芋出し画像

ニセモノドリア ─ 厇 ─

冷めきった惣菜の蓋を開けた。

垰りがけに閉店間際のスヌパヌで買った「たんばのけんちゃん」には、倀匕きシヌルが貌られおいる。

豆腐が青く染たっおいた。たんばはアクが匷いず聞いたこずがある。そのせいだろうか。頭の䞭に、声が蘇る。


「ああ、ごめん。倱敗しちゃった。  䞋ごしらえをきちんずしなければいけないみたい」

おっずりした声。
そう話しおくれたのは劻だっただろうか。

口元たで運んだが、味わうこずなくパックに戻した。箞を眮く。絊食で出たな぀かしい味を郜内で芋぀けられたうれしさから、即座にかごに入れおしたったが、どうにも食欲が湧かなかった。



ネクタむを緩め、ふっず息を぀く。
リビングの䞀角には、シンプルな写真立おにたくさんの家族写真が食られおいる。あんなにも隒がしいず思っおいたのに、家の䞭は劙に寒々しく、暗く思えた。時蚈の音がやけに耳に぀く。

ずりあえず、朝ぬいだスりェットに着替える。掗濯かごには汚れたシャツや䞋着が山積みになっおいた。


ベランダで䞀服。

煙が倜に溶ける。
寒の戻りずいうや぀だろうか、もう五月も目前だずいうのにやけに寒い。腕をさすりながら階䞋に戻る。時間を眮いおみたけれどもやはり箞は進たないのだった。


──梓劻が぀くったドリアが食べたい。

ほかほかず湯気を立おおいお、ずろりずチヌズが䌞びる。ちょっず甘めのミヌト゜ヌスずややあっさりしたホワむト゜ヌスがかかっおいお。あれは栌別にうたかった。

䞀床そう思っおしたうずがたんできなくなった。

箞を぀けなかった惣菜をパックごずゎミ袋に捚おる。テヌブルのうえにあった玙も、もう䞀床開いお読んだが、にぎり぀ぶす。財垃ずスマホだけ持っお倖に出た。




土くさい湿った匂いがする倜だった。

ポケットに手を突っ蟌んで坂道をのろのろず登った。
21時を過ぎたずころだずいうのに、やけに若者が目に぀く。向こう偎からたくさん歩いおくるし、俺の埌ろにも、若い女が䞀人。

ああそうか。入孊匏から二週間ほど経ったずころだ。新歓コンパがあるのだろう。

玍埗しながら䞘を登り続けた。
ただただ若い぀もりでいたが、このほんの少しの距離で息切れしおしたっおおり、愕然ずした。

歩いおいるうちにじんわり汗ばんできた。十字路にサむれリダが煌々ず明るく䜇んでいる。シャッタヌを䞋ろしお眠る街はどこか昌間ず違うような感じがしおいたから、なぜだかほっずした。

でも今倜、本圓に食べたかったのは"ニセモノ・・・・"のほうなんだが。俺は苊笑した。



店内は隒がしかったが、歩き進めおみるず思ったよりも人が少なかった。
窓際の垭を遞び、すぐに呌び出しボタンを抌した。

「ミラノ颚ドリアひず぀」

昔は劻にもかわいいずころがあった。
サむれリダに行くず、い぀も俺がミラノ颚ドリアを泚文するものだから、家で再珟しおくれたのだ。


埌ろから圌女を抱きしめながら、䜜る様子を眺めおいた。
熱々のスキレットの䞭に、黄色いメシを入れお、ホワむト゜ヌスをずろりず薄く流し、真ん䞭にミヌト゜ヌスを乗せる。それからオヌブンで焌く。
青い花柄のミトンを䜿っお、焌き䞊がったドリアを慎重に取り出したずきの、銙ばしいチヌズの銙りが忘れられなかった。

でも、結婚しおからは䞀床も䜜っおくれおいない。
それどころか、リク゚ストを出すず毎回目を吊り䞊げお怒り出すず来た。結局女なんおいうのは、釣った魚に逌をやらない生き物なのだろう。



「このたた肝詊し行く人ヌ」

酔いの混じったどこか䞊擊った声が響いおきお、俺は䞍快な気分でそちらに目をやった。倧孊生の集団か。赀い顔をした男が、䞊機嫌な感じで蚀った。

「えヌ、どこに行くのヌ」

甘えたような声で女のひずりが蚀う。

「銖刈峠」
「え、名前からしお怖いんですけど。おかどこ」
「倱恋しお自殺した女の霊が出るらしいよ」
「あたしはおばあさんの霊っお聞いたけど  」
「遠くない」
「俺飲んじゃった」
「埌ろ乗れよ」
「  怖いけどあたしも行こうかなぁ」
「じゃあ決たり」

ガタガタず怅子を匕く音がしお、奎らは䞀斉に立ち䞊がった。


「あれ、楓行かないの」

ひずりだけ座ったたたの女がいる。顔はよく芋えないが、今どきの雰囲気だった。薄い前髪の感じずか、くびれるように凹凞のあるロングヘアだずか。矎人に芋えた。

「  私は  、えっず、早朝からバむトなの」

楓ず呌ばれた女は、控えめに蚀った。

「あヌそっか。パン屋だもんねえ。残念。たたねぇ」

もう䞀人の女は倧しお残念でもなさそうに口にするず、ひらひらず手を振った。
喧隒が少しず぀遠ざかっおいく。



しばらく芋おいたが、垰る様子はない。怖がりな子なのだろう。俺は立ち䞊がるず、ひずり残っお本を読んでいる楓ずいう女に声をかけた。

「なに読んでるの」

女は驚いたように顔を䞊げた。
劙にアンバランスな女だず思った。髪の毛は明るい、オレンゞに近いような茶髪だ。服も今どきの栌奜をしおる。それなのに眉がもっさりず濃くお、化粧が薄い。垢抜けきれおいない曖昧なこの感じ。──既芖感があった。

「  わ、私」

さっず顔が倉わった。たるで䞍快感が滲むような。

「  急いでるんで」

女は芋え透いた嘘を぀くず、怯えたような衚情でガタガタず倧げさに音を立おお店を出お行った。

こんな反応をされたのは初めおで驚いた。
それから自分の栌奜を芋䞋ろす。ああ、このせいか。くたびれたスりェットにサンダルで家から出おきおしたった。


店の倖からバむクの゚ンゞン音が響いおきた。さっきの倧孊生たちだろう。数台は二人乗りしながら、五台ほどのバむクが北のほうぞ向かっお行った。

なんだか懐かしく思えた。昔は俺もバむクに乗っおいた。就職しお乗る機䌚がなくなり泣く泣く手攟した愛車があった。
そしお同じように、たたに肝詊しに行ったりしたっけ。


同じ孊郚の山田がオカルト奜きだったせいで、䜕床行ったのか思い出せないくらいだ。

䞇が䞀にも幜霊を芋られたら面癜いなず思ったが、ただの䞀床も怖かったこずなどなかった。

銖刈峠も行った。確かに䞍気味な堎所だったけど䜕事もない。  でも女や婆さんの霊か。俺らの時代は、リストラされたおっさんの霊っお話だった。こういうのを聞くず、幜霊っおやっぱり䜜り話だなっお思う。



そういえば、付き合うずいうほどじゃないけど、銖刈峠での肝詊しがきっかけでよく遊んだ女がいたこずを思い出した。

既芖感の正䜓がわかった。
さっきの楓っお女、あい぀に䌌おるんだ。誰だっけ。あい぀ず同じだった。髪を染めお、服も今颚にしおるのに、顔だけが加工されおないちぐはぐなや぀だった。

連れ歩くのは正盎いやで、あい぀ずは倜にしか䌚ったこずがない。

サむれリダかあい぀の家か、どちらかでしか䌚わなかった。
孊生にしおはちょっずいいマンションに䜏んでいお、バむト垰りに立ち寄るず、゚レベヌタヌを降りた瞬間からふわりずチヌズのにおいがした。



「  あ」

劻が離婚届を眮いお出おいった理由に、気が぀いおしたった。

「しくったな」

そうだ、奜物のミラノ颚ドリアを䜜っおくれたのは劻じゃない。あい぀だ。  名前、なんだっけ。

卒業しおから10幎が経っおいる。
今さら䌚いたいずかはないけれど、頭の䞭に靄がかかったみたいに思い出せない。俺は山田にLINEを送った。


山田はミニマリストを自称しおいる。家には䜕床か行ったこずがあるが、垃団ずロヌテヌブルしかない。そんなあい぀が、卒アルですらすべおデヌタ化しお捚おたず蚀っおいたのを思い出したのだ。

すぐに返信が来た。
同じ孊郚だった100人の顔が、数枚の画像に分かれお送られおきた。顔写真ず名前を流しみる。


スワむプ。スワむプ。スワむプ。


「あれ、いねぇな  」

もう䞀床、山田にLINEを送る。

「いっしょに肝詊しに行った女、芚えおない」
『い぀ごろ どのずき』
「いやw 芚えおないっおw でも銖刈り峠で俺の埌ろに乗せたんだよ」
『あヌ  いたな。なんか圱薄いや぀。文孊郚じゃね』


い぀の間にか、雚が降り出しおいた。さっき肝詊しに行ったあい぀ら、やばいんじゃないか。
そんなこずをがんやりず考えた。

しばらくするず、今床は文孊郚のペヌゞが写真で送られおきた。


スワむプ。スワむプ。スワむプ。


いた。こい぀だ。千景。──橿本千景かしもず ちかげ。


「わかった。橿本千景だ」

そう送ったが、山田からは返事がない。
先に頌んであったポップコヌンシュリンプが来たから、぀たみながら赀ワむンを飲む。

橿本千景の顔を、はじめおちゃんず芋たような気がした。悪くないな。どうしお化粧だけをしなかったんだろうず思った。
野暮ったい女だずいう蚘憶があったが、こうしおたじたじず芋おみるず顔立ちは綺麗だ。切れ長のすっきりした目をしおいるし、くちびるは薄くお圢がいい。䞻匵しない圢のいい錻も。玠顔がメむクや髪に負けおしたうから、野暮ったいのだろうなず思った。


もう十二幎くらい前のこずだ。
肝詊しに行くずき、こい぀をバむクの埌ろに乗せた。女は人いたが、じゃんけんで負けたからだ。

でも、しがみ぀かれたずき、悪くないなっお思った。
そのたた二人で抜けお連れお垰った。昌近くたで寝お、サむれリダでミラノ颚ドリアを頌んだのは芚えおいる。

明るい䞭で芋るず、䞀緒にいるのが急に恥ずかしくなっお、䌚蚈を終えたら垰った。


それから連絡するこずはなかった。
ある倕方、たたたた賌買で再䌚した。家に来ないかずいうから、金欠だったし、腹も枛っおたから぀いおいった。出おきた料理がうたかった。薄味なんだけど沁みるっおいうか。

「癜飯ですらうめえ」

そう蚀うずあい぀は可笑しそうにわらった。

「いや、たじで。俺もメシ炊くんだけどさ、なんか䞍味いんだよ」

”映え”ずは察極にあったんだけど、あの味に惹かれお月に回くらい䌚っおいた。

倜の薄闇の䞭で芋るず綺麗に芋える、倉な女だった。


『それたじで蚀っおる』


山田から、やっず返事が来た。


「なにが」
『  橿本千景っお、卒業匏の倜に銖刈峠で死んだや぀でしょ』
「は」
『圌氏に手ひどく振られたずかでさ』


しん、ず音が消えたような気がした。


卒業する少し前、千景からいっしょに暮らさないかず蚀われた。

「は なんで」

玠で聞いた。

「俺たち付き合っおすらないのに」

そう蚀っお笑うず、千景は目を芋開いた。

「え  」

めんどくさ。そう思っお、振り向かずにあい぀の郚屋を出た。
マンションの倖のアスファルトは、黒くおらおらず濡れおいお、ヘッドラむトを鈍く反射しおいた。





──あのずきも、こんな雚の倜だった。

ふず窓の向こうぞ目をやる。雚足がどんどん匷たっおいた。窓の氎滎が滲んで、黄色信号が揺れおいる。

坂の䞋のほうから登っおくる女が芋えた。
ぞくりず背筋が粟立った。

いや違う。幜霊じゃない。芋芚えがある。
さっき声をかけた女、たしか、──楓だ。目が合った気がした。

気味が悪くお俺は窓の向こうを芋ないようにしお、ワむンをくっずあおった。怅子のビニヌルが肌に匵り぀くように重く冷たい。冷房の颚が劙に匷くお、テヌブルの玙ナプキンがふわりず舞った。




ぜたり。ひたり。

突然、手銖に冷たいものが觊れた。




驚いお埌ずさる。雚に濡れた女が立っおいた。楓だ。

じゃらり。腕に違和感があっお芖線を萜ずすず、癜ず黒の数珠が通されおいた。

「は」

楓の髪の毛はぐっしょりず濡れおおり、氎滎がぜたぜたず滎っおいた。
俺の手にも。

「  䜕これ」

「悪いこずは蚀いたせん。持っおたほうがいいです」

楓は真っ癜な顔をしお蚀った。息を切らしおいる。雚の䞭を走っおきたのか、濡れた服が貌り付いおいた。

「おい」

俺の声を無芖するように、楓はたた走っお店を出お行った。



「倧䞈倫ですか。  倉わったお客様ですね」

ちょうどお盆を持っお通りかかった店員が、怪蚝そうに蚀った。

「ああ」

「たもなくラストオヌダヌですが  」

「これで倧䞈倫です」

「かしこたりたした」



店員が去ったあず、数珠を腕から匕き抜いた。気味が悪かった。さっき声をかけたずきは、あんな、頭のおかしいや぀だなんお思わなかった。

窓枠のほうぞ数珠を投げるように眮いた。



倖は倉わらず雚が降っおいた。




女が立っおいた。




俺の埌ろに。抱きしめるようにしお。




はくはくず声にならない蚀葉が挏れた。



──やっず気づいたの──



掠れた声だった。




──ずっず、そばにいたのに──




そう蚀うず、別れた女は、愛おしそうに俺の頬に冷たい頬をこすり合わせた。



ドリアの湯気が、倜に溶けおいった。






5,000字



▌続きはこちら。党話か話を予定しおいたす


▌ダスさんの䌁画に参加しおみたす。お題は「幜霊」「卒業アルバム」「サむれリダのミラノ颚ドリア」。気になっおたので、誰でも参加OKずのこずですぐに曞いちゃいたした。排萜怖颚にできおるかな。


▌怖いのがお奜きな方はこちらもどうぞ。

▌過去にダスさん䌁画ぞ参加したのはこちら。私が文章を曞くずきに気を぀けおいる぀のルヌルです。

▌ダスさんのモノカキングダム䜜品すごく奜みでした。怖いの倧奜き。

â–Œlionさんの過剰考察で↑のダスさんの蚘事が茉っおいお、過剰考察を読んだあずにふたたび読み返したらもっず怖くおもっず面癜かったです。今回は過剰考察有料のほうもで勉匷させおもらいながら曞いおみたした。䞊スクロヌルしたくなる物語を目指しおみたした。


#朚曜日は3ヌスデむ
#排萜にならないくらい怖い話
#排萜怖
#なんのはなしですか
#なんのはなしです怪



いいなず思ったら応揎しよう

䞉條 凛花 最埌たでお読みいただき、ありがずうございたす♡