夜宮の残り香
色が迫ってくる西門で、わたしの意識は過去に飛んでいた。目線が今よりずっと低い、紺と橙色の世界へ──。
「夏祭り、友だちと待ち合わせしてるんだ」
娘が言った。
いっしょに行くけど、別行動する。
はじめてのことに驚く。
田んぼ道を家族で歩く。日は傾いてきたけれど、空はまだ明るい。照りつける日差しに汗の珠が浮かんだ。
門をぬけた瞬間、色が迫ってきた。
色とりどりの浴衣をまとった5人の女の子たちが一斉に駆けてきて、娘の手をとり、風のように走り去っていく。
娘はその中でひとり、ぽっちりと背が高く、よく目立った。淡いグレーの浴衣をひるがえして、振り返ることなく祭りの喧騒に溶けていく。
祭り特有の香ばしいにおいだけが残った。
まぶしい──。
目の前の青春を見て、わたしはこういうの経験したことがなかったなと思った。
ふるさとでは夏祭りを「夜宮」と呼んでいた。
娘のように集団で行ったことはないが、友だちが家まで迎えに来てくれて、ふたりで出かけていた。
わたしの家は、夜宮の神社のすぐ前にあったのだ。
低学年のころに身につけていたのは、白地にピンクの金魚が泳ぐ浴衣。濃いピンクから鮮やかな黄緑へグラデーションを描く兵児帯が気に入っていた。
友だちときゃらきゃら笑いながら鳥居をくぐる。
買うものは毎年決まっている。クレープだ。
バナナと生クリームが入ったクレープは、生地がぺらぺらでちょっと硬いけど、最高においしい。チョコレートソースとカラースプレーがかかっていたのをよく覚えている。
ヨーヨー釣りをする。ぼよん、ぼよん、と、手に当たっては離れていく水の冷たさを感じながら、人の波を流されないように進む。
腕を組むカップルが眩しい。
わたしもいつか恋をして、好きなひとと夜宮に行くのだろうか。
大人よりずっと低い世界から見えるのは、夕方の淡い空と、そこに鈍くつらなって光る橙色の提灯。夏の夜宮には色があふれているのに、提灯の橙色が何より鮮やかに記憶に残っている。
海に沈む直前の夕日の、熱く燃えるような濃い蜜柑色だ。
浴衣をぬいだあとも、窓から夜宮を眺める。だんだん人がまばらになっていき、夜のコントラストに浮かんだ橙色がふっつりと消える。
夏祭りの最後までいたのははじめて。ほかのママたちとしゃべりながら娘を待っていた。ひとつ、ひとつと橙色が消えていく。手を振って別れる。
家族四人でまた田んぼ道を戻る。
街灯もない真っ暗な開けた空には、無数の星が輝いていた。
(1,000字)
今月のメンバーシップの宿題で、1,000文字日記を書いてみました。
3つのテーマの中から「憧れ」を選びました。時間があればあと2つも書きます。
今月は「色」をテーマにたくさんの言葉を採集しました。自分でもやってみてすごくよかったです。とくによかったことが2つあります。
1.アイディアが生まれやすくなった
ノート自体が「アイディアが生まれるキーワード帳」になりました。
これはノートを見ながら、キーワードをつなげるようにして書いていった作品なんです。
2.「色が見える作品」が生まれた
また、ワークを経て書いたこちらの小説は、公開後にパーソナル編集者の渋谷さんに読んでもらったら「青・白という色が目に浮かぶことが多くて、すごくすっきりとしていました」と言ってもらえました。
その2色をすごく意識して書いたので、大きな変化を感じています。
8月はこんなことをやっていきます。
【8月】言葉を採集する
1.会話の断片を集める
2.擬音語・擬態語を集める
3.素敵な表現を集める
4.単語から連想語を広げる
▼メンバーシップは3ヵ月で解体するため、8月中旬までには募集を締め切ります。今後はやるとしたら最短で1年後なので、気になる方はお早めにどうぞ。
追伸、
メンバーシップの皆さまへ。7月はマガジンに回収していき8月頭になったら読んでコメントしにいきますね。また、わたしは1,000文字ぴったりにしましたが、前後して大丈夫です。目安です。
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最後までお読みいただき、ありがとうございます♡