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第二部・3章「振り向いたらアニメーションの向こう側」〃最期の雨〃

    「最期の雨」
    〃あの日のままで…〃

    2000年10月の中頃。

    ホスピスの個室にて
    岬は倉橋が送ってくれた雑誌を読んでいた。

    ページを開く度に、彼らの作品に取り組む意欲や決意が伝わって来た。

    脚本や原作も読んだし、キャラクターも一部紹介されていて、これを動かすなんて、容易では無いのだろうと思った。

    スタッフの顔写真に、悠布木や他のスタッフの写真もあった。

    悠布木には、誰もがコメントの内容から、一目を置く様子が伺えた。
    自分の資金を永く愛される作品に、仕上げてくれた事に、敬意を持てるようになっていた。

    長男も、チーム片桐の監査役に据えた。

    ただ、ルイ子はポスターの下に小さく名前があるだけだった。

    10月の20日を過ぎた雨は冷たさを感じるようになっていた。
    ルイ子に
    「光刹のワルキューレ」のDVD とアニメ・コミック、雑誌が郵送されてきた。

    間も無くだった。

    1本の電話が掛かってきた。
    岬の長男からだった。

    それは、予期せぬ知らせで、
    岬が入院しており、ルイ子に会いたいと言っているので、会ってやって欲しいと…

    渡したい物が有ると言う。

    最期の岬の願いなのだと告げられた。

    ルイ子は、矢も盾もたまらず、最終の新幹線で向かうと話した。

    最寄りの駅に着いたのは、日付けが変わった真夜中だった。

    面会など出きるのか?

    と岬の長男に電話で聞いたら、病院に話してあるので、差し支え無いという事だった。

    あの頃の岬に良く似た青年に、促されるままに、病室のドアをあけた。

    そこには、ベッドの背を上げ枕にもたれている、時を刻んだ岬が微笑んでいた。

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    そして、あの時と同じ口調で、少しかすれた声で呟くように言った。

    「ルイ子遅いじゃないか?来ないのかと心配したよ」

    ルイ子
    「あら、ごめんなさいね。打ち合わせしていたものだから…」

    調子を合わせて答えた。

    長男はナースステーションへ行くと言って、そっと病室を出ていった。

    ルイ子は窓際に座り、窓のカーテンを少し開けた。

    カーテンの隙間から、いつかルイ子を乗せた白いシルビアに似た車が、雨に打たれていた。

    ルイ子
    「あれ、あの白い車…
    旅行に行った時の車に似ているね?懐かしいわ」

    「アハッ!似てるんじゃ無いよ。あの車だよ、あまり乗らずに、ずっと大事にしていたんだ」

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    岬は、あの時から時を止めたような生活をしていた。

    ルイ子は、二見デザインルームで、受けた広告や建築パースの見本を見せながら、あれや、これやと話して、携帯電話の写メで、店内の画像を見せながら、今でもアニメの仕事も現役だと話した。

    岬は少し疲れたようで、目を閉じていた。
    ルイ子は布団を肩まで掛けようとして、岬に覆いかぶさるような姿勢になった。

    岬は何も言わなかったけれど、
    首筋に手をまわして、そっと唇の横に頬を付けて、下唇をそっとかむように口づけた。

    「どうして、連絡をくれなかったの?私だって、出会った頃の、貴方の歳になったのよ?
    何時までも子供じゃないし、あんなにお世話になったんだもの。。何か出来たのに…」

    岬は目を半分開けて、弱々しくはあったが、ルイ子の手を握り締めた。

    岬
    「ずっと気にしていたよ。二見に時々連絡もしていた。君が引っ越した事も、喫茶店を営んでいることも知っていた。
    そして、安心していたよ。
    身体がこんなに弱らなかったら、連絡していたと思うよ。
    でもね、この結果が解っていたから、あの頃のままでいたかったんだ」

    ルイ子
    「その喫茶店の頭金の一部にね。貴方が置いて行ってくれた、お金を使わせて頂いたのよ。いつまで経っても、心配かけていたのね。お礼が遅くなってしまって…」

    岬は首を横に降りながら。

    「幸せだったよ。楽しかった。
    今日、あの頃のままのルイ子に会えたから。
    少しも変わらないでいてくれたね…」

    枕元に置いてあった箱の中から、エンゲージリング・ペンダントを出した。
    中央には、金のハイヒールに、アメジストとダイアの、花をあしらったチャームが揺れていた。

    リングの内側に、1983/2/19
    と刻印されていた。
    旅行に出掛けた日付けだった。

    大安だったので、シルビアの納車も同じ日だった。

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    〃せめて、君の胸に…〃

    「指に、はめてあげたかった。」と岬が言いかけたら。

    「解ってるって。。貴方が嘘つきじゃ無いって、解ってるから。。」

    と、ペンダントを首に掛けて見せた。

    私ね…
    手紙の中の返歌を考えてあったの。

    〃絶えずして 夢路にのみぞ 通うなる うつつより濃き 君の面影〃

    返して、

    〃雨の夜は 君を思へど 嘆かじな 逢ひしその日の 音を抱きつつ〃

    岬は本当に嬉しそうに頷いていた。

    「うん、良く出来ました。ルイ子らしい返歌だね」

    〃逢ひしその日の 音を抱きつつ〃


    「今日も雨だね。明日も雨なら、また逢えるね」


    「ええ、もちろんよ。ずっと側にいるからね。
    DVDを持って来たから、まだ、発売前の作品をみましょうね。」


    「それは、朝が楽しみだね。そろそろ寝ようかな。。」

    と目を瞑った。
    ルイ子が岬の手を、布団の中に入れてやっていると、岬の長男が戻ってきた。

    ルイ子は、唇に人差し指を立てると、明日また来ますね。と小声で言って病室を出た。
    粛々と降る雨に打たれている、あの日のシルビアを横目に、タクシーを拾いホテルまで急いだ。

    しかし、岬は明け方に、誰にも看取られないまま、静かに息を引き取った。

    泊まり込んでいた長男が、病室を、ほんの少し空けた隙に亡くなっていた。

    「父さん。。あの人を待ってたんだね。
    でも、チョっと早いよ。
    俺も一緒にビデオ見たかったよ」



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    〃著者の戯れ言…〃

    〃絶えずして 夢路にのみぞ 通うなる うつつより濃き 君の面影〃
    ◼
    絶え間なく 夢の中へと通うのは、現実よりも鮮やかに浮かぶ あなたの面影〃

    〃雨の夜は 君を思へど 嘆かじな 逢ひしその日の 音を抱きつつ〃
    ◼
    「雨の夜にはあなたを思うでしょう。けれど、ただ嘆いてばかりはいません。あの日の雨音を胸に抱いて生きてゆきます」

     
     
    元・アニメ背景18年、グラフィックデザイン、面相師。絵に携わってきた時間を土台に、今は小説と絵を綴っています。挿し絵は自作ですが、Ai修正したものもあります。どうぞ静かにお立ち寄り下さいませ。お茶を一杯いかが?