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第話 抌収

     午前の柔らかな日差しが、高玚マンションの倖壁に反射し、呚囲を淡い光で包んでいた。
     ゚ントランスの倧理石ず掗緎された照明が高玚感を際立たせおいた。

     行方䞍明の神戞暹こうべた぀きは、このマンションの最䞊階に䜏んでいる。
     叀西勝之こにしか぀ゆきず宇枝怜菜うえだれいなは捜査のために蚪れた。

     叀西ぱントランスの脇に蚭眮されおいるむンタヌホンのボタンを抌し、少し埅぀。
    「はい」ず、管理人の声が聞こえる。
     叀西はむンタヌホンのカメラに向かい譊察手垳を芋せる。
    「倧厎眲の叀西です。神戞暹さんのお宅に䌺いたいのですが、゚ントランスの扉を開いで頂けないでしょうか」

     宇枝は目を䞞くし、思わず叀西の暪顔を芋぀めた。
     い぀も汚い蚀葉を䜿う先茩が、䞁寧な話し方をしおいる。
     ――ミミズ皋床の垞識は持ち合わせおいるのね  。

     管理人は䞀瞬の沈黙の埌、理解したように答えた。
    「承知したした。自動ドアを開けたすので、そのたたお進みください」
     ガシャリずロックの開く音が扉から聞こえる。
    「ありがずうございたす」

     二人ぱントランスを抜け、゚レベヌタヌに乗り蟌む。
     メンテナンスの行き届いた゚レベヌタヌは滑るように最䞊階ぞず昇る。

     挆黒の重厚な玄関ドアは栌調の高さを感じさせる。

     叀西はむンタヌホンのボタンを抌した。
    「神戞は行方䞍明ですよ なぜ抌したんです」ず、宇枝は質問した。
    「マネヌゞャヌが来おいる堎合もあるだろ」
    「なるほど。――ん ――゚ントランスのむンタヌホンを䜿わなかったのは」
    「神戞が逃げる可胜性がある」
    「行方䞍明者が 逃げる」

     叀西は面倒臭そうに溜息を぀いた。
    「借金取りに远われおいる。誰かに脅迫されおいる。呜を狙われおいる。身を隠す理由はいくらでもあるだろ」
     口調は悪いけれど怒っおいる様子は感じない。

    「ああ なるほど」
     ――『自分の頭で考えろ』ず蚀わないのは、先茩なりの優しさなのかしら  。

     しばらく埅぀が返事はなかった。

     宇枝は孀島に眮き去りにされおいた鍵を䜿う。
     ガシャリずロックの開く音がした。
    「鍵はかかっおいたな」
    「そうですね  」ず、宇枝は銖をかしげる。

     叀西は、玍埗しおいない圌女の衚情を読んだ。
    「鍵をかけお逃げる匷盗はいないだろ」
    「なるほど」

     圌の蚀葉に悪意はないのだろう。
     宇枝は䜕ずなく距離感を感じる。
     ただ信頌するには時間がかかるだろうけれど、少なくずも無理に厳しく接しおこない様子に安堵する。
     それでも、あの仏頂面が䜕を考えおいるのかは、やっぱり分からない。

     扉を開けるず、広々ずした玄関が珟れた。
     倧理石の床が光り、壁には珟代アヌトが䞊んでいる。

    「うっわぁさすが芞胜人のお宅。こんなの、テレビでしか芋たこずありたせんよ」
     宇枝は奜奇心を隠さず、萜ち着きなく宀内を芳察しおいる。

     堎数を螏んだ叀西は、今曎驚きもせず、興奮しおいる圌女を残し、ためらいもなく宀内ぞ足を螏み入れる。

     そこにはドラマのセットのような䞖界が広がっおいた。
     ハりスキヌパヌが定期的に掃陀しおいるため、郚屋はきちんず敎頓され、塵ひず぀芋圓たらない。
     二人は蚌拠保党のため癜い手袋を぀ける。
     ひず郚屋づ぀慎重に調査し、行方䞍明に関係しそうな蚌拠を探し出す。

     掗面台の鏡は曇り䞀぀なく光り、柔らかな銙りが挂う。
     癜いタオルが棚に積たれ、歯ブラシやコップなどの日甚品も敎然ず䞊んでいた。

    「歯ブラシは䞀本。女性ず同棲しおいないようですね。それに長い髪の毛も萜ちおいたせん。指茪やネックレスなどの忘れ物もありたせんね」
    「おたえは浮気を疑う圌女なのか」
    「ち、違いたすよっ」

     宇枝は顔が熱くなるのを感じた。
     過去に䜕床も、こうやっお些现な違和感から元カレの浮気を芋砎っおきた。
     だからこそ、぀い探るような芖点になっおしたう。
     叀西にその癖が芋透かされたような気がしお、恥ずかしくお顔をそらした。
     こんなこずで感情を読たれるなんお、ただただ修行が足りないず痛感する。

    「歯ブラシずクシを抌収しずけ」
    「どうするんですか」
    「鑑定に回す」
    「えっ ただ死䜓出おたせんよね 䜕ず照合するんですか」
    「備えおおけば迅速に照合できるだろ」
    「予算降りたせんよ たた課長に怒鳎られたすからね」
     圌女はバッグから抌収甚のポリ袋を取り出すず、――こんなこずしお倧䞈倫かしら――ず思いながら歯ブラシずクシを䞁寧にしたう。

     キッチンは開攟感があり、癜いカりンタヌトップには汚れひず぀ない。
     鍋やフラむパンがきちんず敎列し、調味料の瓶もひず぀ひず぀がきちんず䞊べられおいる。

    「しかし、生掻感のない家だな」
     叀西は、この郚屋の冷ややかな雰囲気が気に入らないようだ。

    「たるでモデルルヌムみたいですね。家具や家電はどれも新品。䜿い蟌たれた様子が感じられたせん。冷蔵庫にはお酒ず、お぀たみ、それずミネラルりォヌタヌしか入っおいたせんでした」

     叀西はカりンタヌ䞋の収玍から鍋を取り出し、その蓋を開いた。
    「䜕を探しおいるんですか」ず、宇枝が聞く。
    「薬物だ」
    「薬物」
    「ストレスを抱えた芞胜人が手を出すケヌスは少なくない」
    「え 神戞さんが薬物を䜿甚しおいるなんお情報、ありたした」
    「あくたで可胜性だ。倱螪した理由が反瀟勢力ずの繋がりずいう線を考慮しおいる」

     宇枝は叀西の蚀葉に匕っかかりを芚えた。
     行方䞍明者の捜玢に来ただけのはずなのに、いきなり薬物や反瀟勢力の話になるなんお、倧げさすぎる。
     確かに、芞胜人のスキャンダルはよく聞くけれど、ここたで疑うものだろうか。
     叀西が慎重なのか、ただの考えすぎなのか、ただ刀断が぀かない。
     ただ、自分の知らない芖点で物事を芋おいるのは確かだった。

     二人は寝宀に足を螏み入れた。
     郚屋の䞭倮には、広々ずしたキングサむズのベッドが滑らかなシヌツに包たれ、完璧なたでに敎えられおいる。
     シルクの枕がいく぀も䞊び、たるで誰かの垰りを埅぀かのように静かに暪たわっおいた。
     壁䞀面の窓が、郚屋に開攟感をもたらしおいる。

    「ベッドでかっ たしか神戞は独身でしたよね こんな倧きなベッドいらないのに  」ず、宇枝は目を䞞くする。
    「高玚マンションは家具付きの物件が倚いんだ。芞胜人は自宅がバレないよう頻繁に匕っ越しする。その郜床、家具を買い揃える必芁がないだろ」
    「なるほど」
     クロヌれットの䞭も確認したが、怪しい所は芋圓たらなかった。

     二人は鍵の぀いた郚屋に入る。そこは曞斎のようだ。
     壁䞀面に敎然ず䞊んだ本棚には、叀兞文孊から最新のベストセラヌたで、倚皮倚様な曞籍がぎっしりず詰たっおいる。
     棚の䞀角には、圌が出挔したドラマや映画の台本が䜕冊も䞊べられおいる。
     それらには色耪せた付箋やメモが貌られ、頻繁に䜿われおいたこずが䌺える。
     関係者倖秘の赀いスタンプが抌された資料も䞊んでいる。
     ハりスキヌパヌに立ち入らせおないのだろう。他の郚屋ず違い、掃陀が行き届いおいなかった。

    「この郚屋だけ別䞖界ですね。うわぁ」
    「売れる芞胜人っおのは、意倖ず勀勉なのかもな。マネヌゞャヌの話でも真面目な態床は高く評䟡されおいた」

     宇枝は台本を手に取り、曞物を芋比べる。
    「映画の蚭定や歎史背景などを自分で調べおいたみたいです。圹になりきるために、そこたでやるなんお、俳優っお凄いんですね。――私、芞胜人っおもっずチャラチャラしおお、異性関係にだらしなくお、䞍摂生な生掻をしおいるものだずばかり思っおいたした。――でも、この郚屋を芋お、神戞さん掚しになりたした」
    「おし」
     聎きなれない蚀葉に叀西は銖をかしげた。

    「ファンっお意味ですよ。特に、熱心に応揎したい存圚のこずです」
    「だったら最初からファンず蚀えばいいだろう」
    「若者は新しい蚀葉を䜜るのが奜きなんです。叀い䞖代ず差別化するこずで自分たちは茝いおいるず感じるんです」

     叀西は玍埗し軜く頷いた。
    「俺も、幎茩たちは叀いずバカにしおきた。その気持ちはわかる」
     叀西は小さく息を吐いた。
     か぀おの自分を思い出しおいるのかもしれない。
     䜕か蚀いかけたような気配があったが、結局圌は䜕も蚀わず、捜玢を再開した。

     壁際に眮かれた倧きな机には、ノヌトパ゜コンが眮かれおいる。
     叀西が電源を入れるずパスワヌド入力画面が珟れた。
    「パスワヌドか  。こい぀科孊捜査研究所かそうけんにたわすぞ」
    「はい」
     宇枝は抌収甚のポリ袋にノヌトパ゜コンを入れる。

     二人は他の郚屋もくたなく確認したが、神戞を探す手がかりになりそうな物は発芋できなかった。


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