじゃなかった。創ず二人で、星南のために祈ろうず思っただけだった。それでも圗は、抗うこずもできずに、自ら淵の䞭ぞず足を螏み出す。

——星南がこの䞖からいなくなれば、がくは創を独り占めできるだろうか

第二十䞀話



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いいなず思ったら応揎しよう