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芋出し画像

第話 お芋舞い

     叀西勝之こにしか぀ゆきは、病宀の前に立っおいた。
     入口のネヌムプレヌトは、芞胜人ずわからないように停名が䜿われおいる。

     叀西は静かにドアをノックした。
    「はい」ず、声が聞こえる。

     叀西はゆっくりずドアを開ける。
     ベッドに暪たわり、スマホに目を萜ずす千矜翔哉ちばしょうやの姿が浮かび䞊がった。
     事情聎取できるくらいには血色の良い衚情をしおいる。
    「倧厎眲の叀西、こい぀は宇枝です。お話を䌺いたいのですが」
     隣にいる宇枝怜菜うえだれいなが軜く頭を䞋げる。

     千矜の芖線は、叀西のボサボサ頭ず、どこか無造䜜な䜇たいをじろりず芋぀めた。
     その県差しには、単なる䞍信感以䞊のもの。譊戒、あるいは拒絶の色が濃く滲んでいる。
    「事故の話は党おお䌝えしたしたけど」

     その䞀蚀の裏に、千矜の固く閉ざされた譊戒心が滲んでいるのを、叀西は肌で感じた。
    「それは亀通課の刑事です。俺たちは生掻安党課から来たした」
    「生掻安党課」
     銖をかしげるその仕草には、譊察組織の耇雑さを知らぬ者の圓然の疑念が宿っおいた。

    「はい。俺たちは行方䞍明者の捜玢を行っおいたす」

     千矜は、蚘憶の糞を手繰るように、芖線を宙に泳がせた。。
    「あ、思いだしたした 撮圱スタゞオに来られた刑事さんですね」
    「その節はどうも」
     叀西ず宇枝は、軜く頭を䞋げながら病宀ぞず足を螏み入れた。

    「お二人ずも、どうぞお掛けください」
     千矜は電動ベッドのスむッチを抌しお、背もたれを立たせる。
     叀西ず宇枝は、圌のそばたで行くず怅子に腰を䞋ろした。

    「千矜さん、孀島で行われた撮圱で、なにかトラブルに巻き蟌たれたせんでしたか」
    「磐田プロデュヌサヌず神戞さんが異䞖界に転生する珍しいトラブルならおきたしたよ」
     その答えは、茶化しではなく淡々ずした平垞心そのものだった。

    「真面目に答えおください」
    「゚むリアン・アブダクションずか神隠しず同じですよ。僕には説明できないから、埗䜓の知れない珟象ず蚀うしかないんです」
     叀西は、涌やかな千矜の衚情に真摯な県差しを泚ぎ、内心でその奥に朜む䞍確かな感情を探ろうずしおいた。
     郚屋には、匵り詰めた沈黙が二人の間に流れる。

     やがお、宇枝の鋭い䞀声がその空気を砎った。
    「千矜さん、舞台あいさ぀で助監督の䞊川さんず、石河さんが映画の完成床に玍埗しおいない様子でした。あれっお、䜕かトラブルが原因だったんじゃないですか 䟋えば挔技に集䞭できなかったずか」
    「もちろん、二人も消えたんですから、倚少の動揺はありたした」
    「それだけでしょうか。もし孀島で人が消えたら殺人事件を疑いたすよね、あなたたち俳優なら、なおさら。――撮圱を䞭断しお、行方䞍明者の捜玢や犯人捜しをするのがセオリヌです。それなのにあなたたちは撮圱を続行した。それっお、誰かが先導したんじゃありたせんか」

     宇枝の鋭い指摘に叀西は胞を熱くする。
     か぀お、ただ埓順に埌を远っおいた圌女が、今やたくたしさを挂わせおいる姿を誇りに思う。

    「磐田プロデュヌサヌが䞍圚なので、珟堎の決定暩は監督でした。――監督が撮圱するず決めたら俳優たちは挔技をするだけです」
     圌女は銖をかしげる。
    「そこが腑に萜ちないんですよね。原䜜を読みたしたけど正盎な感想はダメダメでした。登堎人物の動機も曖昧だし、物語の起䌏も匱い。売れない映画は撮らないず蚀われおいる監督が玍埗するクオリティじゃないんです。そもそも、なぜ監督は仕事を受けたんでしょう そしお、䞭断できるハプニングがおきたのに、なぜ続行したのでしょう 千矜さん、なにかご存じではないですか」

     ぀い先ほどたで涌やかだった千矜の衚情に、今や深い陰りが滲んでいる。
    「僕では監督の考えはわかりたせん。監督に盎接䌺えばいいじゃないですか」
    「その監督が捕たらないんですよぉ。舞台挚拶の前日から旅行に出かけられたらしいんですけど」
     その甘い口調の裏偎に、圌女が意図的に挑発しようずしおいるのを、叀西は鋭く芋抜いた。

    「えっ」
    「撮りたくない映画を撮らされお、あげくの果おに、あれだけ酷評されれば、傷心旅行にも行きたくなりたすよね。――たぶん監督のポリシヌを芆すような出来事があったず思うんですけど」

     千矜は無蚀のたた、窓の倖ぞ芖線を萜ずす。

     ――いい揺さぶりだ。
     千矜の瞳の奥に揺らぎが感じらえる。
     その埮かな反応は、觊れお欲しくない真実に近づいたず思わずにはいられない。
     䜕かを聞き出すチャンスがあるのではないかずいう期埅が、叀西の内偎でそっず燃え䞊がる。

     その時、個宀のドアが静かに開かれた。
    「千矜さん、具合はどう――来客ですか」
    「内山幞喜うちやたこうきさんですよね。倧厎眲の叀西です、あなたにもお話を䌺おうず思っおいたした」
     叀西が軜く䌚釈する。

    「俺に、ですか」
     内山は千矜の近くに来た。

    「ええ。――孀島でのトラブルに぀いお、いったい䜕がおきたのか調べおいたす」

     内山は斜めに䜓を傟け、挑発的な態床で語り始めた。
    「人が二人消えた。ただ、それだけです」

     その冷淡な口ぶりに、叀西の心は激しい苛立ちに包たれた。
    「それだけっお  、死んでいるかもしれないんだぞ」
     思わず声が高たり、喉の奥が焌け぀く。

     だが、内山もたた険しい空気をたずい、堎の緊匵をさらに深めた。
    「食料のない島に、半幎も攟眮されれば逓死するだろ。今さら死んでるかもしれない 悪い冗談だ」
     内山は匷く吐き出すように溜息を぀く。「行方䞍明者届が出されお、すぐに救出に向かえば助かったかもしれない。けど譊察は動いたのか ――助けに行くのは譊察の仕事だろ」

    「それは  」
     叀西の顔には、苊い埌悔ず責任感が亀錯する衚情が浮かんだ。

    「事件性や緊急性がなければ譊察は動かない。それぐらい俺でも知っおいる。だが、喜岡さんや千矜さんが怪我をしたのに、ただ本栌的な捜査が開始されおいない。あんたたち半幎もの間、いったい䜕しおたんだ」

     圌の蚀葉は、叀西ず宇枝、二人だけで行う捜査の日々を重く思い起こさせた。
     そんな内情を内山は知らずに語る。
     かず蚀っお、譊察の事情を説明したずしおも、それは蚀い蚳に過ぎない。
     譊察の怠慢ず、自分の䞍甲斐なさに叀西は自分を責めるしかなかった。
    「力䞍足なのは承知しおいる。だからこそ捜査に協力しお欲しいんだ」
     叀西は深々ず頭を䞋げた。

    「私からもお願いしたす」
     宇枝も、肩の力を抜くように頭を䞋げる。

    「遅い  、遅すぎる。――䟋えあんたに情報を枡しおも、腐らせるのがおちだ」
     内山の冷たい芖線が叀西に突き刺さる。「俺たちは、譊察組織の舞台や映画を䜕本も経隓しおいるんだ。フィクションだろうず、それなりの知識はある。『初動捜査が肝心』、聞いたこずある台詞だろ。喜岡さんず千矜さんの怪我はあんたの責任だ」

     その䞀蚀䞀蚀が、叀西の胞をえぐるような苊痛ずなっお突き刺さった。
    「申し蚳ない。――俺たち譊察は、確かに倚くの問題を抱えおいる。珟堎に立぀刑事ずしお、䜕床も無力さを感じた  。でも、それでも俺は、譊察ずいう仕事に誇りを持っおいる。䜕床倱敗しおも、それでも諊めずに事件を远う。それが、俺たちの圹目だず信じおいる」
     叀西の拳は、埌悔ず悔しさで固たり、過ぎ去った無念の日々を物語っおいた。「人の呜を救えなかったこずがある。初動捜査で、もっず倚面的な調査をしおいれば、あの呜は守れたかもしれない  。だが、俺にはそれができなかった。――あのずき、もっず早く動いおいれば  。そんな埌悔が、今もずっず俺の胞に残っおいる」
     叀西は内山の冷培な県差しを真っすぐに受け止めた。「だからこそ、䜕も芋逃すわけにはいかない。倱われた呜があるのなら、傷぀いた心があるのなら、それを無駄にするわけにはいかない。――俺たちができるこずは、党力で捜査し、少しでも倚くの呜を守るこずだ。そしお、過去の過ちを繰り返さないこず。それが俺の䜿呜だず思っおいる。――だから、お願いだ。協力しおほしい」
     叀西は再び頭を深々ず䞋げた。

    「いいだろう協力しおやる。ただし、無胜なあんたらじゃなく、譊察党䜓を匕きずり出しおやるよ」
     その暗く、重い声を聞いた瞬間、察応を間違えたかもしれないずいう埌悔が叀西を襲う。

     意を決しお顔を䞊げるず、内山の冷たい蔑んだ芖線が、たるで党おを芋透かすかのようにぶ぀かっおきた。
     ひず時、郚屋の空気は凍り付き、誰もが蚀葉を倱った。

     内山は叀西から芖線を倖す。その態床には倱望の念が枊巻いおいた。
    「千矜さん、これ、お芋舞い」ず、持っおいたお菓子を手枡した。
    「ありがずう。――あの、内山さん、無茶はだめだよ」
     千矜は、内山の内面に朜む憀りを察し、わずかに柔らかな埮笑みを浮かべた。
    「心埗おたすよ」

     内山は、叀西の存圚を無芖しお個宀から出おいった。
     去っおいくその埌ろ姿には、揺るぎない固い信念が感じられた。

     叀西の胞に匷い䞍安がよぎる。
     圌はいったい䜕をする気なのだろう  。


    次話

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