
夏休みのように終わる人生 #10「たった週1回で人生を変える行動設計」
人生は今から始まるのかもしれない。
その考えは、
数日経っても消えなかった。
むしろ少しずつ、
私の中で大きくなっていった。
しかし同時に、
現実的な疑問も浮かんでいた。
では、
どうすればいいのだろう。
人生に山を作る。
記憶を増やす。
風を感じる。
言葉としては分かる。
けれど、
実際には何をすればいいのだろう。
会社を辞めるのだろうか。
大きな挑戦をするのだろうか。
世界一周でもするのだろうか。
たぶん違う。
私が求めているのは、
人生をひっくり返すことではない。
人生を取り戻すことだ。
その違いは大きい。
そしてある日、
私はひとつのことを試してみた。
それは驚くほど簡単なことだった。
週に一度だけ、
「初めて」を入れる。
ただそれだけだ。
新しい店に入る。
知らない道を歩く。
行ったことのない公園へ行く。
読んだことのない本を手に取る。
初めての体験をしてみる。
時間にすれば、
ほんの一時間でもいい。
いや、
三十分でもいい。
とにかく、
少しだけ風向きを変えてみる。
最初は半信半疑だった。
人生がそんなことで変わるとは思えなかった。
ところが、
数週間続けるうちに変化が起きた。
記憶が増え始めたのだ。
あのカフェの窓際。
あの日見た夕焼け。
初めて入った神社。
偶然出会った人との会話。
小さな出来事ばかりだった。
しかし、
人生は少しずつ色を取り戻していった。
そして私は気づいた。
人生の山とは、
富士山のような大きなものだけではない。
丘でもいいのだ。
小さな丘。
振り返った時に見える景色が少し変わる程度の丘。
それで十分なのだ。
なぜなら、
人生は巨大な出来事によってではなく、
小さな記憶の積み重ねによって形作られるからだ。
その頃になると、
私は以前ほど焦らなくなっていた。
もちろん、
将来の不安が消えたわけではない。
年齢も変わらない。
時間も戻らない。
しかし、
ひとつだけ変わったことがあった。
人生が減っていく感覚がなくなったのだ。
代わりに、
人生が増えていく感覚が生まれていた。
新しい景色。
新しい発見。
新しい記憶。
新しい感情。
それらが静かに増えていく。
まるで、
空っぽになりかけていた帆に、
少しずつ風が入ってくるようだった。
そして私は思った。
人生に必要なのは、
劇的な追い風ではないのかもしれない。
ほんの少し、
帆を膨らませる風でいいのかもしれない。
その風は、
誰にでも吹いている。
特別な才能もいらない。
大きなお金もいらない。
若さも必要ない。
必要なのは、
風を受けようとすることだけだ。
そのことを理解した時、
私はふと、
あの日の少年を思い出した。
海の上で、
ロープを握りながら笑っていた少年。
あの少年は、
未来を知っていたわけではない。
成功する保証もなかった。
人生設計もなかった。
それでも楽しそうだった。
なぜだろう。
今なら少し分かる気がする。
あの少年は、
結果ではなく、
風を感じていたのだ。
そして人生も、
本当は同じなのかもしれない。
その時、
私はある大切なことに気づく。
人生を変える人は、
特別な人ではない。
人生に風を入れ続ける人なのだ。
そして一年後、
そんな人たちは驚くほど違う景色を見ている。
まるで別人のように。
しかし、
それは突然変わったわけではない。
小さな風。
小さな山。
小さな航海。
その積み重ねだった。
そして私は、
その理由を知ることになる。
なぜ同じ一年を生きても、
別人のようになる人がいるのか。
なぜ人生が面白くなり続ける人がいるのか。
その秘密は、
意外にも「思考」にあった。
#11「1年後『去年と別人になる人』の思考法」へ続く