
エピローグ「振り向いたらアニメーションの向こう側」〃千々の秋 一つの春に〃
〃千々の秋 一つの春に〃
劇場のドアに手を掛けた時、
軽く、頭をこずかれた。
振り向くと悠布木が立っていた。
「ヨォ!ルイ子久しぶりだね。
一緒に映画なんか観た事無かったね」
ルイ子は、ハッ!と振り向き驚いたが、悠布木に手を引かれ、そのまま二人で後ろの方の席に座った。
思っていたより盛況なようで一安心していた。
悠布木は、かつてルイ子がこらの詩が好きと言った「伊勢物語」の二十二段を思いだしていた。
「秋の夜の千夜を一夜になずらへて、八千夜し寝ばやあく時のあらむ」
「長い秋の夜を千夜分まとめて一夜に見立て、さらに八千夜も一緒に寝たとしたら、一体いつ飽きる時が来るだろうか(来るはずがない)」
映画が終わりエンドロールが流れ始めた。
すると、
この作品に関わってくださった、
すべての方へ。
名が残った方も、残らなかった方も、
その一枚、その一筆、その一日がなければ、
画面は完成しませんでした。
心より感謝いたします。
と最初に流れて来た。
暫くしてから、
協賛
二見デザインルーム
その下に岬とルイ子の名前が並んでいた。
まだ、どうしてなのか?
ルイ子には意味が解らなかった。
本来なら、ルイ子の仕事は、区分から判断すると、出版社の中に割り当てられるのが通常だった。
そして、「個人」の寄付の区分には、悠布木の「師」であった杉田健吾の妻の名もあった。
この作品には、杉田が見たかった悠布木を通したカタチがあった。
外に出ると、雨は上がって夕焼けが辺りを染め始めていた。
二人は坂道を、ゆっくりと降りながら歩いている。
悠布木は、
ルイ子、岬さんって。。あの人は大した人だったなぁ。
自分がボロボロになって行っても、ずっと胸の奥には明かりを灯し続けていたんだな。
マジで男でも惚れるよ。
倉橋も完敗だと言ったな。
倉橋と打ち合わせの時に言ったそうだよ。
使う事が出来ない「金」など、ただの数字だって!
でも、この数字が人を育てたり、誰かを楽しませたり出来たら、ただの数字では無くなる。
そう、言ったそうだよ。
普通の男じゃないさ、普通は金を出せば、その金をただ増やそうと投資するだけよ。
でも、あの人はこの作品に、灯りを遺したんだね。
倉橋は、その金を無駄に逃がさなかったんだな。。
きっとあの人は、アニメ業界の金の流れを調べ、倉橋を信じたんだなぁ。何回か会っていたらしいし。
倉橋だって、自分の原作を薄く作りたくは無いしな。
チーム片桐を会社にして、そこへ作画費の出どころを統一させたんだ。
自分がいなくなっても、カタチを残したかったんだろうね。
シリーズ化も決まったが、再登場するのは、ワルキューレのみで、二作目からは全く設定が違うから、通常の予算で行けるそうだよ。
倉橋も、良く考えたなぁ。
でなぁ、
二見デザインルームの協賛金として、たぶんあの人が殆ど出してると思うけど、お前をスタッフ名に入れて協力する形になった。
金額は個人ではおろか、協賛だって、そうは出さない金額だった。
だから、
協賛のエンドロールにトップに載った。
協賛
二見デザインルーム
岬 慎一郎
小暮ルイ子
二見信弘
あの人さ、きっとお前と並んでテロップに載りたかったんだろうって。。
倉橋が気を利かしたんだ。
生前に、こんな感じで載せますって、見本を送っていた。
だから、総てを知った上での旅立ちだったんだよ。
ルイ子は、本当にこの作品を見て欲しかった。
観ずに逝ってしまった事が悔しくて仕方がなかった。
けれど、いつものように先回りして、ルイ子達を抱き止めてくれた。
フッと車道を見ると、あのシルビアが、向かいからユックリと上がって来た。
すっかり、レストアされた、
パールホワイトの車体は、夕日を映して貴婦人のように、優雅な香りを漂わせていた。
秀明が片手を挙げて、挨拶をしながら通り過ぎていった。
背中がゾクッとする程に
岬が運転しているのか?
と思う程に似ていた。。
いや、岬だったのかも知れない、あんなふうにルイ子を迎えに来たのだろう。
と思うと、どうしても涙が溢れ出してしまう。
「やあ、ルイ子待たせたねっ!」
って。。

「ん?どうした、感動して泣けたか?こんな胸で良けりゃ、いつでも貸すよ」
と、肩を組んできた。
「先ほどの車の人ね。岬さんの息子さんよ。
わざわざ劇場まで来てくれたのね 」
悠布木は車を見送りながら。。
〃あの青年が、チーム・片桐の出資者なのか〃
と感慨深げに見送った。
夕空を仰ぎ見て… 岬に語りかけた。
もう、そろそろルイ子を、返して貰ってもいいかな?
「なぁルイ子。俺の事、嫌いか?」
「ぇえっ?解らないゎ、17年も離れていたんだもの。。」
「そうか。。それじゃ好きになるまで待ってやる!」
夕焼けの坂道を、街路樹が長く影を落として、吹く風に落ち葉が舞い上がっていた。
「明日のカタチ」
を描き出しているようだった。
君よ!そのままで…
〃終わり〃
〃千々の秋 一つの春に むかはめや 紅葉も花も ともにこそ散れ〃

〃著者の戯れ言〃
伊勢物語・九十四段より
〃千々の秋 一つの春に むかはめや 紅葉も花も ともにこそ散れ〃
現代語訳
多くの秋を合わせても、一つの春にかなうでしょうか。でも秋の紅葉も春の花も、みな散っていきます。
また、譬えをもって詠んでいる。今の夫のような男(秋)は何人いても一人の昔の夫(春)に及ぶものではない。しかし、どちらも浮気心は同じなので(今の夫を優先するのです)と言って、事のついでに(昔の夫が)浮気性であったことをうらんで遣ったのである。