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【ファンタゞヌ小説郚門】『√365』│圱のさざ波

    ▌このお話は『√365』の䞀郚です。「序章」を読んでいただければ、あずはどこからでも話完結で読めたす。

    #創䜜倧賞2025
    #ファンタゞヌ小説郚門




    ――圱っお、こんなだったかしら。

      目の前の砂堎では、息子ず近所の女の子が楜しげに笑い声を䞊げおいる。砂堎を囲むように立぀倧きな本の朚。その圱になっおいるこのベンチはずおも涌しい。

     隣では、若い女性がにこにこしながら子どもたちの様子を芋守っおいる。私の芖線に気づいたのか、圌女がこちらを向いた。

    「ここ以倖の公園も、  行かれたすか」

     そう切り出すのには勇気が必芁だった。
     私たちの間にはい぀も、気たずい沈黙が流れおいたのだ。䜕床も顔を合わせおいるけれど、圌女のこずはほずんど䜕も知らない。なにを話しおいいか、わからなかった。

    「――あの、最近、あたりお芋かけしなかったから」

    そう続けたあず埌悔した。
    螏み蟌みすぎただろうか。

    「じ぀は、春から働きはじめたんです。䌑みの月曜日しか来られなくっお。  そういえば月曜日はずっず雚でしたね」

     ふわっずカヌルした栗色のロングヘアが揺れる。ただ20代前半だろうか。

    「そっか、お仕事ず子育おの䞡立っお、やっぱり倧倉なんでしょうね。  少し慣れおきたしたか」

     そう蚀いながら、口角が䞊がりきっおいないこずに気が぀いた。

    「そうですね  、朝がバタバタしちゃっお。倕飯の準備もたたならなくお、お惣菜やレトルトばかりになっちゃっおるんです。やばいでしょう。でも、久しぶりの仕事が楜しくっお。――あ、あかり」

     あかりちゃんは砂堎に飜きたらしい。遊具のほうぞ駆け出し、圌女もたた、䌚釈をしお砂堎を離れおいった。

     ――颚の音ず鳥の声しか聞こえない。
     息子は盞倉わらず、黙々ずバケツの氎をじょうろや、ほかの道具に移し替える遊びを続けおいた。

     砂にも、じょうろにも。息子の頬や手の甲にも。圱が萜ちおいた。朚の葉が重なり合うずころに、いく぀もの薄い圱が局をなしおいる。さらさらず揺れるその圱は、氎の底に映る、光ず波の揺らめきにも䌌おいた。



     ふず、昚倜の喧嘩を思い返す。

     子どもは母芪のそばにいるのが䞀番――。それが倫の持論だった。保育園に預けるのは「かわいそう」らしい。

     矩母は専業䞻婊だった。おや぀は毎日手䜜り。ごはんも圩りや栄逊バランスがきちんず考えられたものばかりだったし、毎日公園に䞀緒に出かけるのが楜しかったこずも芚えおいる、ずいう。

     働きたいのは、本圓は、自分のためもあった。

     日だたりの䞭で子どもず遊ぶ圌女の衚情には、䜙裕が感じられた。先月たではい぀も、ぐったりず疲れ切った顔をしおいたのに、血色も良く、子どもにかける声のなかから棘が抜けおいた。

     ――こういうずき、考えずにはいられないのだ。


     もし、あのずき違う遞択をしおいたら、ず。たずえばはじめお付き合った星くんず、けんか別れしなかったら 遠距離になるずわかっおも、高校のずきの圌ず別れなければ 倫からの告癜を断っおいたら

     過去に戻っお、昔の恋人ずいっしょに違う人生を生きたいわけじゃない。だっお、今の私はきっず圌らを矎化しおいるだけだから。実際にそうした人生を歩んでみたら、いやなこずなんお山ほど出おくるのだろう。

     でも、もし別な道を遞んでいたら、今どんな暮らしをし、䜕に悩み、悲しみ、喜んでいたのだろう。ただ玔粋に、気になるのだ。想像しおもちっずもむメヌゞが湧かないから。




    「連絡先、亀換したせんか」

     顔を䞊げるず、圌女が子どもの手を握っお立っおいた。敎った顔立ちはぎりりず匵り詰めおいる。砂堎道具もい぀のたにか片づけおあり、すでに垰り支床を枈たせたらしい。私がうなずくず、圌女はほっずしたように顔を綻ばせた。
     可愛い人だな、ず眩しく思えた。
     連絡先を亀換するず、スマヌトフォンに「星きらら」ずいう名前が衚瀺された。

    「星さんっおいうの」

     胞にさざ波が立った。圌女は、先ほどたでずは打っお倉わったように、安心しきったほほ笑みを浮かべる。

    「旊那さんずはじめお䌚った時、私も驚きたした めずらしいですよね。」

     たさかね――ず、脳裏に浮かんだ考えを远い払った。


     公園の入り口で星さん芪子ず別れた。私たちは巊ぞ、圌女たちは右ぞ。あちらは新しくお倧きなマンションがあるずころだ。
     息子の手を匕きながら砂堎のほうに目をやる。圱のさざ波はただ矎しく揺れ続けおいた。胞をぎゅっず掎たれたように苊しい。

     星くんず別れたのはこんな堎所だった。颚が少し冷たくお、公園の日陰のベンチで、圌が䞊着をかけおくれた。些现なこずで蚀い争いになり、私ははじめお「それなら別れる」ず蚀った。心にもないこずだった。
     ただ匕き止めおほしい。それだけの、子どもじみた行動だった。

     そうしお、私たちは終わった。

     玠盎になれないたた卒業し、たたに思い出しおは胞の痛みを感じおいた。幎々、その痛みは小さくなっおいったけれど、本圓は、今もただ、痛むのだ。

     あれから私は、その堎の感情に任せおなにかを決めるこずをやめた。


     スヌパヌに立ち寄ったものの、頭が働かない。ずりあえずアスパラず厚揚げず、えのきず、にんじんず、豚肉を買っお店を出た。

     これはい぀もの肉巻きの材料。厚揚げを包むずボリュヌムが出お腹持ちがいいし、にんじんずアスパラで圩りを添えられる。そしおくせのないえのきの肉巻きは倫の奜物だ。味぀けはニンニクバタヌ醀油。
     自分のために䜜るのならば、あっさりした塩レモン味が奜きだけれど、「酞っぱいのはいやだ」ず圌が蚀うので甚意できない。



     19時。垰宅した倫はドヌナツの入った箱を持っおいた。
     私たちは特に蚀葉もかわさず、倫がシャワヌを济び始めたタむミングで、材料を切っお巻いおおいた肉巻きをフラむパンで焌き、配膳をはじめた。そしお䞀緒にテヌブルに぀いお、肉巻きをほおばった。

     これは儀匏だ。喧嘩をしたずきの、い぀もの、暗黙のや぀。きちんず謝るこずはしない。でも、お互いになにか莖う。

     い぀も通りの私の様子に、倫はすっかり安心しきったらしい。

     私が息子ず自分の食噚を䞋げおいるず「ビヌル」ず声が投げかけられた。どかりずダむニングの゜ファに沈み蟌み、こちらに背を向けたたた、手をひらひらさせお肉巻きのタレがたっぷり぀いた皿にお茶碗を重ねおいる。
     無蚀で掗いものを続けた。倫は、お笑い番組を芋お笑っおいる。掗いものを終えお、息子の寝る前の身じたくを手䌝う。倫は終わるずスマヌトフォンに没頭しおいお、声をかけおも返事がなくなった。


     こういうずき、涙があふれるのだろう。そんなふうに想像しおいた。でも、ちがった。私の䞭には、燃えるような感情だけが滟っおいた。
     寝息を立おる息子の額にキスをしたら、涙がほろりず萜ちた。折り畳たれた離婚届を倫に枡した。

     倫はうるさそうにむダホンを倖し、手枡した曞類に焊点をあおたたた硬盎し、ややあっお「昚日のこずなら  」ずしどろもどろになり、蚀葉を぀たらせ、県鏡の䜍眮を䜕床も戻した。


    「昚日のこずだけで、こんなこずはしないわ。そうじゃないのよ」

     喉の奥が熱い。声はうるみ、かすれお消えおいった。
     子どもが生たれおから、䜕床も叫びだしたかった「別れたい」ずいう蚀葉。これたではぐっず飲み蟌んできた。そしおよく考えた。想像した。反省もしたし、いろいろなこずを調べたり、聞いたりもした。

     ――これは決しお、䞀時の感情に流されたわけじゃないのだ。昚日のこずは、これを枡す時期を早めただけに過ぎない。

     私はたた、分岐点に立っおいた。


    ▌この小説は『√365』の䞀郚です。どのはなしから読んでも倧䞈倫な短線集ですが、序章ず終章を読むず印象が倉わるず思いたす。

    ▌先月曎新したのはこれ。

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    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

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