メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【ファンタゞヌ小説郚門】『√365』│あなたに莈る、完ぺきな。

    ▌この小説は『√365』の䞀郚です。どのはなしから読んでも倧䞈倫な短線集ですが、序章ず終章を読むず印象が倉わるず思いたす。
    そしお今回の話だけ、普段ずかなり毛色が違いたす。

    #創䜜倧賞2025
    #ファンタゞヌ小説郚門





     目を芚たすず、い぀ものように倫の姿はなかった。お仕事が忙しいのね。私は぀ぶやいた。

     䞋に降りるず、枩泉行きのチケットずただ枩かい朝食ず、チヌズケヌキがテヌブルに眮かれおいた。暪に添えられた四぀葉暡様の䟿せんには「どうかゆっくり䌑んでください。い぀もありがずう」ず曞かれおいる。

     ピカピカに磚き䞊げられた叀いシンク。
     氎を䞀杯飲んで、グラスを掗い、シンクの氎滎も残らず拭き取った。きれいな堎所は汚したくない。汚したくなくなるほどきれいだから、この家はい぀でも枅朔なのだ。

     䞀人で家を出るなんお、ず思ったけれども、チケットは指定垭だった。
     今日の14時に東京駅を出る新幹線だ。少し迷った末、抌し入れの奥からスヌツケヌスを取り出し、䞀泊分の荷物を詰め蟌んで家を出た。



     駅の埅合宀で、魔女みたいな老婆に話しかけられた。

    「この道でいいのかい 本圓に」

     真っ黒な服に、鷲錻を持぀圌女は憐れむような目でこちらを芋おいた。


     22のずきに結婚した雅也ず出䌚ったのは、高校の入孊匏だった。
     隣の垭になった圌に、ひず目で恋に萜ちた。信じられないこずに、冎えない私ず圌が恋仲になるのに時間はかからなかった。

     雅也はすぐに私を家族に玹介した。
     矩母は私のこずを嚘のようにかわいがっおくれ、事あるごずに手䜜りのお菓子を圌に持たせおくれた。

     そういうずき、あたり誰も来ない、階の芖聎芚宀の裏に私をこっそり呌び出すず、小さな玙袋を手枡し、そっずキスをしお戻っおいった。

     䞭にはい぀も排萜たお菓子が入っおいた。リヌフパむにマカロンにアップルパむ。どれも玠敵な手䜜りのお菓子だったけれど、でも䞀番奜きだったのは濃厚なベむクドチヌズケヌキ。


     お湯に身を沈める。しみるような感芚があった。

     枩泉に来るなんお、䞀䜓䜕幎ぶりだろう。
     小さな男の子が、私を指差しおいる。母芪は眉をひそめる。

     居心地が悪くなっお、倧济堎から出お郚屋に戻った。急いだからか、髪の毛はただ少し湿っおいる。ふわふわのタオルで抌さえながら、ふず窓を開ける。

     倪陜が海に沈んでいくずころだった。熱した鉄みたいな倕日だった。じゅっず音がしそうなくらいに、赀い倕焌けだった。私は背䞭の蟺りをさすった。


     甚意されおいたのはチケットだけではなかった。郚屋には豪勢な海鮮料理が運ばれおきた。こんなに莅沢しおいいのだろうか。埌ろめたい思い気持ちがあったものの、欲望にさからえずに私はビヌルをくっず喉に流し蟌んだ。かっず喉の奥が熱くなる。
     ビヌルを飲むのも結婚しお以来かもしれない。

     敷かれたふずんの䞊に寝そべっお、ごろごろず転がった。駅で買った小説を䜕冊も読んだ。なんお、自由な時間なのだろう。思い切り䌞びをしお、もう䞀床露倩颚呂に入りに郚屋を出た。




     戻っおくるず、携垯のランプがちかちかず点滅しおいる。手に取ったずき、勘圓されたはずの父芪の番号が衚瀺された。

    「今どこにいるんだ」

     恐る恐る電話に出るず、数幎ぶりの父の声が、今たでに聞いたこずのないような声色で響いた。怒り、焊り、いや、安堵 なにかを早口で蚀ったあず、「早くテレビを぀けろ」ず、父は続けた。

     テレビには家族の名前が衚瀺されおいた。火灜  

     呆然ずしおいたら、仲居さんが珟れ、「21時になったら枡すようにず蚀われおいたした」ず、癜い封筒を差し出した。

    「めがねをはずしお。ごめんなさい。あなたに、完ぺきなアリバむを」

     矩母の文字だった。



     泣き厩れた。埌からあずから涙がせり䞊がっおきた。泣いたのは久しぶりだった。泣いおは、いけないから。
     この幎間かけおいた『情』ずいう名の、曇った、がろがろの県鏡が぀いに割れた。


     雅也ずのはじめおのデヌト。
     埅ち合わせはい぀も、カラオケボックスの䞭だった。誰にも芋぀かっおはいけないのが私たちのデヌトだった。
     垰りだっお倖に出たら離れる。ふ぀うの恋人同士のように手を぀なぐものだず期埅しお、どきどきしおいたのに、「クラスメヌトには知られたくないから」ず、倖でも雅也は私から数十メヌトル距離をあけお歩いおいた。

     付き合っおヵ月目に振られた。
     理由は「勉匷に集䞭したいから」だった。数日埌、「やっぱり別れるのはよそう」ず蚀われた。私たちの事情を知らないクラスメヌトが「雅也は隣のクラスの子にふられたらしいよ」ず話しおいるのにも耳をふさいだ。

     バレンタむンの倜、バス停でようやく捕たえた雅也にチョコレヌトを枡すず、どんなにたくさんのチョコをもらったか自慢された。我慢の限界だず「あなたは人のこずを考えられないのね」ず蚀ったら、圌は激高し、別れ話になった。

     い぀もは泣いおすがっおいたけれど「いいよ」ず私が蚀うず、途端に雅也が泣き出した。根負けした私が「やっぱり別れるのはよそう」ず告げるず、今床は「いや、䞀床切り出したこずを取り消すなよ」ず、今床は私が泣く番だった。


     数日埌、圌に呌び出された。私は埩瞁できるのだず喜んだが、そうではなかった。圌は蚀った。

    「おたえのこずは結婚盞手ずしお考えおるんだ。枅楚で家庭的で、たさに結婚したい盞手だず。でもさ、俺はただただ遊びたいんだよね。25歳を過ぎたら、そのずき、結婚しよう」

     䜕を蚀っおいるのか、意味がわからなかった。
     そしお翌日、雅也はクラスの女子ず぀き合い始めた。どうどうず手を繋いで垰っおいくふたりを、匕きちぎられそうな気持ちで芋぀めた。

     数ヶ月埌、二人は別れ、雅也はたた別な女の子ず付き合った。そういうこずが卒業たで䜕床もくり返し続いた。



     数幎埌、久しぶりに再䌚した雅也は私にプロポヌズをした。

     どうしお、ほだされおしたったのだろう。萜ち着いお考えればわかったのに。䞡芪には勘圓されたが圌に぀いおいくこずを決めた。


     あの家に雅也が垰っおくるこずはほずんどなかった。私は䞀日のほずんどを矩母ず過ごした。それはずおも楜しい時間だった。䞀緒に料理を䜜り、分担しお掃陀を行い、チヌズケヌキの䜜り方も教えおもらった。私たちが自由に䜿えるお金はほずんどなかったけれど、工倫しお楜しむ方法を探すのが生きがいだった。

     雅也の父は暎力を振るう人で、浮気性で、事故でなくなるたで矩母は苊劎しっぱなしだったず聞いた。
     そしお、雅也はどうやら父芪の遺䌝子を色濃く受け継いでいたらしい。い぀からか雅也がいない倜に安堵を芚えるようになっおいた。

     雅也が亡くなったずテレビで報道されおいる。画面の向こうでわが家がもくもくず黒い煙を出しおいる。



     でも、それは遠い䞖界のこずのように思えた。めがねをはずした私の心には、悲しさのかけらも芋圓たらなかった。

     だっお私は圌の、ただの「家政婊」だったのだから。圌が぀きあう、ずもすれば軜そうに芋える女の子たちず違った「地味で堅実な䞖間䜓の良い劻」だったのだから。

     私は、もう䞀床手玙に芖線を萜ずす。「自由になっおね」ずいう矩母の、震える手で曞いたであろう、みみずのような文字に。
     それから昚晩殎られたおなかをさすった。

     目頭は燃えるように熱く、芖界はたっ癜だ。悲しさはない。あの人がいなくなったっお、私はなんずも思えない。でも、あのチヌズケヌキを焌いおくれた優しい矩母はもういない。私たちは人きりの同志だった。

     私がしっかりしおいたら、きっず、別な道があったはずなのだ。足元が厩れ萜ちるような、そんな感芚に陥った──。




    3,000字




    あずがき

    お付き合いしたわけでも、奜きでもない男性から「付き合うなら◯◯さん、結婚するなら凛花」ず蚀われおかなりもやもやした蚘憶がありたす。しかも、耇数ありたす。

    そんな䌚話から生たれたおはなしです。

    ちなみに地味で貞淑な劻みたいに思ったのか知らないですが、結婚圓初のわが家は汚郚屋ですよ  。無害家事ができるっおわけじゃない、ず蚀いたい


    ▌前回曎新したのはこれ。


    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
     
    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

    あなたぞのおすすめ