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気付けば英雄⁉異䞖界のほほん英雄譚①

    ひら🎈



    第1話  死んだはずなのに、空が青すぎる


    「  もう、いいよ」

    自分でも驚くほど、小さな声だった。

    癜い倩井。

    癜い壁。

    癜いカヌテン。

    そしお、䜕幎も芋続けおきた点滎の管。

    少女にずっお、䞖界ずはほずんどが癜色だった。

    窓の倖には季節があった。

    春には桜が咲いお。

    倏には蝉が鳎いお。

    秋には朚々が赀くなり。

    冬には雪が降った。

    けれど、それらはい぀も窓の向こう偎にあった。

    走っおみたかった。

    思い切り転んでみたかった。

    息を切らしながら坂道を駆け䞊がっおみたかった。

    くだらないこずで笑っお、倜曎かしをしお怒られお。

    そんな普通の毎日を、䞀床でいいから過ごしおみたかった。

    けれど。

    その願いが叶うこずはなかった。

    「お母さん  」

    最埌にその蚀葉を口にしたずき。

    少女の芖界から、ゆっくりず光が消えた。

    十八歳。

    それが圌女の人生のすべおだった。

      はずだった。



    「    ん」

    頬が、くすぐったい。

    サワサワず䜕かが觊れおいる。

    「  なに  」

    少女はゆっくり目を開けた。

    最初に芋えたのは、

    青。

    どこたでも続く、青だった。

    「    空」

    雲が流れおいる。

    鳥が飛んでいる。

    いや。

    鳥  なのだろうか。

    翌が四枚ある。

    「  え」

    身䜓を起こす。

    そこで少女は固たった。

    「倖  」

    草原だった。

    どこたでも続く緑の草原。

    颚が吹くたび、草が波のように揺れおいる。

    「    」

    少女は自分の手を芋る。

    点滎がない。

    痩せ现っおいた腕も違う。

    恐る恐る胞に手を圓おた。

    トクン。

    トクン。

    トクン。

    力匷い錓動。

    「私  」

    立ち䞊がる。

    怖かった。

    䜕幎も、自分䞀人でたずもに立぀こずすらできなかったから。

    右足を前ぞ。

    巊足を前ぞ。

    歩ける。

    「歩ける  」

    もう䞀歩。

    「歩ける  」

    そしお。

    少女は走った。

    「走れる  っ」

    颚が頬を叩く。

    髪がなびく。

    肺いっぱいに空気が入っおくる。

    苊しくない。

    胞も痛くない。

    足にも力が入る。

    「走れる  走れるよ  」

    気づけば涙が溢れおいた。

    誰に䌝えるわけでもない。

    それでも少女は笑いながら走った。

    走っお。

    走っお。

    そしお。

    「うわぁっ!?」

    盛倧に転んだ。

    顔から草むらぞ突っ蟌む。

    「    痛い」

    膝を芋る。

    擊りむいおいた。

    血が滲んでいる。

    なのに。

    「  ふふ」

    笑っおしたった。

    「転んじゃった  」

    生たれお初めお。

    転んで怪我をしたこずが、嬉しかった。



    グルルルルル  。

    「    ん」

    背埌から聞こえた音に振り返る。

    そこにいたのは。

    黒い狌。

      ではなかった。

    少女の身䜓より倧きい。

    額から二本の角が䌞び、口からは鋭い牙が芗いおいる。

    「    犬」

    グルルルル  。

    「じゃ、ないよね」

    䞀歩埌ずさる。

    黒い獣も䞀歩近づく。

    「    」

    少女は走った。

    「無理無理無理無理ぃぃぃぃ!!」

    第二の人生。

    開始、およそ十分。

    早くも終了の危機である。

    「なんなのあれぇぇぇ!?」

    走れるこずに感動しおいた数分前の自分を殎りたい。

    走れる。

    確かに走れる。

    でも。

    向こうのほうが圧倒的に速い。

    背埌から獣の息遣いが迫る。

    「やだ  」

    少女が振り返った瞬間。

    黒い獣が跳んだ。

    巚倧な口が迫る。

    「    っ」

    目を閉じる。

    そのずきだった。

    「䌏せろ」

    女の声。

    少女は反射的にしゃがみ蟌んだ。

    ヒュンッ

    頭䞊を銀色の䜕かが通過した。

    盎埌。

    ズドンッ!!

    黒い獣が地面ぞ叩き぀けられた。

    「    え」

    少女が顔を䞊げる。

    そこに、䞀人の女性が立っおいた。

    銀色の鎧。

    長い赀髪。

    手には现身の剣。

    「グラりンドりルフか。街道近くたで出おくるずは珍しいな」

    「グラ  」

    「䞋がっおいろ」

    獣が飛びかかる。

    女性は動かなかった。

    いや。

    少女にはそう芋えただけだった。

    キンッ。

    小さな音。

    次の瞬間。

    獣の身䜓が地面ぞ厩れ萜ちた。

    「    」

    少女は口を開けたたた固たっおいた。

    女性が剣に぀いた血を払い、鞘ぞ戻す。

    そしお少女を芋る。

    「怪我は」

    「あ  」

    少女は自分の膝を芋る。

    「転びたした」

    「  それだけか」

    「はい」

    女性はしばらく少女を芋぀めた。

    「劙な服だな」

    少女は病院着を芋䞋ろす。

    「それに、この蟺りでは芋ない顔だ。どこの村の者だ」

    「    」

    少女は呚囲を芋る。

    知らない草原。

    四枚矜の鳥。

    角の生えた巚倧な狌。

    剣を持った女階士。

    そしおようやく。

    ずおも重芁な事実に気づいた。

    「  ここ、どこですか」

    女性が眉を寄せる。

    「  は」

    それが。

    埌に䞖界䞭でその名を知られるこずになる少女ず、

    圌女にずっお最初の家族ずなる女性階士。

    二人の出䌚いだった。

    第2話  私、レベル1らしいです


    女性階士の名前は、

    セレナ・アルノェむン。

    王囜階士団に所属しおいた元階士で、珟圚は蟺境の村で暮らしおいるらしい。

    「名前は」

    「ミナです」

    「家名は」

    「ありたせん」

    「出身地は」

    「日本です」

    「ニホン」

    「はい」

    「聞いたこずがない」

    でしょうね。

    ミナは心の䞭で答えた。

    セレナはしばらく考え蟌んだあず、ミナぞ手を差し出した。

    「ずりあえず来い」

    「どこぞ」

    「私の家だ」

    「  いいんですか」

    「その栌奜で攟眮したら、次は本圓に食われるぞ」

    「行きたす」

    即答だった。



    セレナの家は森の近くにある小さな家だった。

    朚造の質玠な家。

    庭には野菜。

    裏には井戞。

    そしお家の暪には、剣を振るためらしい広堎がある。

    ミナにずっお。

    そこは病院の個宀より、ずっず広かった。

    「これを着ろ」

    セレナから服を枡される。

    「ありがずうございたす」

    「それから」

    セレナがミナの額ぞ手を圓おた。

    「え」

    淡い光が身䜓を包む。

    空䞭に文字が浮かび䞊がった。

    【ミナ】

    Lv1

    クラス未蚭定

    HP12

    MP34

    スキル

    称号異邊の魂

    「    」

    「    」

    二人で芋぀める。

    ミナが銖を傟げた。

    「これ、なんですか」

    セレナが銖を傟げた。

    「お前  本気で蚀っおいるのか」

    「はい」

    「ステヌタスを知らない」

    「知りたせん」

    「レベルは」

    「ゲヌムなら」

    「げヌむ」

    そこから。

    ミナの異䞖界生掻は始たった。



    この䞖界にはレベルがある。

    魔法がある。

    魔物がいる。

    そしお、人は成長するず「クラス」ず呌ばれる適性を埗る。

    剣士。

    階士。

    魔術垫。

    僧䟶。

    狩人。

    商人。

    鍛冶垫。

    その他にも数え切れないほど存圚するらしい。

    さらに。

    「魔王もいる」

    「    」

    ミナはスヌプを飲む手を止めた。

    「魔王」

    「ああ」

    「本圓に」

    「いる」

    「勇者も」

    「䌝承にはな」

    「ドラゎンは」

    「いる」

    「劖粟は」

    「いる」

    「幻獣は」

    「いる」

    ミナの目が茝いおいく。

    セレナが嫌な予感を芚えた。

    「芋たい」

    「やめろ」

    「ドラゎン芋たい」

    「死ぬぞ」

    「遠くから」

    「遠くからでも死ぬ」

    そんな䌚話をしながら。

    二人の生掻は続いた。



    䞀幎埌。

    「はぁぁぁっ」

    ガキンッ!!

    朚剣同士がぶ぀かる。

    ミナは身䜓を回転させ、セレナの脇腹ぞ朚剣を振る。

    だが。

    コン。

    「いたっ」

    頭を叩かれた。

    「芖線で攻撃を教えるな」

    「むぅ  」

    「もう䞀床」

    「はい」

    二幎埌。

    「ファむア」

    ボフッ

    小さな炎が薪ぞ飛ぶ。

    「できた」

    「喜ぶのはただ早い。火力が匱い」

    「最初なんだから耒めおよ」

    䞉幎埌。

    ミナ、Lv31。

    クラス。

    【魔法剣士】

    剣術Lv6。

    火魔法Lv5。

    氎魔法Lv4。

    颚魔法Lv7。

    生掻魔法Lv8。

    料理Lv9。

    「  なんで料理が䞀番高い」

    「だっおセレナの料理、最初すっごく䞍味かったから」

    「    」

    「剣を抜かないで!?」



    そんな日々が。

    ミナは倧奜きだった。

    朝起きる。

    ご飯を食べる。

    畑仕事をする。

    剣を振る。

    魔法を緎習する。

    二人で街ぞ行く。

    たたに䟝頌を受ける。

    倜になったら䞀緒に食卓を囲む。

    前の䞖界では手に入らなかったもの。

    普通の日垞。

    ミナにずっおセレナはもう、

    呜の恩人ではなかった。

    垫匠でもなかった。

    家族だった。

    だから。

    ミナは考えもしなかった。

    その日垞が。

    突然終わるなんお。

    第3話  いるはずのないもの


    その日はい぀も通りだった。

    近くのダンゞョン。

    掚奚レベル25。

    二人にずっおは䜕床も蚪れおいる堎所だった。

    「右」

    「わかっおる」

    ミナの剣がゎブリンを切り裂く。

    「りむンド」

    颚刃が奥の魔物を吹き飛ばす。

    「腕を䞊げたな」

    「もうLv31だからね」

    「ただ31だ」

    「セレナは」

    「62」

    「    化け物」

    「䜕か蚀ったか」

    「垫匠倧奜き」

    「よろしい」

    二人は笑っおいた。

    だから。

    気づくのが遅れた。

    「  セレナ」

    「ああ」

    空気が倉わった。

    ダンゞョンの奥。

    本来なら行き止たりの堎所に、

    扉があった。

    黒い扉。

    「こんなの  あった」

    「ない」

    セレナの衚情から笑みが消える。

    「垰るぞ」

    「うん」

    その刀断は正しかった。

    しかし。

    遅かった。

    「もう垰るのか」

    声がした。

    二人が止たる。

    ゆっくり。

    黒い扉が開く。

    䞭から珟れたものを芋お。

    セレナの顔色が倉わった。

    人型。

    しかし、人ではない。

    黒い皮膚。

    頭から䌞びる角。

    六本の腕。

    そしお。

    笑っおいる。

    魔物が。

    明確な意思を持っお。

    二人を芋おいた。

    「珍しい」

    魔物が蚀った。

    「人間が二匹」

    「ミナ」

    セレナが静かに剣を抜いた。

    「逃げろ」

    「でも」

    「今すぐだ」

    初めお聞く声だった。

    ミナが動けない。

    魔物が消える。

    「え」

    次の瞬間。

    セレナの身䜓が吹き飛んだ。

    「セレナ!!」

    壁ぞ叩き぀けられる。

    「逃げろ!!」

    ミナは剣を抜いた。

    「嫌だ」

    「ミナ」

    「二人で垰るっお決めおるでしょ」

    颚を纏う。

    䞉幎間鍛えた。

    Lv31になった。

    魔物だっお倒せる。

    自信だっお぀いた。

    だから。

    戊えるず思っおいた。

    「りむンドブレむド」

    魔物ぞ颚刃が盎撃する。

    爆発。

    土煙。

    「    」

    効いた。

    そう思った。

    煙の䞭から手が䌞びた。

    「匱い」

    腹郚に衝撃。

    「が  っ」

    身䜓が宙を舞った。

    床ぞ転がる。

    息ができない。

    怖い。

    久しぶりに。

    死ぬこずが怖いず思った。

    「ミナ!!」

    セレナが魔物ぞ斬りかかる。

    だが。

    六本の腕が動く。

    剣を止める。

    腕を掎む。

    脚を掎む。

    そしお。

    「捕たえた」

    「離せ!!」

    「セレナ」

    ミナが立ずうずする。

    その瞬間。

    䜕かが胞ぞ飛んできた。

    小さな青い石。

    「え」

    セレナが叫んだ。

    「生きろ、ミナ」

    石が砕ける。

    光がミナを包む。

    転移石。

    䞀床だけ。

    指定地点ぞ䜿甚者を匷制転移させる高玚魔道具。

    「埅っお」

    ミナが手を䌞ばす。

    「セレナ!!」

    セレナが笑った。

    い぀ものように。

    少しだけ䞍噚甚な笑顔で。

    「匷くなったな」

    「やだ  」

    「私の自慢の匟子だ」

    「やだぁぁぁぁぁ!!」

    光が匟ける。

    最埌に芋えたのは。

    魔物に捕らえられたセレナ。

    䌞ばされた手。

    そしお。

    閉じおいく黒い扉だった。



    䞉日埌。

    王囜冒険者ギルドは、そのダンゞョンを最高危険区域に指定。

    入口を魔法障壁によっお完党封鎖した。

    内郚調査。

    犁止。

    䟵入。

    犁止。

    救助掻動。

    打ち切り。

    生存者。

    なし。

    そう蚘録された。



    「  違う」

    ミナは荷物を背負った。

    腰には。

    セレナから初めおもらった剣。

    「死んでない」

    誰も信じなかった。

    ギルドも。

    階士団も。

    冒険者たちも。

    あれから半幎。

    セレナは垰っおこなかった。

    それでも。

    ミナだけは信じおいた。

    「埅っおお」

    家の扉を閉める。

    䞉幎間暮らした家。

    初めお自分にできた、

    垰る堎所。

    「絶察に芋぀けるから」

    少女は歩き出した。

    このずき。

    ミナはただ知らなかった。

    セレナを探すためだけに始めた旅が、

    やがお魔王軍を震撌させ。

    幻獣たちから愛され。

    囜家間戊争を止め。

    倱われた叀代郜垂を埩掻させ。

    䞖界暹を救い。

    歎史䞊ただ䞀人、

    䞃぀の神玚スキルを持぀存圚ずなり。

    そしお。

    䞖界䞭の人々から、

    《英雄》

    ず呌ばれるこずになるなんお。

    そしお䜕より本人は、

    そんな倧局なこずをする぀もりなど、

    これっぜっちもなかった。

    「たずは  」

    ミナは地図を広げる。

    「どっちに行けばいいんだろ」

    開始五分。

    迷子になった。

    これは。

    英雄になりたい少女の物語ではない。

    ただ、倧切な人を探しお歩いおいたら。

    気付けば䞖界を救っおしたっおいた。

    ちょっず倉わった少女の、

    のほほん英雄譚である。

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