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短編小説『リスク職人たちの想いが宿る世界線』- 第3話『二階堂愛の誤算』

     塚地さんからタイムマシンは開発中断と言われて、ボクは目を閉じて天を仰いだ。

     「品質保証部の判断としては、当然そうなりますよね」

     そう言いながら目を開くと、塚地は消えていた。

    - ありゃりゃ、もういない......

    「まったく、一方的なんだから......。そこに愛はあるんか~、品ちゃんからの愛はあるんだ~、愛ちゃんから品ちゃんへの愛もあるんだ~、品ちゃん、愛ちゃん、品ちゃん、愛ちゃん、イエイ、イエイ~」

     独りになった二階堂は、作詞作曲中の歌を口ずさみながら、ハルシネーション調査のために過去の情報を集め始めた。過去の事実を集めておく必要があるからだ。

    - ん、何だろうこれは?

     二階堂は、タイムマシンを共同開発している阿部電気機械のホームページに、品質不正謝罪会見の動画を見つけた。日付は一年前になっている。

    - こんな話、聞いたことないけどなぁ

     動画を見ると、白い布が敷かれたテーブル上に、“取締役社長 阿部 正令”、“品質保証部長 松 理香”と書かれた名札が置いてある。

    - うわぁ、どういうこと?

     二階堂が知っている阿部は社長ではない。“品質担当執行役 兼 品質保証部長”のはずだった。

     嫌な予感がして、二階堂は研究室の外の様子を確かめる。セキュリティドアを開けると、地下の通路ではなかった。木目調の机が無人島の群れのように並び、密林のような観葉植物に囲まれてソファーが置かれている。

    - あら、素敵なオフィス......って、なんだここは?

     どうやら、フリーアドレスのオフィスになっている。もう、他の人たちは帰宅したらしく、誰もいなかった。

     二階堂は部屋中を観察して、ロッカーの名札に書かれた一人の名前に目が吸い込まれる。

    - 品ちゃんは、ボクの運命の人じゃなかったんだね。グスン

         *

     二階堂は、独りぼっちのオフィスから、高橋をビデオ通話で呼び出した。

    「夜遅くにすみません。なんか変なんです。阿部さんが阿部電気機械の社長になっていて、一年前にデータ改ざんの謝罪会見をしている動画を見つけたんです。高橋さんが言っていた、松さんって人も同席しています」

    「えっ、こっちはもっと変なんだ。家に帰ったら、理央がいて......ほら」

     ビデオ通話の画面に、理央らしき人が写っている。

    - やっぱり、そういうことなのね

     二階堂は、“高橋理央”と書かれているロッカーの名札を見つけた時、このままでは不倫になってしまうことを恐れた。うっかり“品ちゃん”って呼んではいけないと思った。

     不倫がバレたら、高橋は懲戒解雇されるかもしれない、離婚するかもしれない、慰謝料を払わされるかもしれない......。二階堂は、理央と再会できた高橋の幸せを守りたかった。

    - こうなったら......叫んでごまかそう

    「うわぁ、そういうことか。大変です~」

     高橋が余計なことを言ってしまわないように、二階堂は叫び続ける。

    「ボクのタイムマシンは、過去や未来を生成するだけじゃなかったんだ。ヒャー。量子力学的な作用で、パラレルワールドが作られてます。これは、世紀の大発見です。キャー」

     高橋が尋ねる。

    「ちょっと、どういうことか分からないんだけど」

     二階堂は、理央にも聞こえるように大きな声で叫ぶ。

    「量子力学では、世界には無数のパラレルワールド、えーと、つまり、別世界が存在していると考えられているんですよ。その中の一つをボクらは観察して、現実だと思っているんですっ。理央さんがいる世界にボクらは移動したんだ~。うわぁ、うわぁ」

     高橋の弱々しい声が聞こえる。

    「......ますます、分からないよ......」

     突然、ビデオ通話の映像が激しく揺れて、部屋の天井を映しだした。高橋と理央が何か話しているけど、聞き取れない。

    - 品ちゃん、余計なことは言わないで

     しばらくして、ビデオ通話の画面に高橋が映り、二階堂にタイムマシンの説明を求めてきた。

     二階堂は、タイムスリップ後に現実が変わってしまったことを説明する。

     理央は、“高橋と一緒に逃げた女だと思った”と冗談を言っている。二階堂は一瞬ビクッとしたけど、不倫が疑われることはなさそうだった。

     高橋と理央が映っているビデオ通話からは、二人の甘い会話が聞こえてくる。

    - 品ちゃん、理央さんのことばかり気にしてる。グスン

     二階堂が何を言っても、高橋と理央は二人だけの世界に入っていく。

    「はいはい、邪魔者のボクは消えますね。そこに愛はあるんか~」

     相手にされなくなった二階堂はビデオ通話を切る。

     もう帰ろうと思って振り返ると、目の前に塚地がいた。

    - ヒャー

     びっくりした二階堂は、胸の鼓動が跳ね上がる。

     塚地は、温かい眼差しで見つめながら話しかけてきた。

    「愛ちゃん、遅くまで頑張っているじゃねえか。体を壊さないでくれよ、大切な人なんだから」

    - えっ、愛ちゃん?、大切な人?

     さらに鼓動が高まって言葉がでない二階堂に、塚地が尋ねる。

    「そんなに努力して、タイムマシンを開発する目的ってなんなんだ?」

    - ガーン。ボクはトキメキに負けて大切なことを見失っていた......

    「塚地さん、ありがとうございます。タイムマシンは、色々な社会問題を解決するために発明したんです」

     二階堂の情熱に再び火がつく。

    - ボクのことを見守ってくれてるのね......塚地さん、ス・テ・キ

    第4話へつづく

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