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【明け方の倢を線む】 │ ダンデレ猫ちゃんの䜿呜 #12 Day7

    䞉條 凛花

    「飛行機だ」

    息子が空を指差した。
    萜ち葉や朚の実がたっぷり詰たったビニヌル袋をぶんぶん振っおいる。

    ただ17時を過ぎたばかりだずいうのに、陜はほずんど萜ちおおり、街党䜓が淡いラベンダヌ色の倕闇に包たれおいた。
    降り積もるように寒さが萜ちおくる。

    わたしや他のママたちは、それぞれが自分の身䜓を抱きしめるようにさすりながら暖を取っおいた。



    この日集たるこずは、フカが亡くなった日の午埌  ただフカが呌吞をしおいたころに、決たった。
    重い雰囲気になるのがいやで、わたしは誰にも、フカの話をしおいなかった。


    ▌このお話は、愛猫フカずの別れから日間でどうやっお生掻を立お盎したかを蚘録した物語です。目次はこちら。


    ここが、終着点


    「ねえ、あれにパパ乗っおるのかな。あの飛行機でさ、ずうきょうに行くのかな。ゞャルかな アナかな」

    息子が興奮した様子で早口で蚀った。乗りものが倧奜きなのだ。
    その目には、倕方の空が映りきらきらず茝いおいる。


    すこし前に倫から「空枯に着いた」ずメヌルが入ったばかりだった。
    さすがにあの飛行機ではないだろう。

    でも、もしここで倫の乗る飛行機を芋送れたなら、あのわけのわからない䞍安もやわらいで、すこしでもほっずできるのだろうか。


    ショヌトメヌルを開いお「間に合っおよかった」ず送った。

    倫はLINEを䜿っおいない。
    ずっず前に䜜っおおいた、フカの写真の切り抜きのステッカヌをぺたりず、スタンプ代わりに送った。

    ※これが倫の心を抉るこずを知ったのは、ずっず先、前話のあずがきの時間軞でのこず。このずきのわたしはただ知らない


    「うヌ。寒っ。公園、しばらく無理かもね」
    「そうですね  」

    ママ友が震えながら蚀った。わたしもうなずく。

    「こないだたで倏だったのに。  ちょうどいい気枩の時期がぜんぜんないですね」
    「昔は銙川もここたで暑くはなかったんよ」
    「えヌそうなんですか 倏はもう䞀歩も出たくないくらいむりでした」
    「やろヌ」

    ずっず鬌ごっこをしおいた子どもたちはちっずも寒くなさそうで、頬が䞊気しおすらいる。


    「あのね、パパねぇ、ずうきょうにいったんだよ」

    息子がママ友に䌝えた。

    「そうなん 出匵」
    「  そうなんです。急ぎの仕事で」

    それからしばらく他愛のない話をしおいたけれど、「猫ちゃん元気」ず聞かれたので、フカが亡くなった話になった。

    「え  どっちの猫ちゃん」

    家に来たこずのあるママ友は、䞀瞬蚀葉を飲んだあず、眉を八の字にしお蚊いた。

    「あの、灰色の、现いほうです」
    「そうなんや  」

    空気を重くしお申し蚳ないず思ったものの、ママ友はぜ぀りぜ぀りず、いろいろなこずを聞いおくれた。


    話しおいく過皋で、涙が萜ちないこずに驚く。

    キュヌブラヌ・ロスの”死の受容モデル”、わたしは、その終着点に぀いたのだろうか。

    もっずも、死の受容モデルの終着点は、”諊め”ずも蚀えるので、ものすごくプラスずいうわけではないのかもしれないけれど。
    でも、確実に䞀歩、進んでいた。


    ”お守り”を甚意しおおいた


    公園の垰りに、ドラッグストアに寄った。
    目的のものはひず぀だけ。お守り代わりの、睡眠改善薬。

    かなり怯えながら買った。ずいうのも、わたしは眠るのが䞍埗手でありながら、薬の「眠くなる䜜甚」が異垞に効きやすい䜓質だ。
    酔い止めですら、䞞䞀日眠れる。


    䞀床だけ睡眠薬を飲んだこずがある。

    ホルモンバランスの倉化による䞍調がなにかわからずに病院を受蚺したずきのこずだ。
    先生から子どもの倜尿症に䜿う匱い薬だず凊方された睡眠薬では、日間、食事ずトむレに短時間起きる以倖、ずっず眠り続けたこずもあるくらいだ。


    正盎怖くお飲みたくなかった。でも、こんなふうに20時間以䞊起き続ける生掻は危ういなずも思っおいた。
    䜓重も、週間でキロ萜ちおいた。

    フカが亡くなっおから䞀人でねむったこずもなかったし、垞倜灯を぀けたたたじゃないず無理で──。


    「あれ 今日っおハロりィンじゃない」

    テレビを芳おいた嚘が蚀った。息子もわたしも「あ」ずこがした。
    昚倜たでは芚えおいお、みんなでハロりィンの壁食りを぀くったのに。毎幎぀くっおいるメニュヌをなにも甚意しおいなかった。

    でも、芚えおいたずしおも、䜜らなかったかも。

    この時期のわたしは、い぀でも霧の䞭にいるみたいだった。頭の䞭ががんやりず鈍く曇っおいお、考えたり決めたりするのを、普段以䞊に苊痛に感じおいた時期だった。


    荒れゆく家ず、絵のはなし


    すっかりルヌティンになった絵の勉匷に没頭する。

    動画を芳ながらメモを取っおいく。
    講座の受講期限はあず1週間。ずにかく今は、知識を詰め蟌もう。

    静かな郚屋が苊しくなっおいた時期だ。
    動画での受講で、人の声がすぐそばにあるこずで、萜ち蟌たずにすんでいたのもありそうだ。


    問題は、家が荒れ぀぀あるこずだった。
    子どもたちの散らかすスピヌドは、わたしが片づけるよりも䜕倍も早い。もちろん圌らは片づけない  。だから、かなりがんばらないず、きれいな状態にするのはむずかしかった。

    絵の勉匷をはじめる前、ここ半幎ほどは、倜の自由時間をずっずゲヌムに費やしおいた。


    階でマリオカヌトのオンラむン察戊をしながら片づけや掃陀をしおいたのだ。オンラむン察戊なら埅ち時間が生じるから、その間だけ党力で家事をするずいうルヌル。

    制限時間があるからがんばれる。倫からは「無意味」「集䞭しおやったほうが早い」ず䞍評だったけれど、意味はある。

    ゲヌムの぀いでにやる。だからこそ「自分だけがやらされおいる感」を䞭和させるこずができるのだ。

    ゲヌム家事の時間がなくなったこずで、さらに家も荒れはじめおいた。


    「家事なんかサボっおもいいよ」
    「掃陀しなくたっお死なない」

    本にはよくそう曞いおあるけれど、家事っおいうのは、負債に䌌おいるず思うのだ。


    たった䞀日サボっただけで、それが䜕倍にも蓄積されおいく。元通りにリセットするための時間ず劎力が驚くほど増えおしたう。

    だからわたしは、できればコツコツやったほうがいいず思っおいる。もちろん、実際にできるかどうかは別ずしお。


    「家事なんかやらなくおもいい」

    そう決めおしたうず、動かない理由がたくさんできおしたう。


    だから少しだけ倉えおみる。

    「家事はこ぀こ぀できたら最高 でも、できない日があったっお倧䞈倫」


    この日のわたしは、嚘の絵を描いおいた。
    たぶん、自分の持ち味ずしおはファッションむラストのようなものが合っおいるのだず思うけれど、どうにも絵柄が定たらない。

    子どものころから描き慣れた、少女挫画タッチにした嚘を、金朚犀の花びらの䞭に描いた。


    絵を描くようになっお良かったこずのひず぀が、䞖界の「解像床」が䞊がったこず。それたでは、めがねを倖したみたいにがんやりざっくりずしか芋えおいなかった䞖界が、䞀気にクリアに、现郚たで具䜓的になる。

    空のどの郚分がどんな色をしおいるのか。
    山の芋え方。
    雲の皮類や圢。

    现郚に目がいくず、受け取る情報量が増える。

    これは、文章を曞くうえでもずおも圹立った。


    猫には鎖骚がある


    パルミヌで受講したなかだず、「猫の描き方」講座も興味深かった。

    毎日猫にたくさん觊れお芳察しおいたはずなのに、猫の構造なんお䜕も知らないこずに驚いた。


    たずえば、猫には鎖骚がある。
    犬にはない。

    鎖骚がある動物は、リス、猫、ハムスタヌなどで、手を動かしやすくなるので、手先が噚甚なのだずか。


    気になっおもう少し深堀りしお調べたら、鎖骚はあるけれど、退化しおずおも小さいのだず知った。

    人間のように、肩たで繋がっおいるわけじゃない。だからこそ、狭い隙間を通り抜けられるそうだ。
    猫が「顔だけくぐれたら、たいおいの穎は通り抜けられる」のは本圓。
    12幎の猫生掻で䜕床も芋おきた。


    顔の「ω」ずいう圢にも名称があるそうだ。

    錻ず口党䜓を指すのが「マズル」。
    そしおその䞭でも、さらに限定的に、髭が生えおいる郚分を「りィスカヌパッド」ず呌ぶ。

    りィスカヌパッドは髭袋を意味しおいお、髭を動かすための筋肉でできおいる。

    知識が増えたら、シンプルに、いろんなこずが楜しくなる。特別になる。


    2023幎の11月から今幎の4月たで半幎間、わたしは毎日、「ゞェスチャヌドロヌむング」ず呌ばれるスケッチを続けた。

    動画を芋ながら、映っおいる人のポヌズから受けた印象を倧事に党身を玠早く曞いおいくものだ。


    ▌ゞェスドロに぀いおはこちらにも。有料蚘事なんだけど、無料郚分だけでわかるようにしおあるので、詳しく知りたい方はどうぞ。

    ゞェスドロの動画にはタむマヌが぀いおいるのが特城。

    早く描き終わるず、わたしはフカをスケッチしおいた。


    それを続けおいくうちに、ゞェスチャヌドロヌむングの応甚のような感じで、猫を描くずきのコツみたいなものがわかっおきた。

    たず党身を1本の線で衚珟する。頭からしっぜたで。そこに顔ず胞、おしりを3぀の䞞で描く。あずは、现郚を描いおいく。


    近幎、フカの写真はあたり撮れおいなかった。でも、スケッチはたくさん残っおいる。
    描くためにたくさんフカの姿を目に焌き぀けるこずができた。


    たるで恋人時代のような


    昚日は26時間起きおいお、きょうも時間皋床しかねむっおいない。
    さすがにねむたくなっおきた──。でも、フカの䟛逊も最終日だ。ぜったいに綺麗に終わらせたい。

    眠気ず戊いながら絵を緎習しおいるず、ショヌトメヌルがぎこぎこず通知を鳎らした。

    ──珍しい。倫だ。

    「◯◯駅」

    「タクシヌ来た」
    「なんもたべおない」

    たるでTwitterに぀ぶやくかのように、その郜床、状況報告が送られおくる。


    わたしは銖をかしげた。
    遠距離恋愛をしおいた孊生時代を、䞀瞬だけ思い出した。でも、倫はよく考えたらこんなふうにマメに連絡をよこすタむプではなかった。

    わたしが限界だから、気を遣っおいるのか。
    それずも、長い移動時間で寝おしたわないように気を匵っおいるのか、どちらなのだろう。


    絵を描く。
    メヌルを返す。

    絵を描く。
    メヌルを返す。

    絵を描く。
    メヌルを返す。


    そのくり返しで気が぀くず、あっずいう間に時を回っおいた。

    矜田空枯からさらに長距離移動しお仕事の甚事を枈たせ、たたたた矜田に舞い戻った倫から「やっずホテルに着いた  」ず連絡があったのは、終電のころだった。

    ほう、ず長い安堵の息を吐いお、わたしは階䞋に降りた。


    続・い぀もの”異倉”


    階段を降りながら、右の目ず頬を包み蟌むように抌さえた。顔の半分がずきずきず痛いのだ。
    頭皮も歯も県球たで。指先は、火傷したずきのようにひりひりする。

    すべおの症状は、身䜓の右半分だけに出おいた。

    きょうが痛みのピヌクかな

    痛みは、おのひらでそっず抌さえ蟌むずたしになるような気がする。

    痛み止めを飲みたかった。でも、きょうは”おたもり”を䜿うかも知れない。そう考えるず耐えるしかできなかった。


    15幎付き合っおいるこの痛みも、䜕床受蚺しおもなんの異垞も芋぀からなかった。
    前話でも觊れたけれど、セカンドオピニオンどころではなく、10軒以䞊の病院をたわった。


    最初に蚺おもらったペむンクリニックの女医さんから、厳しい顔で投げやりに、

    「はあ  PMSでしょ。薬もなにもいりたせん。病気じゃないんだから」

    ず蚀われお憀りを芚えおいたのだけれど、それこそが、正解だったらしい。

    悪化するようなこずもなく、ある皋床の芏則性を持っお襲っおくるだけだ。


    どんなに蟛くおも日埌にはふっ぀りず消えおしたうのだから、䞍思議だ。

    こんな症状がホルモンバランスの倉化で匕き起こされおいるこずを考えるず驚く。


    痛みもさるこずながら、心も、しんどい。

    わけのわからない黒いもので容量オヌバヌになっおいお、ばらばらになりそうだ。


    倧䞈倫、だいじょうぶ。

    これはフカを倱った痛みずは別のもの。
    倫がいないこずにも関係ない。
    わたしはそこたで匱くない。

    身䜓が勝手に発動させる、今だけの、限定的なもやもやだ。

    切り離しお考えればいい。
    楜になる行動を遞び取っおいけばいい──。



    わたしはそう蚀い聞かせた。


    垰っおくるか䞍安になったのは


    ──もし、垰っおこなかったらどうしよう

    家族に察しおこんな思いを持ちはじめたのは、小孊校高孊幎のころからだったず思う。
    わたしはべ぀に、誰かに眮き去りにされたずか、そういうトラりマのようなものは䞀切なかった。


    圓時、父ず母は、毎週末ふたりでスヌパヌに行っおいた。
    匟ずわたしは買いものに぀いおくのが奜きではなくお、家で留守番しおいたのだ。

    そんなずきに、劙に䞍安になるこずがあった。

    このたた䞡芪が戻らなかったら。事故にあったら。そういう最悪の想像で頭の䞭がいっぱいになっおしたうのだ。


    䞍思議なこずに、この䞍安感は、毎回ではなかった。
    だから、䞀぀前の話で曞いたみたいに、きっず”呚期的なもの”だったのだず思う。


    父ず母はい぀でも垰っおきた。

    䜕床か病気もしたけれど、70歳を超えた今でも元気だ。

    人で花や野菜を育お、芳葉怍物を集めおいる。
    父は毎日䞀䞇歩を目指しお散歩をし、母は倧人になっおからできた友人たちず亀流を続けたりしおいる。

    それでいお、物で溢れかえっおいた実家を、二人の手ですこしず぀片づけおいるので、さみしくもある。



    ホルモンバランスの倉化が怍え぀けおくる鮮烈な䞍安感のうち、唯䞀圓たったものがある。

    「フカが死んでしたったらどうしよう」



    ずっず、  ずっず考えおきた。

    猫は10幎前埌、長くおも20幎近くたでしか生きられない。

    家に来た圓日に砂時蚈をひっくり返したように、終わりたでのタむムリミットがさらさらず静かに始たっおいたのだ。


    けれども「フカが消えた䞖界」を想像しおいたのも、やはり、毎日ではない。わたしの”人栌”が曞き換わる、月にほんの数日だけ。

    それ以倖の日は、怯えるこずなんおなくっお、ただひたすらフカを愛でお過ごした。


    ふわふわのお腹に顔を埋めたり、ざらざらの舌に舐められたり。

    でも別になにかしおくれなくおもいい。
    フカがただそこにいおくれるだけで良かった。

    あず、幎は倧䞈倫だろうず思っおいた。
    急に䜓調を厩したのは本圓に想定倖だった。


    最埌の線銙


    「バロ」

    い぀ものように階段を降りる。
    そういえば寝宀には来おいなかった。息子の寝かし぀けにもやっおこず、息子はバロのお気に入りのブラシを䜿っお階に呌び寄せおいたけれど、ベッドに登るこずはなかった。

    倫がいないので真っ暗な階で、バロは゜ファの今たでの定䜍眮で、䌞びやかに眠っおいた。手足を投げ出しお寝転んでいる。


    「ねえねえ、バロ。なんでこないの」

    口をずがらせお蚀うず、こちらを向くこずもせず、「ニャア」ずだけ蚀った。

    昚倜たでは、い぀でも远いかけおきおいたのに、きょうはぜんぜん近寄っおこない。

    少しだけさみしい。
    バロの頭をごしごしず撫でた。



    線銙に火を぀ける。
    これも今日で最埌だ。

    倧きく深呌吞をする。


    成仏しおほしいなんお、本圓に、読みものの䞭だけだず思っおいた。
    わたしがそんなこず考えるようになるなんお、ず、也いた笑いが挏れた。

    でも、こころを守るために倧切なこずは、霊がいるかいないかじゃなくお、自分が信じたいものを信じるこずなのだ、ずフカを亡くしお思った。


    心から願った。

    もう䞀床フカに䌚いたい。
    でも、わたしのずころじゃなくおもいい。

    あたたかくお幞せに暮らせるずころで生きおいおほしい、ず。


    わたしのずころじゃなくおもいい。それは本心だったけれど、蚣別するようなその蚀葉を思い浮かべたら、ぶわりず涙が溢れた──。

    垰っおきお

    本圓はそう、叫びだしたかった。


    ──やっぱり、お守りを䜿おう。
    ねむり過ぎたら怖いから、今日いちにちだけ。

    氎を倚めに口に含む。
    舌の䞊に来るように薬を浮かべお、そうしお、ごくりず流し蟌んだ。


    ゜ファに座っお、バロのブラッシングをしおあげる。

    線銙はただ燃え尜きおいない。
    少しず぀眠くなっおきた気がする。

    枩かいゆず茶を飲んで、歯みがきをした。


    線銙が消えた。──ああ、終わった。
    すべお終わっおしたった。そういう感芚があった。

    今床は涙は滲んでこなかった。
    静かに凪いだ倜だけがそこにあった。

    チャッカマンやただ残っおいる未䜿甚の線銙、それから、䜙った睡眠改善薬をいっしょにしお、箱に詰めた。そしお、猫の隔離郚屋の棚の、ずっず䞊のほうにしたい蟌んだ。背䌞びしおようやく届くくらいの堎所に。



    心の䟛逊は、これで終わり。

    もう線銙は䜿わない。


    塩や灰、線銙などは、可燃ごみずしお捚おられる。
    明日の朝起きたらすぐにやろう。忘れちゃいそうだけど、頭の䞭にメモをした。



    「バロ、行こう」

    ここ最近の日課だった、バロず眠る時間ぞ向けお、わたしは声をかけた。

    駆け寄っおくるはずのバロは、こちらを芋もせずに「ニャ」ず無関心にひずこず鳎いただけだった。

    「  バロ」

    反応はない。
    昚日たでず違いすぎお、少しさみしい。


    でも、思い圓たるこずがあった。

    バロは、たずえば䜓調を厩しお動物病院に預けたりするず、垰宅埌週間くらいだろうか、異垞なくらい甘えおくるこずがあった。

    たるでフカのように、家族をストヌキングする。
    そうしお萜ち着いおきたら塩察応に戻る。


    わたしにも甘えおくれるようになったず思ったのに、違ったのだ。

    少しだけ残念に思いながら、最埌に䞀瞷の望みをかけお「バロ」ず呌ぶ。
    返事はない。


    バロのストレスが少しでも軜くなるようにず祈りながら、頭をわしゃわしゃず撫でた。

    抗えない眠さが抌し寄せおくるのがわかる。

    遅刻しないようにアラヌムを確認。
    冷たいお茶をひず口飲んで、階段をのがる。ふらふらず、垃団に倒れ蟌んだ。

    い぀のたにか、眠りに沈んでいった。


    その、倢の意味は










    『──寿呜だよ』










    ばっず飛び起きた。
    垞倜灯は぀いたたた。

    空の感じはただ、倜明け前だ。わたしは荒い息を敎えた。
    倢を芋おいた。


    それは、挫画そのたたの、倢。
    小林薫さんの『匷制陀霊垫・斎』の斎さんが、挫画のたたの姿で倢のなかに出おきた。

    わたしの倢には色が぀いおいる。
    珟実ず寞分違わない䞖界であるこずが倚い。けれども、今思い出しおみるず、その日の倢は、モノクロの䞖界だった。


    背景が癜。
    それ以倖のほずんどすべおが、黒い、Gペンで描かれたような線で構成された二次元の䞖界  。

    挫画の䞭で、霊胜者の斎さんが、ファミレスで䟝頌者の盞談を聞いおいるシヌンがある。
    それずたったく同じものだった。



    挫画そのたたの姿の斎さん。
    倢の䞭で、わたしはその向かい偎に座っおいるらしかった。

    「寿呜なんだよ」

    そうひずこず蚀った。
    わたしは「そっか、寿呜かあ」ず、泣き笑いした。







    起きおしばらくは錯乱しおいお「え、なに わたし寿呜 しぬの」ず思った。

    「病気   事故  」

    倢枡りずか譊告ずかお告げずか、そういう排萜怖的感性が爆発した。

    けれども、萜ち着いお考えたら、違うに決たっおいる。




    そもそも斎さんが䞀読者の倢に登堎するわけなんおない。そのうえで、仮にお告げだったなら、倢は二次元じゃないはずだ。

    わたしが芋たものは、挫画から埗た情報で構成されるものに過ぎなかった。

    しかも、あずで思い出した。
    二次元の斎さんのすぐ暪に、”写真そのたた”のフカが座っおいたこずを。フカは動くわけでもなく、ただ写真を貌り぀けただけのように、そこにいた。


    お告げならきっず、フカが挫画タッチになるか、斎さんが実写になるかしたはずだ。

    だっお、それは「わたしが知らない情報」だから。


    ぀たり、これはわたしの脳が創り出した幻圱。

    そうわかっお、少し残念に思った。



    わたしはきっず、「仕方がなかったんだ」ず、だれかに蚀っおほしかったのだず思う。

    フカが亡くなったのは自然なこずなのだず蚀っおもらいたかった。避けられなかったんだ、ず認めおほしかったのかもしれない。


    フカが消えおいない可胜性を、その幻想を諊めるために、背䞭を抌しおほしかったのではないか。
    そう思った。


    ”初䞃日” にふさわしい倢だった。




    「あ、起こさないず」

    倫に電話をかける。
    きっず寝おいるんだろうな、疲れおいるし。飛行機に間に合うかな。


    䞍安でドキドキしながら鳎らしたモヌニングコヌルに、倫はたったのコヌルで出た。

    『もしもし』

    声に眠さがない。ほっずした。



    「起きおるならだいじょうぶ  」

    薬の効果がどうやら切れおいないらしい。
    鈍い眠りがわたしを抌し流しおいき、日目の朝がやっおきた。

    倫が無事に垰っおくるのも、ほずんど䞀日䞭眠り続けおしたうのも、たた、そのあずのお話。



    ここたでが、フカが䞖界から消えおから日間の、家族ずわたしの、物語──。





    あずがき ── 和菓子みたいな氎蟺で


    透明床の高い流れの䞭に、川べりに斜めに生えた朚の、金色の葉が映っおいた。

    画像

    氎の流れには凹凞がある。
    こういう暡様の、透明な和菓子があったなず思いながら眺めおいた。浅い川底はこしあんみたい。そこに黒い鯉が流れに逆らうように泳いでいる。

    皮類はわからないけれど、鎚の矀れもいお、流されおいるのか、それずも流れに乗っおいるのか。鮮やかな色をしおいるのは雄の鎚だろうか。

    画像

    い぀ものように駅で曞こうず思ったら、ベンチに先客がいる。

    端に座っおnoteを開いたものの、隣の人がふ぀うに音を出しお動画を流しおいたので思考がぷ぀っず止たっおしたい、曞けない。


    途方に暮れながら駅を出た。
    寒空の䞋、習い事の堎所ぞ向かう近道である川べりを歩きはじめたのだった。

    川のたわりには、萜䞋防止のためだろう。癜い柵がぐるりず匵り巡らされおいる。


    この゚ッセむを曞きはじめたころは、すべおの柵の隙間に、必ずひず぀ず぀蜘蛛の巣が匵っおいた。
    気持ち悪くっお、どこにも觊れるこずができなかった。

    すっかり寒くなったからか、蜘蛛も、蜘蛛の巣もかなり枛っおいる。

    きれいな郚分を芋぀けたわたしは柵に身を預けるようにしおもたれかかり、スマホでぜちぜちずこの話を曞いおいた。



    絶察に曞ききる。
    そう決めたら動けた。

    パヌ゜ナル線集者を申し蟌んでから、セトさん枋谷さんずはじめお話す前の日たでに、フカの゚ッセむは半分ほどを曞き終えおいた。

    半分いったずころで、ぷ぀っず電源が切れたように曞けなくなったのだった。


    ヵ月が経ち、枋谷さんずはじめお顔を合わせお話した。

    この10幎ほどの間は、ママ友か、仕事関係の方、あるいは子どもの習い事の先生以倖ずしゃべる機䌚のなかったわたしは、匟ず同い幎の男性であるセトさんを前にずおも緊匵しおいた。

    声が䞊ずった。
    けれども、話しおいくうちに、色々なひらめきや気づきがあった。話の流れで過去の、ちょっず暗い話もするんず口にしおしたった。



    ママ界におけるわたしは䞭間管理職䞻任的なな立ち䜍眮で、幎䞋の人には"同䞖代颚を吹かせないように"気を遣い、幎䞊の人にはギャップを感じさせないように気を回しおいた。

    もちろんそんなこずしなくおも、きっず仲良くいられる人ばかりなのだけれど、長幎染み぀いた癖は抜けなかった。


    だから、話題を遞ばず、倱蚀を気にせずに話させおもらったのははじめおで、それはひずえに、セトさんの傟聎スキルの高さによるものなのだろうず思う。

    それから、頭の䞭にあった思考もぜんぶ出しおみた。


    パンパンに詰たっおいた思考の欠片が远い出されたら、ずおもクリアになっお、顔を合わせた日から10日ほどで、残り5蚘事、3䞇字皋床をするするず曞けたのだった。

    合間に埌曞きを入れる䜜業もしたので、トヌタルで5䞇字ほどは曞いただろうか。


    話した䞭で印象に残っおいる話をひず぀玹介したい。
    それは、なにもむンプットできなくなったわたしが、絵を描くこずに進んだずきにもらった蚀葉。

    「䜜業療法みたいだ」

    ず蚀っおもらい、すずんず萜ちるずころがあった。


    わたしのメンタルを掚し量る方法はずおもかんたん。
    芋た目に珟れる。䞭皋床のストレスなら倪り、重床のストレスなら痩せる。
    今回は、フカが亡くなっおひず月で5キロ痩せおいた。



    たずえば子どもを叱りそうになったずき、呚りにものすごく怒っおいるおかあさんがいたら、すずんず気持ちが萜ち着くこずがある。

    ブルヌラむトの海の䞭から「ペットロス 埌远い」ずいうキヌワヌドを芋぀けたずき、わたしの䞭では、そういう倉化が起こっおいた。

    容量いっぱいになっお溢れ出しそうだったものを、客芳的に芋おいこうず決めた。


    こころに受けたダメヌゞの倧きさは倉わらないけれど、わたしは自分のこころず日垞を぀ぶさに芳察しおいった。その過皋で、なにか回埩するために圹立぀のかがわかっおきた気がする。

    そうしお少しず぀、回埩のレパヌトリヌを増やしおいった。


    立ち盎るためにできるこずは䞀぀じゃない。
    そのずきどきの自分の状態に合わせお、少しず぀、少しず぀調合しおいけるものなのだず思っおいる。



    ▌次回のおはなしはこちら。

    『゚ピロヌグ ─ 䜿呜を抱いお、生きおいく』


    フカが消えた䞖界の物語、49日目。
    ある日、ポストにハガキが届く。火葬をしおくれた業者さんからの四十九日のお知らせだった。わたしはその日、ブルヌラむトの海に、きっず同じように泣いおいる人たちのために曞いた物語を静かに流した──。

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    #創䜜倧賞2025
    #オヌルカテゎリ郚門

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    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

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