見出し画像

陰陽師の隣で 第八話『当たって欲しくなかった』

母のアルコール依存症は、ますます酷くなっていた。

父や私が仕事で家を空けると、誰もいない隙を見て酒を買いに行き、酔い潰れる。

最近では外で飲んで、そのまま道端で潰れてしまい、近所の人に抱えられて家まで送ってもらう事も増えた。

酷い時には、何処かへ身体をぶつけ、そのまま救急車で運ばれる事もあった。
私はもう、この繰り返しに嫌気が差していた。

以前、陰陽師の先生に言われた言葉を思い出す。

『お前の家には霊道がある』

『お母さんは、そのダメージをかなり受けとる』

先生に何かお願いすれば、助かるのだろうか。

そう思った事は何度もある。

けれど、この頃の私は仕事が忙しく、先生の家へ行く時間がなかった。

お祓いを頼んで家へ来てもらう事も考えた。
だが父は、宗教やオカルトを極端に嫌う人だった。

そんな話をすれば、絶対に反対される。

どうする事も出来なかった。

そんな時だった。

携帯を見ると、不在着信が入っていた。

陰陽師の先生の家へ、一緒に行った友人からだった。

——あの時、不吉な事を言われた友人。

もうすぐ、また皆で集まる予定になっている。

私はすぐに電話をかけ直した。

「もしもし? 私〇〇! 電話出れなくてごめんね〜! どしたん?」
すると友人は、小さな声で言った。

「今度の食事会なんやけど……私、行けなくなった」

「え?」

「お祖母ちゃんが亡くなって……」

その瞬間、私は思わず先生の言葉を思い出した。

友人も、きっと同じ事を思い出したのだろう。

けれど先生が言っていたのは、“祖父”の方だった。

お祖母ちゃんではない。
友人は鼻をすすりながら言った。

「なんか……あの先生の言ってた事、当たってきてるような……」

私はすぐに否定した。

「そんなわけないやん!」

自分でも驚くくらい強い声が出た。

「お祖母ちゃん亡くなったんは辛いけど、先生が言ってたんはおじいちゃんの方やで? おじいちゃん元気なんやろ? ちゃうちゃう! 絶対ちゃう!」

私は半ば無理やり笑いながら続けた。

「私かて“家に霊道ある”とか言われてんねんで? “オカンがヤバい”みたいな事も言われたし。でも全然くたばる気配ないし!」

慰めになっているのか、自分でもわからなかった
私は半ば無理やり笑いながら続けた。

けれど、必死に否定した。

友人は、幼い頃から祖父母と一緒に暮らしてきた。

私みたいに、年に一、二回しか会わない関係とは違う。

その悲しみは、きっと計り知れない。

結局、食事会は延期になった。

お祖母ちゃんをちゃんと見送って、落ち着いた頃にまた集まろう。
そういう話になった。

——それから三週間後。

再び、友人から電話がかかってきた。

もう少し落ち着いた頃だろうか。

そう思いながら電話へ出る。

「もしもし? どう? 少し落ち着いた?」

すると友人は、泣きそうな声で言った。

「おじいちゃん……一昨日、亡くなってん……」

私は、もう言葉が出なかった。


いいなと思ったら応援しよう!