
山の暮らしの物語44 ドッジボールに夢中
< このシリーズは
戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです >
春が来て ゆきちゃんは三年生になり、学校は一段とにぎやかになった。
お昼休みの校庭では
ボンッという音に続いて、キャ〜と女の子達の声があがる。
この頃、ドッジボールが流行っているのだ。
男の子も女の子も、一緒に夢中になっている。
その時、ヨシオにボールが行ったので、ゆきちゃんは緊張した。
行く先々で、こいつが来ると杉の木が枯れると言われるワンパクだ。
女の子にも、手加減しないで、きついボールをぶつけて来る。
まともに受けると、痛くて息が止まりそうになる。
仲良しの美穂ちゃんが、まともにヨシオのボールをくらって転んだ。
でも、勝ち気な彼女は、それでもボールを離さなかった。
すかさず、油断したヨシオにぶつけてアウトを取ったのだ。
膝小僧を擦りむいて
立ち上がった美穂ちゃんに、女の子達は大喜びする。
こうしてドッジボールは、大いに盛り上がっていた。
ただ、ちょっと困った事もある。
この学校は山の上にある。
狭い校庭は、ぐるっと金網のフェンスで囲われているが
時々、この2メートルほどのフェンスを超えて
ボールが飛び出してしまうのだ。
今日も、ヨシオが背の高い健太郎にぶつけたボールが
勢いよくはねて、飛び出してしまった。
ボールは、林や薮の中を勢いよく転がり落ちてゆく。
誰もすぐに追いかけたりしない。
転がってゆく先をじっと目で追いかけて
どのあたりで止まったのか見当を付けておかないと、探せないからだ。
皆でフェンスにつかまって、行方を見守る。
「あ〜あ」
「だいぶ 下まで行ったぞ」
「よっしゃ あの谷のあたりやな」
ヨシオと弟分の進が、藪の中を駆け下りて行く。
これで、今日のゲームはお終いになった。
だけど、大きなボールだから、なんとかなる。
たまには、校庭からボールが見えている事もある。
これが野球のボールだと、そうはゆかない。
どこに行ったか全く分からなくなるのだ。
ホームランなんか打ったら、それで終わりだ。
向こうの山まで飛んでゆくだろう。
これじゃ 野球なんて、できやしない!
だから、この学校には野球がない たぶん。
さて、ボールを探しに行ったヨシオと進は、なかなか帰って来なかった。
始業のベルが鳴って、この時間は男先生の算数の授業だ。
「ん ヨシオはどうした?」
「ボール拾いに行きました」
「また あいつか…」
先生は、苦笑して黒板に向かった。
ヨシオは、力も強くて、運動や工作は得意だ。
だが、算数は苦手なのである。
前はこちら
次はこちら 未