
短編小説『リスク職人たちの巡り合う世界線』- 第3話『塚地保の提案』
塚地は不満だった。
せっかく、緑に囲まれた心地よいオフィスになったのに、会議室は金属製の白いパーティションで囲った空間に、昔のオフィスから持ち込んだ机と椅子を並べただけだからだ。
レトロな会議室に、タイムマシン実用化プロジェクトのメンバーが集まって、週に一回の定例ミーティングを行っている。
塚地の不満は、会議室のことだけじゃない。
高橋は、いつものように事務連絡をして、いつものように尋ねる。
「皆さんから何かありますか?」
誰からも意見がないままミーティングが終わることが続いていた。あの方針のせいだ。
「俺から、言いたいことがある」
ミーティングを終えようとしていたみんなの動きが一瞬止まった。
塚地は、息継ぎゼロでまくしたてる。
「みんな、タイムマシンが映す未来の評価を一人でやってるだろ。それじゃ、自分に都合がいい評価になっちまうから、二人以上で実施すべきなんだよ。ダブルチェックは品質保証の基本じゃないか。それに、このミーティングで何も意見がでないのだって、評価結果を共有しない方針にしているからじゃねえのか」
高橋が、困ったような顔をして言う。
「たしかに、それは僕も気になっているけど、プライバシーの問題があるからな......」
安藤と北大路が声を揃える。
「そうです、プライバシーの問題があります」
すかさず、塚地が突っ込む。
「なんだよ、お前ら息ピッタリだな」
安藤と北大路は、恥ずかしそうに顔を見合わせている。
塚地が続ける。
「プライバシーって言っても、このタイムマシンが映す未来は事実じゃないんだから、問題ないだろ。人に見られると困るような未来でも見たのか?」
またもや、安藤と北大路の声が合わさる。
「そんなことないですけど......」
会議室が笑いに包まれる。
二人は一瞬だけ目を合わせた後、うつむいて顔を赤らめている。
「なんなんだよ、お前たち」
すっかり空気が緩んでしまったところで、高橋が話をまとめる。
「来週までに、僕と塚地さんで方針を検討しましょう」
塚地は同意し、ミーティングは終了した。
*
塚地のもとに、一通の白い封筒が届いた。
塚地は封を開き、中から厚手のカードを取り出した。
金色の文字で、「結婚式のご案内」と書かれている。
カードを開くと、二人からのメッセージが記されていた。
> 塚地さん
> 私たちが近づくきっかけをつくってくださり、
> ありがとうございました。
> ぜひ、結婚式に出席してください。
> 北大路利樹・安藤純花
「あいつら、そういうことか」
塚地は、タイムマシンが映した未来を見て声を漏らした。
薄緑色のパーティションの上から高橋が顔をだす。
「もしかして、塚地さんも?」
塚地は、高橋を密林のソファー席に誘った。いつの間にか、理央もいる。
理央の勘は鋭い。
「ねぇ、招待されたんでしょ」
「そうか、理央も見たのか」
三人が同じ未来を見たことが明らかになった。
塚地は、タイムマシンが映したメッセージを思い出す。
- 俺がきっかけをつくったことになってたな
「高橋さん、あの二人にペアで評価するように指示できねえかな」
「そんな、人の人生を左右するような指示は、倫理的に問題ありませんか」
高橋は迷っているようだった。
その迷いを、理央の一言が吹き飛ばす。
「タイムマシンが二人のキューピットになるなんて素敵じゃない」
塚地は決断を迫る。
「これこそ、人のためになる品質保証じゃねえか。部長、ご決断を」
高橋は首を縦に振った。