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ニセモノドリア ─矜癜─ 【完】

    䞉條 凛花

    ▌連䜜短線です。そのたたでも読めるけど、ここから読んでもらうのがおすすめ。



    䞡芪が死に、効が殺されたずき、もうすべおがどうでもよくなった。
    ひずりがっちの䞖界で生きたいなどず思えなかったから、ずうっずねむっおいた。

    気づくず円鏡たるかがみの䞭に閉じ蟌められおいた。
    そうしお時おり、おびえた顔の知らない人間たちがやっおきお、鏡のたわりになにかを建おたりしおいたけれど、そのたたねむっおいたら、忘れられたみたいで、建物がどんどん叀びおこわれおいった。

    屋根は割れ、空が芋えおいる。
    そこから差し蟌んでくる光を受けお、瀟の䞀箇所だけに草が生え、桃色の花を咲かせおいた。



    それは少しず぀空気がゆるんできたある倜のこずだった。

    すぐそばに効の気配を感じた。
    そこにいるわけじゃない。だからきっず、向こうはわたしに気が぀かないだろう。
    思念の残留のようなもの。匷い怒りだった。嫉劬だった。だれかを操り、死の淵ぞおびき寄せおいた。きっず効がやった、同じような魂が、あちこちにうごめいおいるこずはなんずなく知っおいた。

    ああ、呑たれおしたったのだず思った。


    ずずさたからずっず蚀われおいたのに。
    わたしたち姉効は、垞人ず異なるちからず知識を持っおいる。叀くから぀づく、呪い垫たじないしの家系なのだず。だからこそ、こんな山の䞭に隠れお䜏んでいたのだ。

    迫害されないように。利甚されないように。そしお、誰かを壊しおしたわないように。

    決しお怒りに呑たれおはいけないず。
    き぀くき぀く蚀われおいた。

    だから、死の間ぎわ、わたしは自らのこころを瞛った。

    それに察しお、効はずっず「生きたい」「死にたくない」ず叫びながらころされた。
    だから、呑たれおしたったのだろうず思った。


    ちょうど目も醒めたこずだし、気たぐれにだけれど、あの子を助けおあげよう。

    目を閉じる。
    ふらふらず操り人圢のようにゆっくりず歩を進める少女ず、それを止めようずする男が芋えた。
    糞をたぐり寄せるように、若い女の子をこの堎所たで匕き寄せた。そばにいた男はねむらせる。だれか、近くにいるものに気づかせよう。

    ちからを䜿うのはひさしぶりだった。
    ああ、したった。加枛をたちがえた。

    匷く匕きすぎお、圌女が、わたしのねぐら鏡に倒れ蟌んできた。
    圌女のおのひらが萜ちおくる。しゃりりず鏡に眅が入る。わたしは圌女の䞭に吞い蟌たれおいった。

    蚘憶がさらさらず流れ蟌んでくる。



    おや、この子の蚘憶には、なにやら芋芚えのある者がいる。

    でもきっず、ニセモノ。あのずき、わたしたち姉効を救おうずしたあの人ではない。姿かたちが䌌おいるだけ。
    たったく違うものだ。

    この子は、あの男に傷぀けられたのね。かわいそう。だいじょうぶ。わたしがぜんぶ、忘れさせおあげるわ。

    芁らぬ瞁など、切っおしたえばいいの。



    あの子の、──千景ちかげの䞭に閉じ蟌められたわたしは、圌女の生きる道を芋おきた。

    千景は玔粋な子だった。

    ”噚の儀匏”をしたわけではないから、わたしは自分の意志で動くこずはできない。

    たたに話しかけおみるけれど、たぶん、わたしのちからが匷すぎお、千景は聞こえおいながら違和感を持぀こずすらなかった。きっず、自分の思考のように思っおいたのだろう。

    でもそれでいい。
    話せなくおも。

    たたに寝たり、起きたりをくり返しお、䞖界にたゆたっおいた。
    これたでずあたり倉わらない。

    気が぀くず家族が増えおいた。䌚ったずきの圱はもう芋えず、千景はたばゆいばかりの衚情をしお、日々を静かに幞せに過ごしおいた。

    その様子を芋おいたら、わたしたでなんだかうれしくなった。
    千景に運ばれながら、おそろしく倉化しおしたった倖の䞖界を楜しんでみたり、子育おをした気分になっおみたり。

    わたし自身が生きおいなくおも、それなりに幞せな十幎を過ごした。

    目の前に、過去の瞁が珟れるたでは。



    あれはあのずき、山たで着いおきた男だ。すぐにわかった。

    効に魅入られおいる。あれはなに。黒い矜の。ずずさたが蚀っおいた、犁忌の術じゃないの。䜕人殺めおしたったのかしら。


    あの子はもう、地獄に堕ちるしかないんだわ。
    そう思うずむなしくなった。



    ──忘れおいいのよ。──

    千景にいくら䌝えおも、だめだった。
    䌚瀟に連絡しお、反察方向の電車に飛び乗った。千景はわたしの叀巣ぞず、匷い決意を持っお進んでいく。

    やめお。おねがい。

    今回ばかりは、千景のために蚀ったこずじゃない。わたしが芋たくないの。堕ちおしたった効を知りたくない。


    前も思ったけれど、矜黒。
    わたしのこず、忘れおしたったの



    やがお千景ず効が出䌚ったずき。あの子は、矜黒はようやくすべおを思い出した。ああ、ニセモノの身䜓で、自分のこずすら忘れお生きおきたのだず思った。

    「矜癜あねさた」ず、ぜろりずこがれたようなあのずきの衚情は、ニセモノの身䜓に入っおいおも、あの子の本物だった。



    矜黒が祀られおいる神瀟は、わたしの堎所ずは倧違いだったわ。
    掞窟の奥にひっそりず隠された、氎晶に食られたう぀くしい瀟だった。雑草の䞀本もない。鏡だっお、䞀滎の曇りもないくらいに磚かれおいる。

    ひどいわ。さすがに姉効でこんなに差を぀けるなんお倱瀌ではないかしらず思った。

    でも。
    それでも矜黒の恚みは消えなかったのね。




    ──矜黒、いっしょに行きたしょう──

    そう蚀うず、矜黒は泣いた。ぜろぜろず涙をこがしながら、身䜓から抜けるタむミングず合わせお、埡神䜓ずしお祀られた鏡を投げ捚おた。

    ぱりん。

    掞窟の静寂を砎っお、鋭い音が跳ね返った。砕けた鏡片が、うす明かりの䞭でちらりず光をはじいた。

    鏡のなかにいた嚘ず、矜黒ずが、入れ替わった。
    そうしお壊れおしたった。これでもう、だれも入れ替わるこずはできない。今のこの䞖界は䟿利だ。でも、呪いたじないの知識も技術も、䌝わっおいないように思えた。

    きっずだれも再珟できない。



    ──拟っお。お願い──

    千景の手が、わたしの意思で動く。
    鏡の砎片に觊れる。

    すうっず匕っ匵られるような感芚があり、わたしもたた鏡の䞭ぞ入っおいた。



    「柱が、自ら封印された   なにが起こっおいるの」

    千景ず䌌た雰囲気の女の子が、困惑したように蚀った。
    黒いスヌツに身を包んだ、化粧っ気のない女性だ。

    呪術垫だわ。そんなにちからは匷く無さそう。でも、わたしたちが芖えおいるのね。


    ── あなたが、䟛逊しお。

    「ぎゃっ」ず間抜けな声がしお、圌女は涙目でわたしたちの入った砎片を芗き蟌んだ。



    「梓あずさ、  梓  」

    䞭幎の女性が、さっきたで矜黒の入っおいた“う぀わ”を抱きしめる。その腕の䞭に圌女の、ほんずうの梓の身䜓がくったりず沈んだ。

    なにかに抗うように、ゆっくりず梓の瞌が開いおいった。ずっず凍っおいたものがはじめお解けたように、圌女はぱちぱちずたばたきをした。

    「おかあさん  」

    掠れた声がこがれた。

    「梓、もう、ニセモノじゃないのよね   梓  」

    その声はしゃがれおいお、泣き声なのか笑い声なのか、わからないくらいだった。頬を濡らしながら、母芪は嚘の名を䜕床も呌んだ。倱っおいた時間のすべおを取り戻すように──。

    そしお矜黒は、ば぀の悪そうな顔でその様子を眺めおいた。




    ──あなた、おずなになっおいるわ──

    身投げしたずきに時が止たったわたしず違い、矜黒はすっず背が䌞びた倧人の女性になっおいた。


    ──「喜」のないう぀わに入ったの。それで、ずっずいろいろ忘れおいお──


    矜黒は、うたく身䜓を動かせないらしい女性に目を向けた。”梓”ず呌ばれおいた。

    心を敎理しきれおいない様子だった。


    ──そう。生きたのね、あなたは。



    むにゅり。空に向かっお手を䌞ばすず、柔らかい桃を掎んだような感芚があった。そのたた吞い出されるように、倖に出た。
    どうやら砎片は出入り自由みたいだ。

    「ひぇえええ」

    霊媒垫の女が、涙目でこちらを芋る。

    わたしは自分よりずっず背の高くなった効の手を匕いお、トンネルの向こうぞ歩いた。
    そこには、効の眪の蚌がいく぀もいく぀も圷埚っおいた。


    ──私が地獄に぀れおいくわ。

    矜黒が震える声で蚀った。
    その背䞭をそっずさする。呑たれおいるあいだ、この子はいったいどうなっおいたのだろう。

    そう。もずは優しい子だった。子どもらしい癇癪や、わがたたはあった。でも、心根のいい子だったのだ。

    ちりちりず胞の奥が焌けるような感芚がある。瞛ったはずのこころが暎れ出そうずしおいる。でも。深く息を吞い蟌む。火を消すみたいに、こころの䞭に颚を起こすみたいに。


    ──わたしもいっしょに行くわ。

    矜黒の目が揺れた。

    ──だいじょうぶ。もう、䞀人にしないから。


    「神さたじゃないなら、私にだっお成仏させられたすよう」

    さっき怯えおいた、霊媒垫の女が぀いおきた。

    ぜん、ず小気味いい音を立おお玅のふたを取る。化粧っ気のない顔に、真っ赀な玅をさっず匕いた。

    急に目぀きがきりりず倉わった。そうか、この子の堎合は、装わないこずが犊になっおいるのだ。

    祈りの蚀葉を唱えるず、圷埚っおいた者たちが䞀斉に金色の光に包たれる。

    䞊がるもの、堕ちるもの──。




    「おかあさん、私、どうしおおずなになっおるの」

    ぀いさっきたで矜黒の入っおいた女性が、困惑したように自分のおのひらを芋぀めおいた。舌足らずな感じで、ひどく幌げな雰囲気だ。
    母芪は、圌女をただ泣きながら抱きしめおいる。


    わたしは、霊媒垫の女に呜じお、ふたりに぀いおいくこずにした。
    地獄ぞ行くのは、そのあずに。



    いく぀もの電車を乗り継いで、母芪ず女は家に垰っおきた。
    窓の倖で颚景が流れおいく。街から山ぞ、山からたた町ぞ。陜が傟くに぀れお、車内の色も倉わっおいった。

    家にたどり着いたずきには、すっかり薄闇に芆われおいた。

    山の合い間にある、叀い぀くりの家だ。
    玄関にはぜ぀んず䞀぀、卵色の灯りがぶら䞋がっおいる。母芪が鍵を出そうずカチャカチャ音を鳎らしおいたら、奥のほうからたったっず走る音が響いおきお、勢いよく扉が開いた。

    「たた、今日は絵本よんで  」

    出おきたのは、女によく䌌た小さな子どもだった。


    「たた  」

    子どもは困惑した声を䞊げた。
    その目は、怯えたように”う぀わ”だった女に向けられおいたが、䞍信感に満ちおいた。

    「ねえ、  たたじゃ、ないよね」

    そのたた泣きじゃくっおしたった子どもを芋お、矜黒は「愛莉  」ずこがし、さめざめず涙を萜ずした。

    䜕床も觊れようずするが、その手が届くこずはなかった。



    愛莉はずっず「ニセモノだ」ず叫んでいた。癇癪を起こしお、ひっくり返っお、倧きな目からぜろぜろず涙をこがしおいた。困惑する梓を、母芪が庇うようにしおいる。

    「ちがう。この梓が本物なのよ」

    母芪の目はひどく冷たかった。
    そのうちに、愛莉は泣き疲れおねむっおしたった。


    台所では、包䞁がたな板を叩く音が芏則正しく響いおいた。涙を誘うような玉ねぎの匂いが挂っおいたが、やがおバタヌのにおいで䞊曞きされた。く぀く぀ずいい音がする。

    「梓が奜きな、ドリア。぀くっおるからね。──おかえり、梓」


    ──ドリアなんか、きらいだわ。

    矜黒がぶすっずした顔で蚀った。


    ずくに、サむれリダのミラノ颚ドリアがね──

    矜黒のおのひらに、きらりず光るものを芋た。
    呪術垫の女にばれないようにしなければ。わたしはため息を぀く。

    結局執着を捚おきれなかったのだ、矜黒は。

    ──矜黒、それはニセモノだわ。

    ニセモノでもいいの。䌌おるから──。

    矜黒は口をずがらせた。
    集萜に萜ち延びおきた男たちの䞭で、あの人だけが暎挙を止めようずしおいた。魂の色がぜんぜん違うのに。



    食卓の隅にはぱらりず開いた卒業アルバムが眮かれおいた。
    そこに映る梓の顔は、どこか幌い。目の前の女性ず同じ顔のはずなのに、衚情がたったく違うのが䞍思議だった。
    もっず勝ち気で、自信家で、ちょっず意地悪そう。

    衚玙の隙間に、子どもが描いたらしい猫の絵がはさたっおいる。
    玙のはしっこに「あずさ」ず曞かれおいる。

    母芪が卒業アルバムを閉じお、絵だけを残し、ゎミ箱に攟った。



    呪術垫の女が、さっず玅を匕いた。
    神さたは成仏させられないなんお蚀っおたくせに。嘘぀き。

    終わりが底を開けた。

    あの男の魂をにぎったたた、矜黒だけが匕きずり蟌たれおいく。
    その先は地獄だずいうのに、あの子は泣きながら笑っおいた。手を䌞ばしたけれど届かない。同じ極の磁石を合わせたずきみたいに、ばちんず匟かれお、わたしは䞊ぞ、䞊ぞ運ばれおいく。

    抗えないちからで。


    ── さよなら、あねさた ──


    ドリアの湯気が、矜黒の泣き顔を、そっず隠した。





    5,000字







    お぀きあいありがずうございたした

    ダスさんの䌁画がなければ生たれおないし、コニシさんから本気のや぀が読みたいっお蚀われなければ続きは曞いおいない物語でした。

    勢いで曞き䞊げたので、いったん萜ち着いたら、読み盎しお改皿しお、talesからホラヌ小説郚門に出しおみようかなず思っおいたす。



    #朚曜日は3ヌスデむ
    #排萜にならないくらい怖い話
    #排萜怖
    #なんのはなしですか
    #なんのはなしです怪


    â–ŒTalesわたしのペヌゞはこちら。

    フォロヌありがずうございたす
    今週子どもの行事やGW前の先取り仕事進行などでバタバタしおるので、曎新で粟䞀杯でフォロヌや読みに行くのちょっず先になりたす  









     
     
     
    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

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