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山の暮らしの物語42 岩のほこらの郵便ポスト


    < このシリーズは
      戦後、ある山村に実在した一家をモデルとして、創作したものです > 


    冬休みになって、ゆきちゃんは初めての年賀状を書いた。

    去年は、風邪をひいて寝込んだので
    小学2年生の冬になって、生まれて初めての年賀状だ。

    下手くそな絵と、それよりはマシなひらがなが並んでいる。
    全部、学校のお友達宛てだ。
    なにしろ よそに知り合いはいない。

    「母さん 年賀状出しに行ってくる〜」
    「気ぃ 付けてな」
    お正月の仕度に忙しい母さんに声をかけて
    ゆきちゃんは、山道を駆け降りて行った。


    「おはようございます」
    「おはようさん、どこ行くんや?」
    「年賀状 出しに!」

    うれしくて、ご近所のおばちゃんに、チラッと年賀状を見せると、
    川沿いのいつもの通学路を行く。

    この村には、赤いポストはない。
    通学路の途中 くり抜いた岩の中に、ほこらみたいな木の箱を据えてあって
    お手紙はそこに入れるのだった。

    川の流れが速くなって、音を立てて谷底へと下って行く手前に、
    土橋 (注1) がかかっている。
    その橋のたもとに、ほこらの郵便ポストはあった。
    上の差込口から葉書を入れると、ぽそっと軽い音がした。

    ゆきちゃんは、ちょっと楽しくなった。
    ここに入れた年賀状がお友達に届くなんて、なんだか不思議だ。

    ( ほんとうに 届くのかな? )

    その時、どこかで小鳥の声がした。
    振り向くと、土橋の向こうで真っ赤なガマズミの実が揺れている。
    この地方では、シブレと呼んでいる。

    普段は行かない道だけど、ガマズミの枝を採りたくて橋を渡った。

    川の水音を聞きながら、赤い実をもいでいると
    ふと、小さい頃の出来事を思い出した。


    母さんが帰って来なかったあの日の事だ。
    ゆきちゃんが、まだ小学校に上がる前だった。
    この橋のところまで迎えに来て、ずっと待っていたのに
    薄暗くなっても、母さんは帰って来なかった。

    ゆきちゃんは、心細くて泣き出した。
    川の水音がやけに大きく響き、あたりの山が暗くなって来たあの日…


    それに
    行商のおじさんが遭難したのも、この橋の下流の深い谷だった。
    あたりは木が茂って、昼間でも薄暗く
    通学路から見下ろすと、ちょっと怖くなる場所なのだ。


    でも、今日は大丈夫!
    おひさまは高いところにあるし
    母さんは、お家でお正月のご馳走を作っている。

    ゆきちゃんは、ガマズミの小枝をかかえ、
    実をもいでは口に入れながら、山のお家に帰って行った。

    種ばかりの小さな実で、あんまり食べるところがないけど
    それでも、甘酸っぱい赤い実にうれしくなって来る。

    そして、年が明けゆきちゃんにも年賀状が届いた。
    山の上まで、郵便屋さんが届けてくれたのだ。
    仲良しのまあちゃんと美穂ちゃん、その他同級生からだった。



    注1 土橋(どばし) 木の橋の一種で、上に土をかけてならしてあって 時には草まで生えている


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