
短編小説『リスク職人たちの巡り合う世界線』- 第2話『北大路利樹の思い込み』
白い花で飾られた結婚式場に、パイプオルガンの音が響いている。
正面の大きな窓から光が差し込み、白い大理石の床に反射していた。
祭壇の前には、純白のウェディングドレスを着た安藤と、黒いタキシードを着た北大路が並んでいる。
二人は向かい合った。
北大路が安藤の左手を取り、薬指に指輪をはめた。続いて、安藤が北大路の左手を取り、薬指に指輪をはめる。
二人が参列者の方を向くと、会場に拍手が広がった。
安藤が北大路の腕に自分の腕を絡める。
二人は顔を見合わせ、笑顔を見せた。
白い花が並ぶ通路を、安藤と北大路が並んで歩いていく。
正面の扉が開いた。
扉の向こうから差し込む光の中へ、二人は歩いていった。
*
北大路は、三年間も婚活を続けてきたが、気の合う相手に巡り合えなかった。
こだわりが強い技術者であることが原因だと、自分でも薄々分かっていた。このプロジェクトに参画を希望した安藤となら、分かりあえるかもしれない。
タイムマシンが映した未来の結婚式は、北大路が探し求めていた運命の結婚式に見えた。
ふいに聞こえた一言は、奇跡が始まる合図のようだった。
「なんや、これ」
声の主は、薄緑色のパーティションの向こう側にいる。
向かいのブースにいるのは安藤だ。
- おお、さっそく、話しかけるチャンス
北大路は、パーティションの上から顔をだして声をかける。
「安藤さん、何か言いました?」
「ごめんなさい。タイムマシンが映した未来にビックリしちゃって」
安藤の声は、さっきの一言からは想像もつかないほど可憐だった。
どのような未来が映されたのか北大路が尋ねると、安藤は少し照れくさそうにしながら、自転車で迷子になって九十九里浜まで走る未来だと言った。
- 人見知りなのかな、可愛らしいなこの人
北大路は、安藤が一人でサイクリングしていると知って、ますます彼女のことが気になった。
- 共通の趣味があるなんて最高
気になる人は誘うことが鉄則だと、婚活の経験から学んでいた北大路は、迷うことなく安藤を誘う。
「ところで、安藤さんもサイクリングが趣味なんですね。今度、一緒に行きましょう」
安藤が、間髪入れずに答える。
「北大路さんもサイクリングがお好きなんですか。ぜひ、よろしくお願いします」
返事までに間が空くようなら社交辞令だということも、婚活の経験から学んでいた。
- なんか、いい感じ
北大路は、タイムマシンが映した結婚式が現実になると予感する。
同じ日に中途採用され、同じプロジェクトに配属された。初めて交わした会話で、趣味が同じだと分かった。
安藤も同じように運命を感じているはずだと、信じて疑わなかった。
「また、声をかけますね」
そう言って、タイムマシンの画面に目を戻し、“適切”のボタンをクリックした。