僕の葬式は、最初で最後の作品発表会にしてくれないか
僕の仕事は、孤独死や孤立死の対応なんだ。
ああ、ごめん。唐突だった?もし興味があったら聞いてよ。
知ってるかい?
人が亡くなった後、残されたものはいらない、遺骨までいらないなんて、
よくある話でね。
一切合切不用品扱いにされちゃうんだ。
そりゃあ、手つかずより、きちんと処分してくれるだけマシなんだけど。
きれいさっぱり、何もなくなったら、
お盆には何を目印にして帰ってきたらいいんだろうな。
僕も人生折り返しを過ぎて、残り時間を考える歳だからかもしれないけど。
こういうことに関わってたら、人の最後って、
不自由極まりないなって考えるようになってきたんだ。
少し前の話だけど、ルノー好きの上司がいたんだ。
こだわりが強いし、けんかっ早いし、
人によっては面倒くさい人扱いだったんだけど、
僕がフランス車に乗ってるせいか、妙にウマが合ってね。
僕には飲むたびに、
この街はフランスのジェルブロワと同じポテンシャルがあるんだ!って
熱弁をふるうんだよ。
僕はあまり飲めないから付き合うのは大変だったけど、
ワインが大好きな人でさ。
そのくせ、シュークリームも大好きでさ。
二人で出張の時なんて、洋菓子屋さんがあると、
ちょっと付き合ってって言われて、シュークリームを買うんだよ。
駐車場の車の中で、おっさん二人、並んでシュークリーム食べてさ。
感想言い合うの。
変な絵面だろ?
長いものに巻かれない人でね、
黙ってればもう少し上に行けたんだろうけど。
僕らの提案通すのに、
システムの管理部門に噛みついてくれたことがあってね。
あの時の大ゲンカ、見せたかったよ。
でも、急死しちゃったんだ。
死因?
心臓。
ホント、直前まで普段と変わらなかったんだよ。
ちょっと風邪ひいたかも、なんて言ってたらパタパタっと。
お世話になったからさ。みんなで見送ろうって、葬儀に参列したんだ。
でもね、式場に行ってみたら、何にもないんだよ。
遺影だけでね。
普通のお父さんって顔で笑ってた。
ちゃんとしたお葬式だったんだよ。
だから、かえって、あの人らしくないなって思っちゃった。
例えばさ。
祭壇の白菊を彼の好きなルノーのロサンジュにして、
周りをワインレッドのバラで囲むとか。
焼香の代わりにワイングラスに少しずつワインを注いであげるとか。
シュークリーム山積みでもいいよ。
そんなお葬式だって、僕はおかしいとは思わなかったな。
最後を飾るのが、白い花だけなんて、寂しいじゃない。
上司の一周忌に、シュークリームを焼いて自宅に持って行ったんだ。
そしたら、あのルノーがいつの間にか処分されてなくなってて。
あの人が乗るには意外なくらい、黄色のかわいいフランス車だったから、
よく目立ってね。
あの車が見えるうちは、職場にいないだけで、
自宅にはいるみたいに思えていたんだ。
白木の箱に入っていたのに、それでもまだ、実感が無かったんだろうな。
でも、いざ車が無くなってみたら、
ああ、本当にこの世からいなくなったんだなって、ショックだったよ。
車はどうしたんですか?なんて、聞けなかったね。
だからかな。
僕が死んだら、どうなるんだろうって、改めて考えたんだ。
上司見てたら、いつ死ぬかわからないじゃない。
僕は、好きなものに囲まれて逝きたいんだよ。
レースカーのプラモデルを作ってるんだけど、
買ったまま積んでるのがまだ370個もあってね。
屋根裏の物置に置いてる。
プラモの箱で三方の壁が塞がって、断熱材になってるよ。
作る暇がなかなかなくてさ。
最近は物書きの真似事まで始めちゃったから。
カミさん?
黙認。
ありがたいよ。感謝してる。
だから、休みの日は僕が家事をやってるんだ。
なおさら時間がなくなるんだけど。
できることなら、僕が死ぬまでに全部作り上げたい。
そして、僕の葬式で最初で最後のお披露目をするのさ。
え?ダメダメ。あんな思い出のコーナーみたいなのじゃ足りないよ。
何台かしか置けないだろ?どれもこれも名車だもん。とても選べないって。
祭壇の生花なんかいらないよ。
その代わり、これから作る370台と、
これまで作った30台の合わせて400台、祭壇にズラリと並べる。
そう、まさに作品発表会さ。
スポンサーマーキングで祭壇が色とりどりになるんだ。
ロスマンズブルーから始めて、
レナウンカラーやレイトン・ブルーみたいなポップなやつまで、ズラリと。
自分の好きなものに囲まれて逝ける。
僕には最高の旅立ちだよ。
「どうだ! これが僕の生きてきた燃料だ!」って。
参列者がさ、焼香そっちのけで足を止めて、
僕の遺影よりも完成品に見入ったら、僕の勝ちだね。

その後?
とんでもない。せっかくの作品だもの、参列者になんてあげられないよ。
香典返しにプラモデル完成品のオマケつきなんて大赤字だもの。
息子たちに頼んで、毎日一つずつ、
順番に仏壇にあげてもらおうと思ってね。
ごはんやお茶を供えるより楽だろ?
ま、死んじゃったら、あいつら、どう考えるかわからないけどね。
カミさんにもお願いしているんだけど、
自分が先に逝くって聞かないんだよ。
400台残されても、扱いに困るって。
結局、迷惑になるのかな。
あのルノーも、誰かが困って、決めたんだろうね。
僕の遺したいものも、それと同じなんだろうな。
わがままかもしれないけれど、それでも、どこかに残して逝きたいよ。
僕の生きた時間だからさ。
お盆に帰ってこられるなら、
好きだったもののところに帰りたいじゃないか。
僕が帰ってきたい場所は、白い花の前じゃなくて、
僕が作り上げるカラフルな祭壇なんだ。
fin
#創作大賞2026 #エッセイ部門
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