
南仏の米どころ:カマルグ米のお話
前回の記事では、南仏の太陽が育む「白い黄金」である『カマルグの塩』について述べました。しかし、実はカマルグにはもう一つの名産品があります。それが、フランス国内生産量の約98%を占める「カマルグ米(Riz de Camargue)」です。
パンの国フランスにあって、なぜこの地で稲作が盛んなのか。そして、なぜ私たち日本人の舌にこれほどまで馴染むのか。その魅力に迫ります。
1. 土地を塩害から救うために始まった稲作
カマルグでお米が作られ始めたのは、単なる食料確保のためではありませんでした。それは、「土地を塩害から救うため」という壮大な環境プロジェクトから始まったのです。
16世紀のアンリ四世の時代に遡る試行錯誤を経て、19世紀から20世紀にかけて本格化したカマルグの稲作。海に近いこの湿地帯は、放っておくと強すぎる塩分で不毛の地となってしまいます。そこで、ローヌ川から真水を大量に引き込み、水田を作ることで土壌の塩分を洗い流す「脱塩」が行われました。
つまり、カマルグの美しい自然と農作物は、稲作というフィルターを通じることで初めて守られているのです。
2. 彩り豊かな「三色の宝石」:品種の多様性
カマルグ米の最大の特徴は、その多様性にあります。単なる「白いご飯」だけではありません。
白米(Riz Blanc): 私たち日本人に最も馴染み深いもの。特に「Riz Rond(短粒種)」や「Riz Demi-Long(中粒種)」は、炊き上がりの粘りとツヤが日本のコシヒカリを彷彿とさせます。
赤米(Riz Rouge): カマルグの象徴。突然変異によって自生していた種を固定したもので、精米せず玄米のまま味わいます。ナッツのような香ばしさと、噛むほどに溢れる大地の旨味が特徴です。
黒米(Riz Noir): かつては「皇帝の米」とも呼ばれた希少種。炊き上がりの香りが非常に高く、アントシアニンを豊富に含んだ漆黒の輝きは、食卓に一気に高級感をもたらします。
3. 科学で見る「カマルグ米」のポテンシャル
なぜカマルグ米は、他のヨーロッパ米(イタリアのリゾット米など)よりも日本人の口に合うのでしょうか。
それは、カマルグが「ジャポニカ種」の栽培に適した北限に近い環境だからです。地中海の強い日差しはデンプンの蓄積を助け、ローヌ川の冷たい真水は粒を引き締めます。結果として、海外米にありがちな「パサパサ感」が抑えられ、日本人が好む「もちもちした弾力」と「お米の甘み」が凝縮されるのです。

4. 環境との共生:フラミンゴが舞う水田
カマルグ米は1998年に、フランスのお米として初めてEUのIGP(保護指定地域表示)を取得しました。この認証は、産地を守るだけでなく「環境への配慮」も厳格に求めています。
カマルグの水田は、数万羽のフラミンゴや野生の馬、牛たちが暮らす生態系の一部です。農薬の使用を最小限に抑え、自然のサイクルを壊さない持続可能な農業。私たちがカマルグ米を選ぶことは、この貴重な湿地帯の自然を守ることにも繋がっています。
5. 実践!カマルグ米を「究極の主食」にする炊き方
日本人としてカマルグ米を味わうなら、やはり炊き立ての「白いご飯」としてのポテンシャルを引き出したいもの。
選び方: スーパーでは「Riz Rond(リ・ロン)」を選んでください。これが日本のお米(短粒種)に相当します。
浸水の魔法: カマルグ米は乾燥がしっかりしているため、炊飯前に最低30分は水に浸けてください。 これだけで、芯までふっくらと、驚くほどモチモチに炊き上がります。
カマルグの塩を一摘み: 炊く際に、以前ご紹介した「カマルグの塩」をパラリと加えるのも良いでしょう。お米のデンプンの甘みが劇的に引き立ちます。
※ カマルグ米を美味しく炊くコツは、以下の記事で紹介しています。
結びに
塩が海からの贈り物なら、お米は大地と川からの贈り物。 フランスの風土が生み出し、日本人のDNAに響く味わい。カマルグの食卓には、常にこの二つの「白」が寄り添っています。