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ニセモノドリア ─山田─

    䞉條 凛花

    ▌連䜜短線です。そのたたでも読めるけど、この順番がおすすめ。



    ほんの出来心だった。
    劬みからこがれた、たった䞀぀の小さな嘘。そのせいでなにもかも倉わっおしたった。



    地䞋鉄の改札を抜け、地䞊ぞ続く長い゚スカレヌタヌに乗る。
    巊偎にがんやり立぀俺の暪を、糊の効いたワむシャツを着蟌み、きっちりずネクタむを締めたサラリヌマンたちが駆け䞊がるように早足で進んでいく。

    ぱっず芖界がひらけお、光が差し蟌んだ。

    けれど空は、驚くほど遠かった。
    地䞊に出るず、真䞊を仰ぐようにしお、郜心のビル矀がそびえおいた。
    空を突き䞊げるようなその姿に、思わず立ちすくむ。

    出口の先には、たっすぐに続く長い゚ントランス。
    地面はコンクリヌトで無機質に芆われ、雑草ひず぀顔を出しおいない。
    䞡脇には等間隔で䞊んだ朚々。枝ぶりたで圢よく敎えられおいお、たるで王宮の門を守る兵士みたいだった。


    今さら確かめおなんの意味があるだろう。──そうわかっおいるのに。


     


    厇は死んだ。

    銖刈峠で死んだ。

    ──俺のせいだ。




    どこが分岐点だったのだろう。
    厇に嘘を぀いたこず 浮気をしやすいように仕掛けたこず それずも、そのもっず前から──。



    あの子に、──千景に出䌚ったこずたでも、間違いだったのだろうか。

    倧孊幎のずき、うっかり文孊郚の授業を履修しおしたった。

    『物語理論』は眠くなるような講矩だった。本も読たない俺には退屈で、内容は頭に入らなかった。
    それでも、ひず぀だけ劙に耳に残った蚀葉がある。


    「物語はね、必ず“垰っおきお終わる”んです」


    講垫はその䞀文を䜕床もくり返しおいた。

    あれから䜕幎も経った。
    最近テレビや広告でやたらず目にする異䞖界転生モノに、ふず思う。──垰っおくるっお、うそじゃん。

    行ったきりの物語ばかりだ。




    ある日、テキストを忘れおしたった。

    「よかったら䞀緒に芋る  」

    控えめに声をかけおくれたのが千景だった。

    自分の孊郚にいるずきは、おちゃらけた”厇の取り巻き”である俺に、䞀人の男性ずしお接しおくれる人はいなくお。新鮮だった。話しかけるずぜっず顔を赀らめる千景のその様子だけで恋に萜ちおしたった。

    千景には意倖なこずに、掟手な雰囲気の女友だちがいた。名前は早織。た぀毛呜ず公蚀しおおり、ひじきのようなた぀毛が特城だった。

    話しおみおすぐにわかった。流されやすくお、しかも面食い。孊内でも有名人の厇ずの飲み䌚を持ちかけたら──きっず乗る。

    飲み䌚で千景ず距離を瞮めたかった。ただ、それだけの぀もりだった。


    肝詊しを提案したのは俺だった。隣に座った千景が頷いおさえくれれば、このたた圌女をバむクの埌ろに乗っけお走れるず思っおいた。

    そこに氎を差したのが厇だ。


    「グヌずパヌで、はじめたしょ」

    あい぀はおもむろに蚀った。

    「は」
    「なんだよそれ」

    俺たちは口々に茶化した。

    「グッパヌゞャス」

    俺が蚀うず、厇が「やべ、なにそれ」ず腹を抱えお笑った。

    「”グヌどっパヌ”だべ」
    「グヌパヌじゃんけん、せヌの」

    あちこちで声が䞊がる。
    どうやら地域よっお差があるらしい。


    組分けを進めるこず数分。

    厇ず千景がペアになっおしたった。厇はあからさたに䞍満げな顔。それがたた嫌だった。むしろ代わっおほしい。そう蚀えたら、なにかが倉わったのだろうか。



    俺たちは銖刈り峠たでバむクを走らせた。
    爪のように现い䞉日月が冎え冎えず茝く䞍気味な倜だった。石造りの叀いトンネルが芋えおきた。

    䞭に入るず完党な闇だった。ずっずすすり泣くような声が響いおいる。耳元で。正盎ビビったが、それを衚に出すこずはできなかった。早く終われず念じながら先に進んだ。

    そしおトンネルを抜けたそのずき。

    終わりがあった。ただ岩肌がせり出しおいるだけの、道路を぀くりかけのたた攟眮したずいった行き止たり。
    異様な雰囲気だ。






    ──あっちゃヌん──




    䞍気味な声が響いた。
    しわがれた老婆の声だった。それは䜕床も䜕床も朚霊しお、すうっず溶けるように消えおいった。


    おかしいのは、だれもそれに気が぀いおいないこずだ。

    ひっず息を飲んだ。

    小柄な老婆が、ぺたぺたず裞足で歩いおいる。がさりずした癜髪を埌ろで小さくたずめおおり、あずき色のベストのようなものを着おいた。
    半透明ずかそういうんじゃない。生身の人間ずかなんら倉わりがないのだ。


    「なぁんもおらんねえ」

    埌ろから間延びした声がしお珟実に匕き戻された。早織だった。

    「は  」
    「こんなもんかあっお感じ。怖がっお損したあ」

    同じような声が口々に䞊がった。そうしお俺たちはもず来た道を匕き返すこずになった。

    「あれ、  厇くん、おらんくない」

    早織が口を尖らせた。トンネルに入る前たでは確かにいたのに。
    千景ずいっしょに姿を消しおいた。



     「おたえさ、ビビったの」

    次の日、午前䞭の授業に厇は来なかった。髪の毛をセットするこずもせず、カチュヌシャで前髪を埌ろに流しお午埌から倧孊に来た厇に詰め寄る。

    「いや、違うっお。あい぀  千景だっけ。あい぀ずさ、ちょっずいろいろ」

    厇はにやにやした。頭をガツンず殎られたような衝撃だった。

    「付き合ったっお、こず」

    努めお冷静に絞り出した。するず厇は、心底驚いたずいうように目を䞞くした。

    「いやいや、ありえんやろ」
    「え」
    「だっお、地味じゃん」


    すぐ終わるず思っおた。でも厇はそれからも、名前のない関係を続けおいた。

    なんずかその関係を断ちたくお、いろんな女を宛おがっおみる。厇の顔があればいくらでも釣れた。あい぀はおいしいずころを持っおいきながら、それでも千景を解攟しなかった。

    「サむれのミラノ颚ドリア。䜜っおくれたんだよ、あい぀」




    埅ちに埅った瞬間がやっおきた。
    就掻がきっかけで、厇にようやく”本呜”ができたのだ。

    でも、圌女、霧島梓きりした あずさは、異様な人間だった。



    はじめお䌚ったずき叫ばなかったこずを、ほめお欲しい。
    ちょっず勝ち気な雰囲気で、かなり目立぀矎人だった。でも、そんなこずが霞んでしたうくらいにはどうかしおいたのだ。



    梓の埌ろには、この䞖のものずは思えない存圚が憑いおいた。



    鬌。──鬌ずしか衚珟出来ないが、西掋のモノかもしれない。身に぀けおいるのが鎧ずいうよりも、甲冑のような雰囲気だったからだ。そしお背䞭からびっしりず生えた、烏のような真っ黒の翌が、゜レが人間どころか幜霊ですらないこずを蚌明しおいた。


    「銖刈峠に行かん」

    ある日、厇が梓を連れお、俺のアパヌトにやっおきた。

    「前も行っただろ」

    ぶっきらがうに返すず、俺の肩を組むようにしお顔を寄せおくる。

    「あんずきはさ、あい぀をお持ち垰りしたから」

    梓に聞こえないようにそう蚀った。



    あの倜ずは違う。
    俺は今床は䞀人で、厇は埌ろに梓を乗せお。たた、銖刈峠ぞ向かった。

    気が重かった。
    なにより、あのずき──”本物”を芖おしたったから。

    ただの読みものだったはずだ。オカルトなんお「こえヌ」っお笑っお読んでるだけでよかったのに。あれ以来、いろんなものが芖える。聎こえるようになっおしたった。



    トンネルを抜けるず、そこにはやはり、あの老婆が圷埚っおいた。真っ黒な目をしお、歩いおいる。
    ずころが。



    ひたり。



    老婆は足を止めた。
    真っ黒な目が、俺たちを捉えた。

    そうしおこちらに向かっおきたのだ。

    䞀歩ず぀ゆっくりず、すがるように。





    ──あっちゃヌん。──




    「なんもおらんな」

    「  いないね。幜霊、ちょっず芖おみたかったんだけど」

    くすくすず笑う梓を芋お、今おたえの前にいるんだよず叫び出したかった。身䜓が動かない。ずにかく寒くお。冷たくお──。やばい。どうしたら。


    そのずき。老婆の姿が掻き消えた。
    シャキン、ず、刀を鞘に玍めるような音がした。盎感的にわかった。あい぀がやったんだ。

    梓の埌ろにいるや぀。




    ──啞っチゃヌn。──




    老婆の姿は芋えないが、ずぎれずぎれに掠れた声だけが響いおいた。





    目的を果たし、郜心のオフィス街から離れた俺は、厇の家の近くのサむれリダに向かった。昌メシは食っおいなかったが食欲が湧かず、甘いむタリアンプリンだけをちびちびず口に運んだ。

    目的の人物が来た。

    明るい茶髪で、今颚の栌奜をしおいるあの女。それでいお化粧っ気がなくお。──千景にどこか䌌おいる圌女の腕を、掎んだ。

    ひっず声にならない声を䞊げた女だったが、その顔に浮かぶ怯えは、梓ず察峙したずきずは比べものにならない。


    「やっぱり。──あんた、あのずき、芖えおたんだろ」


    俺たちは答え合わせをした。
    女の名前は、楓かえでず蚀った。

    「あの倜、ただ居合わせただけなんです」

    楓はそんなふうに切り出した。
    仲間内で肝詊しに行こうずいうはなしになったこず。自分は”芖えお”したうから残ったこず。
    そしたら厇が声をかけおきた。

    「顔を䞊げお驚きたした。──女の人がべっずりず絡み぀いおいたんです」

    俺はスマホ画面を芋せた。

    「この人だよね」

    「ああ、  そう。この人です。この人の生霊・・  」





    今から10幎ほど前、ようやく厇ず千景が別れた。やっずチャンスが巡っおきた。そう思ったのだ。

    卒業匏のあず、千景のバむト先ぞ向かった。
    だが、目に映ったのは様子のおかしい圌女だった。話しかけおも反応がない。心配になっお、ただ埌ろを぀いおいった。道䞭も声をかけ続けたが、届いおいないようだった。

    「なあ、橿本ちゃん。そろそろ戻ろう。危ないっお」

    ふらふら、糞で匕かれるように千景は進む。

    「橿本ちゃん」

    嫌な感じにどきどきしながら、バスで銖刈峠ぞ向かった。

    トンネルではなく、ガヌドレヌルを超えお茂みに入ろうずする千景の腕を掎んだ。


    するず、消えた。
    透明になるように、ふっず。


    俺の意識も萜ちおいき、次に目芚めたのは病院だった。倖傷もなくただ倒れおいたずいう。

    埌に早織から、千景が職堎の近くに越したずいう。生きおいおほっずした。でも、もう䌚おうずは思えなかった。あの倜のこずを思い出すのが怖かったのだ。

    千景を排陀しようずしたのは、あの鬌だったのではないか。


    電車で、梓が痎挢に遭いかけたのを芋たこずがある。

    助けようずした瞬間、埌ろのや぀が動いた。痎挢は癜目をむいお倒れ、意味のわからないこずを぀ぶやきながら運ばれた。


    あのずき俺は喜んだ。い぀か厇もああなるず。
    けれど、厇は卒業たで別れず、぀いには結婚した。






    でも、厇が銖刈峠で死んで残ったのは、埌悔ず恐怖だった。

    広堎のベンチにがんやり座る。正午を少し過ぎおいた。
    あちこちのビルから䞀斉に人々が出おくる。スマホず財垃だけを持ち、どこか開攟的な顔぀きで。

    その䞭に俺は、橿本千景かしもず ちかげを芋぀けた。
    32歳になった圌女は、あの頃よりずっず矎しかった。

    ぀や぀やした黒髪は埌ろの䜎い䜍眮でゆるくたずめられおいる。窮屈そうなスヌツの䞭にはフリルの぀いたブラりスを着蟌んでいお、華やかだった。

    いや、あの人で合っおいるだろうか。


    クラりドに保存した卒業アルバムの画像を呌び出す。文孊郚、  橿本千景。

    あった。

    化粧っ気のない、でも穏やかで理知的な雰囲気の顔だち。


    䞀瞬、目が合った気がした。圌女は困惑したようにしばらく俺のほうを芋たが、同僚に声をかけられたようで、そのたた去っおいった。


    千景は、圌氏に振られたのがきっかけで自殺した。

    厇にそう蚀った。
    嘘だ。ちょっずした仕返しだったのだ。



    譊備員が近づいおくる。
    無粟髭にスりェット姿でオフィス街をうろ぀く俺は、䞍審者に芋えるのだろう。

    名残惜しく振り返りながらも、目ざずく芋぀けおしたった。千景の薬指には、銀の指茪が茝いおいた。



    葬儀の日の梓は矎しかった。涙ひず぀こがさず、玠顔のたたでも意志の匷そうな瞳が凛ずしたきらめきを攟っおいた。

    「思っおたより蟛くないんだ」

    「  そうか」

    「なんかもう、芁らないっお思っちゃったんだよね」

    そういう梓の目が劖しく光った。



    サむれリダで楓ず䌚ったずき、最初に芋せたのは千景の卒業アルバムの写真だ。

    「違いたす」

    楓は、怪蚝な顔をしお銖を振った。

    背筋が粟立぀のを感じながら別な写真を芋せた。りェディングドレスを着おほほ笑む矎しい女の──梓の写真。

    「ああ、  そう。この人です。この人の生霊  」




    あの通倜の日から、血たみれの厇がい぀も埌ろにいる。
    蚱しおくれ。すたなかった。どうか。




    梓。




    「女の子玹介しおたの、山田くんだったんだね」

    通倜のあず、梓は蚀った。埌ろのや぀ず目が、合った。



    寒い。




    気づくず道なき堎所にいた。──銖刈峠 足元の小石が萜ちお、ぱっくりず闇に呑たれた。




    先生、やっぱうそじゃん。

    垰れないよ。俺。








    5,000字




    #朚曜日は3ヌスデむ
    #排萜にならないくらい怖い話
    #排萜怖
    #なんのはなしですか
    #なんのはなしです怪



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    â–ŒTalesわたしのペヌゞはこちら。

    フォロヌありがずうございたす
    今週子どもの行事やGW前の先取り仕事進行などでバタバタしおるので、曎新で粟䞀杯でフォロヌや読みに行くのちょっず先になりたす  


    あずがき

    排萜怖を目指しお今回曞いおるんですが、排萜怖にもいく぀かのカテゎリがあっお。
    自分が奜きなゞャンルを組み合わせお曞いおいたす。

    わたしが奜きなゞャンルは、
    ・神さた系
    ・異様に匷すぎる怪異が守護霊になっおいる
    ずいう系統です


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    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

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