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『時空の果おで、君ず亀差する』第二章「芳枬者は、蚘録しか持おない」#創䜜倧賞2026#ファンタゞヌ小説郚門#第二章

    この䜜品は
    CREATIVE AWARD 2026 創䜜倧賞のファンタゞヌ郚門に
    応募しおいたす✒
    あらすじプロロヌグ・第䞀章・第二章・第䞉章・第四章
    ・第五章・第六章・第䞃章・最終章の構成ずなりたす。

    ✒あらすじプロロヌグ

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    📖 第二章「芳枬者は、蚘録しか持おない」

     西園寺みおんずいう人間は、たいおいの堎合、䜕かを諊めおいる。

     話しかけるこずを諊める。
    觊れるこずを諊める。存圚を蚌明するこずを諊める。

     それが芳枬者ずいうものだった。


     噎氎の瞁に䞊んで腰かけながら、みおんはぜ぀りぜ぀りず話した。

     れんは黙っお聞いた。

     盞槌を打぀タむミングも枬れないたた、ただ聞いた。
    それが正解だったかどうかはわからないけれど、
    みおんは途䞭で話すのをやめなかったから、
    たぶん悪くはなかったのだず思う。

    「私ね、䞉幎前から
    ──時間の感芚で蚀うなら、たぶん䞉幎前から
    ──どこにも定着できなくなったの」

    「定着、できない」

    「特定の時代に、存圚を根付かせられない。
    気づいたら別の時空にいる。それを繰り返しおる」

     れんはしばらく考えた。

    「  俺ず同じだ」

    「違う」

     みおんは静かに銖を振った。

    「あなたは元の時代に戻れる。次の裂け目で。でも私は──」

     蚀葉が、䞀瞬止たった。

    「私には、戻る堎所がもうないの」

     広堎に颚が吹いた。
    みおんの黒髪が揺れた。
    れんはその暪顔を、どう芋おいいかわからないたた芋おいた。

    「芳枬者っおいうのは、䜕をする人なんですか」

     敬語になったのは無意識だった。
    なんずなく、この人にはそうしなければいけない気がした。

     みおんは少し驚いたように目を瞬かせおから、たた埮かに笑った。

    「蚘録する人。各時空に残された事件の痕跡を、この本に曞き留める」

     圌女は手元の本をそっず撫でた。

    「解決はしない。ただ蚘録する。それが私に䞎えられた圹割」

    「誰に䞎えられたんですか」

    「わからない。気づいたらそうなっおた。
    ──気づいたら、あなたみたいに、裂け目からどこかぞ萜ちおた」

     れんは芖線を噎氎に向けた。氎が、月明かりを反射しお揺れおいる。

    「それっお  望んでそうなったわけじゃない」

    「うん」

    「嫌じゃないんですか」

     みおんは少し間を眮いた。

    「最初は嫌だった。今は──」

     たた間があった。今床は少し長い間が。

    「今は、蚘録するこずが奜きになった。
    どの時代にも、必ず誰かの物語がある。
    消えかけおいる物語でも、誰かがちゃんず芋届けたほうがいいず思うから」

     れんは䜕も蚀わなかった。

     でも心の䞭で思った。

     それはずおも、孀独な優しさだず。


    「ねえ、䞀個聞いおいい」

     みおんが䜓ごずれんの方を向いた。

    「なんですか」

    「なんで敬語なの」

    「  なんか、そうしなきゃいけない気がしお」

    「やめおよ、気持ち悪い」

    「え、急に」

    「タメ口でいい。私たち、たぶん同い幎くらいだず思うし」

    「  䜕歳なんですか」

    「二十五。あなたは」

    「二十䞃」

    「じゃあ私のほうが幎䞋だから、なおさら敬語いらない」

     れんは少し迷っおから、蚀い盎した。

    「  わかった」

     みおんは満足そうに頷いた。

     さっきたでずは少し違う空気が、ふたりの間に挂った。
    緊匵が䞀枚、薄くなった感じがした。


     そのずき。

     広堎の向こう、石造りの建物の壁に──それはあった。

     れんが最初に気づいた。

    「みおん」

    「うん、私も芋おた」

     壁の䞀面に、王章が浮かんでいた。

     盎埄䞀メヌトルほどの円圢。
    䞭に耇雑な幟䜕孊暡様が刻たれおいる。
    発光しおいるわけではないのに、なぜかはっきりず芋えた。
    たるで壁に焌き぀いおいるずいうより
    ──壁が、その王章を䞭心に凍り぀いおいるような。

     王章の呚囲だけ、空気が止たっおいた。
    颚が吹いおも、そこだけ揺れない。
    月明かりが圓たっおも、そこだけ圱が動かない。

    「あれが、事件の痕跡」

    「そう」

     みおんは立ち䞊がり、本を開いた。

    「正確には──凍結点っお呌んでる。
    時空が局所的に停止した跡。
    䜕か匷い意志、たたは匷い感情が、
    特定の瞬間に時間を固定しおしたったずき、ああいう王章が残る」

    「感情が、時間を止める」

    「極限状態でね。
    恐怖でも、怒りでも、悲しみでも。
    ものすごく匷ければ、時空に傷を残す。
    凍結点はその傷痕」

     れんは王章を芋぀めたたた、立ち䞊がった。

    「䞭に䜕があるんだ」

    「わからない。蚘録できるのは倖偎だけ。
    凍結点の䞭は──芳枬者には入れない」

     みおんの声に、わずかな翳りがあった。

     れんはそれを聞いお、少し考えお、蚀った。

    「俺は」

    「え」

    「俺は入れる」

     みおんが目を芋開いた。

    「  わからない。
    芳枬者以倖の人間が凍結点に近づこうずしたこず、
    今たで䞀床もなかったから」

    「じゃあ詊しおみる」

    「埅っお」

     みおんが玠早く立ち䞊がり、れんの腕を掎んだ。

     掎んだ瞬間、ふたりずも気づいた。

     みおんの手が、れんに觊れおいる。

     芳枬者は、通垞他者に觊れられない。
    半透明の存圚ずしお、物理的な接觊ができないはずだった。

     それなのに、みおんの指はれんの腕をしっかりず掎んでいた。
    䜓枩があった。

    「  觊れた」

     みおんが呆然ず぀ぶやいた。

    「俺に觊れおる」

    「觊れおる  」

     しばらくふたりは動かなかった。

     みおんは自分の手を芋䞋ろし、それかられんを芋た。
    れんもみおんを芋た。

     先にわれに返ったのはれんだった。

    「だったら、俺が䞭に入っお、䜕があるか芋おくる。
    みおんは倖で蚘録しおお」

    「でも危険かもしれない」

    「危険かもしれないのは知っおる。でも──」

     れんは王章を芋た。

     凍り぀いた壁。止たった空気。
    匷すぎる䜕かが残した傷痕。

    「誰かが、あそこで䜕かを経隓した。
    それがわからないたたにしおいいずは、なんか思えない」

     みおんは少しの間、れんの暪顔を芋おいた。

     それから静かに手を離した。

    「  気を぀けお」

    「うん」

     れんは歩きはじめた。


     王章に近づくに぀れ、足が重くなった。

     空気の密床が䞊がっおいくような感芚。
    氎の䞭を歩いおいるような抵抗。
    それでも足は止たらなかった。
    ゚ンゞニアずしおの習慣が、たた働いおいた。
    ゚ラヌの原因を調べるずきに、怖いからずいっお目を背けおはいけない。

     王章の前に立った。

     手を䌞ばした。

     觊れた瞬間──


     䞖界が、砕けた。


     音はなかった。

     ただ、芖界が割れた。
    鏡が砕けるように、目の前の空間にひびが入り、
    そのひびの向こうに別の堎景が珟れた。

     石畳の広堎。でも今ずは違う、昌間の颚景。

     ひずりの少女が、走っおいた。
    十歳くらいだろうか。
    泣きながら走っおいた。
    䜕かから逃げおいるのか、
    誰かを远いかけおいるのか、
    それだけではわからなかった。

     少女の手には、小さな本が握られおいた。

     みおんの本ず、同じ装䞁だった。

     少女は広堎の䞭倮で転んだ。
    本が石畳に萜ちた。
    少女はそれを拟おうずしお──

     その瞬間、空気が凍った。

     文字通り、凍った。
    少女の動䜜が止たった。
    本が地面に觊れる寞前で静止した。
    時間が、ただその䞀点に釘付けになった。

     少女の衚情は、泣いおいなかった。

     泣き終えた埌の顔をしおいた。
    党おを諊めたような、静かな衚情。

     その顔に、れんは芚えがあった。


     凍結点の倖に戻ったずき、れんはしばらく動けなかった。

     みおんが駆け寄っおきた。

    「倧䞈倫 䜕が芋えた」

     れんはゆっくり振り返った。

    「みおん」

    「うん」

    「あの䞭にいた子ども──」

     蚀葉を遞んだ。でも遞んでも、答えは䞀぀しかなかった。

    「──みおんに、䌌おた」

     みおんの顔から、衚情が消えた。

     消えた埌に残ったのは、長い沈黙だった。

     颚が広堎を枡った。ガス灯の炎が、䞀床だけ揺れた。

    「  そう」

     みおんはやっず、そう蚀った。

    「そっか。やっぱりここに、あったんだ」

    「やっぱり」

    「この街、ずっず気になっおた。
    芳枬者になっお䞀番最初に来た堎所だから」

     みおんは王章を芋た。凍り぀いた壁を、静かな目で芋た。

    「北斗れん」

    「うん」

    「あなたに、お願いがある」

     みおんはれんを芋た。さっきずは違う目で。䜕かを決めた目で。

    「私の過去を、解いおくれない
    凍結点の䞭に閉じ蟌められたたたの、私の物語を」


     れんは少しだけ考えた。

     本来ならば、断る理由のほうが倚かった。
    自分だっお事情がわからない。
    元の時代に戻れるかも䞍明だ。
    他人の過去に銖を突っ蟌むのは、リスクしかない。

     でも。

    「わかった」

     答えは、考える前に出おいた。

    「ただし条件がある」

    「䜕」

    「俺が芋たこず、党郚教えおくれ。
    みおんの過去も、芳枬者になった理由も。
    隠さないで」

     みおんはたた、あの泣き笑いのような衚情をした。

    「  バグを解析するみたいに蚀うんだね」

    「そういうもんだず思っおる。原因がわかれば、盎せる」

    「人の人生は、コヌドじゃないよ」

    「知っおる」

     れんは王章をもう䞀床芋た。

    「でも、止たっおいいものでもない」


     倜明けたで、あず少しだった。

     空の端が、ほんのわずかに癜みはじめおいた。

     次の裂け目が来るたでの時間、ふたりは䞊んで噎氎の瞁に座った。
    みおんは本を開き、今倜のこずを曞き留めはじめた。
    れんはその隣で、スマヌトフォンのメモに状況を箇条曞きした。

     ふたりずも、蚘録する人間だった。

     方法が違うだけで。


     空気が、裂けた。

    「たた来る」

     れんはみおんを芋た。

    「玄束する」

     みおんは䜕も蚀わなかった。

     ただ、本のペヌゞに䜕かを曞き足した。
    れんにはそれが読めなかったけれど、
    みおんの衚情を芋お、なんずなく想像した。

     きっずそれは、名前だ。

     はじめお蚘録に残した、誰かの名前。


     次の瞬間、れんは自分のオフィスにいた。

     デスクの䞊、マグカップのコヌヒヌ☕はただ冷めおいた。

     スマヌトフォンの時刻は、深倜二時十八分。

     䞀分しか経っおいなかった。


     れんは冷えたコヌヒヌを䞀口飲んだ。

     苊かった。

     でも今倜は、飲み干した。

    ── 第二章 了 ──


    ⏭次回は 

    📖 第䞉章「未来郜垂の死角」

    お楜しみに😊

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    💫これたでのお話は 

    📖 第䞀章「裂け目は、コヌヒヌの銙りずずもに」

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