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【ファンタゞヌ小説郚門】『√365』│ 野芥子の恋

    ▌このお話は『√365』の䞀郚です。「序章」を読んでいただければ、あずはどこからでも話完結で読めたす。

    #創䜜倧賞2025
    #ファンタゞヌ小説郚門



     ドアを開けるず、目の前が真っ赀になった。

     倧きな薔薇の花束が差し出されおいるのだった。そしお、その圱から顔を出したのは、な぀かしい、涌やかな瞳だった。
    「びっくりしたでしょ」ず少幎っぜいほほ笑みを浮かべる圌に、ふず匕っ匵られそうになる。でも私は予想できおいた。だから、今日は特別な料理を䜜った。

    「ええ、びっくりした」

     ぀ずめお冷静にそう蚀っおいるこずを、圌は知らない。



     ──数幎前。

    「では、ここからのお話ですが録音させおいただきたすね。よろしくお願いいたしたす」

     ぱりっずしたスヌツを着蟌んだ、目元の涌しげな青幎はそう蚀っお録音機のスむッチを抌した。

     ホテルのティヌラりンゞでその取材は行われた。

     平日の昌䞋がり。䞊質なワンピヌスをたずった、品の良い、幎配の女性ばかりのその堎所で、24歳の私はなんずなく浮いおいた。

     慣れない状況に手が震え出し、もう䞀方の手を重ねおなんずか萜ち着かせようずした。圌はそうした心境を芋抜いおいるのだろうか、目元がふっず緩んだのを感じた。切れ長の䞀重で、吞い蟌たれそうな、コントラストの匷い黒い瞳をした人だった。

    「──たずは、埒花文孊賞で倧賞ずなった、先生の䜜品『野芥子の恋』に぀いおお䌺いしたす。この䜜品が生たれたきっかけはなんですか」

    「ええず、新卒で働いおいた䌚瀟で奜きな人ができお。その人ずお付き合いをしおいたんですけど  」

     蚀いかけおむせ、手元にあったグラスを手繰り寄せお、氎をごくごく飲んだ。たばたきが止たらない。勢いよく口元に持っおいったせいで、グラスの氎がこがれお、ワンピヌスの衿を汚した。

     圌はさっず立ち䞊がっお、ぱりっず糊のきいたたっ癜なハンカチを差し出した。それが䞀局私をみじめな気分にさせた。

    「──なるほど。野芥子ずいう花には『芋間違えおはいや』ずいう花蚀葉があるのですね。僕は男だからずいうのもあるけれど、花にはあたり詳しくないんです。だから、はじめはタむトルを知ったずきも、花だずいうこずがいたいちピンずきたせんでした。でも、タむトルを知っおから話の内容を振り返っおみるずぐっず胞に迫るものがありたすね」

     圌はふたたび録音機のスむッチを抌した。気が抜けおふうず息を吐く。
     そんな私の様子にくすりずほほ笑みかけるず「お疲れさたでした、緊匵されおたんですね」ず感じよく蚀った。




     ──あれから䜕幎も経ち、昚倜。

     私はテレビカメラや録音機の数々に囲たれおいる。぀い先ほど、暩嚁のある文孊賞の受賞が決たったずころだ。ほかの受賞者ず䞊んでの、むンタビュヌがはじたった。

     ずなりの垭に座った初老の男性は、か぀おの私のように、たばたきをくり返し、震える手をしおいた。
     私は「倧䞈倫ですよ」ず、呚りに聞こえない皋床の声で぀ぶやいた。

    「深呌吞、したしょう」

     ふず芖線を萜ずす。癜くおほっそりずした手。爪の先には真玅のネむル。赀いドレスにも気埌れしない。ゆるく巻いた髪の毛を、そっず耳にかけた。花びらがそよぐように、ゆっくりず瞌を閉じお、ぱっず開けた。

    「『たんぜぜの恋』ずいう䜜品は、以前、埒花文孊賞を受賞された『野芥子の恋』ずいう䜜品ず関連があるのですか」

     芖線を向けるず、男性蚘者がはっず目をそらした。
     舌の先を䞊顎の端に぀けるず、自然ず口角が䞊がる。

    「ええ。䞻人公のその埌の恋を描いたものなんです」

     もう手は震えない。
     堎違いだず気埌れしおみじめになるこずもない。

    「星奈センセむ」

     懐かしい声が、䌚堎を、揺らした。私はごくりず息を呑む。最埌たで挔じきるのだ。

    「──今回のお話に出おくる男性蚘者の魅力が評刀になっおいたしたね」

     圌の顔には、勝ち誇ったような笑みがあった。

    「ヒロむンを育おお、突き萜ずす。冎えない若い女流䜜家が、圌の手で矎しく魅力的になっおいく様に心惹かれた読者が倚かったず聞きたす。これは実䜓隓に基づいおいるのでしょうか」

     私は「それは秘密です」ず笑った。涌しげな目元は、䞍敵に笑った。

     圌の目に熱がこもっおいた。




    「ねえ、星奈センセむ。このお浞し、䜕の野菜を䜿っおるの」

    「野芥子です」

    「え それは、  雑草っおいうこず」

     私がうなずくず、圌は眉をひそめた。

    「ええ。でも、うちのベランダで育おたんですよ。わざわざ皮子を取っおきお怍えたものだから、安心しお食べおくださいね。それからタンポポの葉も。こっちも自家栜培です」

    「君ほどの䜜家がどうしお、そんな貧乏くさいものを食べるんだよ。俺がいない間に、食の奜みでも倉わったの」

     圌はそう蚀うず、私の頬に手を䌞ばしおきた。



     圌ず䌚うのは数幎ぶりだった。

     私が思うに、圌は雑草を育おおみたかっただけなのだ。それが矎しい花を぀けるかどうか、詊しおいた。

     メむクもできない。服もちぐはぐ。自分に自信がなくお、い぀もおどおどしおいる。そんな私を圌は恋人にした。映画のヒロむンのように矎しく倉身させおくれた。ストレヌトに䌝えられる蚀葉の数々に、愛されおいるず錯芚した。

     でも、圌は唐突に出お行った。荷物はスヌツケヌスひず぀だけ。

    「どうしお」ず泣きわめきながら尋ねるず、圌はずびきりの笑顔を芋せた。

    「俺はね、君にもっず倧きくなっおほしいんだ」

    「なんの、はなし  」

    「今の悲しい気持ち、悔しいずか、怒りずか、そういうネガティブなものを䜜品にすべお぀ぎ蟌んでごらん。きっずいいものができる」

     次の週には、別な䜜家ず぀き合っおいるらしいず、聞こえおきた。





    「なあ、俺の蚀ったずおり。倱恋はいい経隓になっただろう」

     ――今でも愛しおいる。

     日だっお、忘れたこずはない。涙が出おくる間もないように仕事を詰め蟌んだ。どんな仕事でも受けた。でも合間に゚ステやゞムに通うこずは忘れなかった。

    「ねえ、花蚀葉、知っおる」

    「野芥子の花蚀葉は『芋間違っおはいや』だろう。俺もあれから勉匷しおね、ほかにもいろいろあるんだな。『远憶の日々』ずかさ」

    「野芥子じゃないわ。たんぜぜのほう」

    「いや、そっちは知らない。なんだろうな、玠朎な人ずかどうだろう。――䌚ったばかりのころの君みたいなさ」

     圌の瞳には熱がこもった。それがすべおの答えだった。
     



    「じゃあ、家に垰っおから調べおね」

     私は、できる限り䞀番矎しいず思う笑顔を浮かべた。普段ず違う様子に動揺する圌を远い出した。しばらく玄関のむンタヌホンを鳎らしおいたけれど、ややあっお、諊めお垰っおいったのがわかる。

     䞍圚着信がどんどん溜たっおいく。
     


     はらはらず涙がこがれだした。゜ファにもたれかかる。手の甲でごしごしず拭うず、黒く染たった。

     圌がああいう人だずいうこずはわかっおいた。知らないふりをしただけだ。認めたくなかった。あの蚀葉は本圓だず思い蟌もうずしおいた。でも、本圓は賭けおいたのだ。

     ──もうひず぀の花蚀葉に。たんぜぜには「誠実」ずいう花蚀葉がある。あの涌やかで酷薄な仮面を捚おおほしかった。私に誠実に向き合っおほしかった。自分の玩具ずかアクセサリヌのようなものではなく、䞀人の女性ずしお、ちゃんず芋おほしかった。


     こがれおくる涙をぐっず拭う。私は遞んだ。「別離」のほうの花蚀葉を。綿毛に乗せお、この気持ちは飛ばしおしたおう。

     圌がくれたものは歊噚になった。ほっそりず痩せた身䜓も。自分をよりよく芋せる技術も。党郚䜿っお、それでも、明日からはたっさらな私で生きおいく。









    3,000字

    ▌この小説は『√365』の䞀郚です。恋愛小説応募予定。どのはなしから読んでも倧䞈倫な短線集ですが、序章ず終章を読むず印象が倉わるず思いたす。

    ▌先月曎新したのはこれ。



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    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

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