人が、だんだん立体的になっていく。
たとえば、「田中太郎さん」という人がいる。
最初は、ただの名前。
社員名簿に書いてある、
「田中 太郎」
それだけ。
話してみる。
でも、話してみたらラーメンが好きだった。
家族の話をするときは、少し声がやさしくなる人だった。
休みの日は朝からジムに行くらしい。
「夕方じゃダメなの?」
と聞いたら、
若い人がたくさんいて、使いたい器具が空くのを待つのが嫌なんだと言う。
ああ、この人、ちょっとせっかちなのかな笑
それとも自分のペースを大切にしたいのかな。
嬉しいことがあると、笑い方が少し大きくなる。
困ったことがあると、言葉が少し減る。
好きなことの話をすると、急にたくさん喋る。
嫌なことがあると、ちょっと分かりやすく顔に出る。
そうやって、
ひとつ。
またひとつ。
知っていく。
名前だった人が、「その人」になっていく。
すると、最初は名前だけだった「田中太郎さん」が、だんだん立体的になっていく。
好きなものがある。
嫌いなものがある。
大切にしている人がいる。
嬉しいことがある。
悲しいことがある。
怒ることもある。
その人が今まで生きてきた時間があって、今のその人がいる。
そういうものが少しずつ見えてくる。
私は、この感じがすごく好き。

だから、人の話を聞くのが好きなのかもしれない。
人と話すのが好きなのも、人の話を聞くのが好きなのも、たぶんこれが理由なんだと思う。
私は人事の仕事をしている。
仕事柄、いろんな人と話す。
採用で初めて会う人もいれば、ずっと同じ会社にいる人もいる。
相談を聞くこともある。
最初は仕事の話だけだった人が、少しずつ自分のことを話してくれるようになることもある。
そのたびに、その人がまた少し立体的になる。
そして、話せば話すほど、
「この人なら話しても大丈夫」
と思ってもらえたのかな、と感じる瞬間がある。
それも、すごく嬉しい。
もちろん、何でも話してほしいわけじゃない。
話したくないことまで知りたいとも思わない。
その人が見せてもいいと思ったところを、少しずつ見せてもらえたら、それでいい。
私はたぶん、人そのものに興味がある。
人って、一人ひとり全然違う。
同じ出来事でも、笑う人もいれば、怒る人もいる。
気にしない人もいれば、ずっと覚えている人もいる。
その違いが面白い。
だから今日も、
名前しか知らなかった誰かが、
少しずつ、
「その人」になっていく。
私はきっと、この仕事のそういうところが好きなんだと思う。
