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第二部・4章「振り向いたらアニメーションの向こう側」「小夜時雨の向こう側」〃青き桜よ〃

    第4章
    「小夜時雨(サヨシグレ)の向こう側」
    〃青き桜よ〃

    一週間程して、岬の長男「秀明」から電話があった。

    なんと生前から、葬儀はするなと言われていて、遺骨をもう持って帰って来ると言う。

    お墓もマンションタイプのお墓だそうだ。

    そして、申し訳ないけれど、ルイ子の喫茶店が閉店してから、岬にルイ子のお店を見せてやりたいと言った。

    ルイ子は、ちっとも嫌では無いし、是非にそうして欲しいと返した。

    客が切れると、閉店の看板を出し、シャッターを半分開けて、一つのテーブルに白い布を掛けて岬を待った。

    秀明は時間通りにやって来て、重ね重ね大変申し訳ないと、深々と頭を下げた。

    遺骨と写真を、テーブルに置いてみると、夢でも見ているのかと、思わずにいられなかった。

    岬はビールが好きで、煙草も嗜んでいた。
    大きめなグラスに並々と泡を立てて置いた。

    岬の吸っていたセブンスターを、少し自分で吸ってから一番小さなグラスに立てた。

    秀明は
    「父さん良かったね。ルイ子さんが、一番父さんを知っていたんだね。お墓に行ったら同じにするからね。良かったね」

    と、たった一人で、総ての後始末をしたのだろう。
    今までの忙しさの糸が切れたかのように、声を詰まらせて泣いた。

    「大丈夫よ誰も来ないから、大丈夫だからね」と、秀明の背中を擦った。

    〃今日は私も泣いていいですか?〃

    お経もないけれど、
    手を合わせて、それぞれの思い出を描いていた。

    たった二人だけの
    私達なりの、小さなお葬式だった。

    煙草が、燃え尽きると落ち着いたのだろう。

    淡々と岬の事を語りだした。

    僕の両親は、今に思えば夫婦仲は良くなかったと思っています。
    いつの間にか両親の寝室が別々になったり、岬がどんなに忙しくて帰れなくても、母親は気楽そうにしていたのが、不思議だと思っていた。

    ルイ子と岬が出会う一年くらい前の時期のようだった。

    しかし、ルイ子との関係は、それよりはずっと後で、家庭内の不和の為に、ルイ子と不倫関係になったとは、言い難いと秀明に話した。

    それも、そのはず、岬は家でも、ルイ子のことを「アニメのお姉さん」と言って、たまに話していたのだそうだ。

    秀明もその点で、ルイ子を疑っては、いないと言った。
    ただ、元より不仲だったのに、母親が離婚を承諾しなかっただけだった。

    岬は転勤後は、何年も海外勤務をこなし、アッと言う間に10年の月日が経ったという。

    そして、あのシルビアの話をしだした。

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    岬はルイ子との、旅行が済むと、シルビアを家には持って来なかった。転勤の日までディーラーに預けて、自分で大阪まで運転して来たそうだ。

    家族はシルビアの、存在を何年も知らず、岬は屋根付きの車庫を借りて、ずっと大事にしていた。

    秀明は、岬と気が合うので、大学は、関西の大学を選んで関西に父親の岬と同居していた。
    友達と遊びに行くので、シルビアを貸して欲しいと頼んだが、断られてしまい、レンタカーの費用まで出してくれたそうだ。

    ルイ子は、その様子を聞いただけで、思い出せば胸が痛くなる。

    〃別れ際に
    「また、連絡するからね。迎えに行くから…」と確かに言っていた。
    お互いにもう、逢うこともないと思っていたのに…〃
    いつものように、お互いに手を振ったのを、昨日のように覚えていた。

    岬は、迎えに行くから…
    それを実行しようと、助手席にはルイ子以外を、乗せる気はなかったのだった。
    岬はやっと、5年前に離婚が成立したが、
    病が発覚した。

    秀明
    「やがて、父には
    病に弱る身が、擦りきれて行く音が聞こえたのでしょう。
    貴女の指に、はめたかったエンゲージリングを、ペンダントに作り変えたり、資産を処分したりしたんです。

    その身に降り続く雨の中で、貴女との僅かな時間だけが、鮮やかに残り続けていたんでしょう。

    貴女が会いに来てくれた時には、視力も相当に落ちていました。
    父の目に映ったのは、若い頃の貴女だったのかも知れないです。

    貴女の存在を知ったのは、あのシルビアを眺めていたいから、持って来て欲しいと言われました。

    車検に出したんです。
    ダッシュボードの車検証の間に、父と貴女の若い頃の、ポラロイド写真と、ペンダントを見付けました。

    見たことも無いような父の笑顔と、少し恥ずかしそうな顔の貴女が写っていました。

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    誰なのか聞きましたよ。

    そうしたら、アッサリとルイ子さんの事を話したんです。
    そして、どうしても会いたいって…」

    ルイ子
    「そうだったんですか。。
    旅先で岬さんが、あるご夫婦の写真を撮ってあげたの。
    お礼に私達も撮して、プレゼントして下さったんです。
    その時に、そのご夫婦の旦那さんが、若い奥さんで羨ましいって仰ったんです。
    私がビックリしたら、岬さんが、、

    「ええ、ありがとうございます。16離れていまして、最近結婚しました。
    って、戸惑いもせずに言ったんですよ。
    私、嬉しかったんです。そう言われて…」 

    秀明
    「父は有言実行の人でした。
    家庭の状況から考えても、嘘では無かったと思います。
    エンゲージリングも用意していましたし。もっと早く離婚したかったんです。その言葉を信じてあげて下さい」

    ルイ子は、胸に掛かったリングペンダントを握りしめていた。

    秀明は、鞄の中にあった額に入れられている写真を見せた。

    ルイ子は、写真に向かって、
    「あなた、ありがとう。。ずっと見ていてくれたんですね…
    私を、いったん離れさせたんですね…
    暫くの間は胸の何処かで、迎えに来てくれるんじゃないか?
    って、思っていました」

    初めて人前で、岬さんと呼ばなかった。

    秀明は、
    貴女が生きているのに、申し訳ないけれど、この写真を一緒にお墓に置いてあげて良いですか?
    ずっと孤独で病と向かい合って、貴女を迎えに行きたかったんです。

    僕は、なぜもっと早く話さなかったのか?
    なぜ少しでも一緒に暮らさなかったのか?
    って聞きました。

    そうしたら、彼女はきっと一緒に暮らしてくれたと思う。
    後先考えずに、仕事も断り必死で看病もしてくれたと思う。
    でも…
    自分が逝ったら何が残ると思う?
    醜い現実しか残らない…

    実際、父の言った通りになりました。

    「案外、預金が少ない」
    なんて、親戚に言われたりしました。

    この、醜い現実に貴女をさらしたく無かったんですね。

    秀明さん、ありがとう。
    最期の日に「楽しかった、幸せだった」
    って、言ってくれたんです。

    そうしてあげて下さい。
    私、嫌じゃないですから。
    少しも嫌じゃないです。

    白々と夜が明けてきた。
    ルイ子は、秀明の運転で、岬の遺骨を膝に抱えて、お墓まで一緒に行く事になった。

    車中
    「ルイ子さん、この車ね。レストアに出します。ホイルとか替えて、綺麗にオールぺンして、新しく生まれ変わるんです。
    でも、結局はルイ子さんしか、助手席に乗せない気がするんですよ。
    きっと墓参りにしか使わないと思いますし…」

    「あらっ。嬉しいけれど、貴方は何と言うのかしら?」
    膝の上の岬に話し掛けてみた。

    「当然だって…」
    と、秀明が代わりに答えた。

    朝もやに霞む白いシルビアは、 17年の時を縫うように走った。

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    〃著者の戯れ言〃

    小夜時雨
    越えて春雨
    降るころに
    君と見し夜の
    青き桜よ

    小夜時雨の向こう側に、
    春が来たなら、
    私はまた、あの桜を見上げます。
    あの日の桜が青かったのを覚えていますか?
    貴方も一緒に見てくれるでしょうか。

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    元・アニメ背景18年、グラフィックデザイン、面相師。絵に携わってきた時間を土台に、今は小説と絵を綴っています。挿し絵は自作ですが、Ai修正したものもあります。どうぞ静かにお立ち寄り下さいませ。お茶を一杯いかが?