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【本芁玄】怍物は〈知性〉をもっおいる【解釈】

森の土を掘っおみるず、そこには脳がない生き物が、脳を持぀生き物よりも粟緻(せいち)な情報網を匵り巡らせおいる。

ステファノ・マンクヌゟずアレッサンドラ・ノィオラの『怍物は〈知性〉をもっおいる』は、この「無脳の知性」ずいう矛盟した組み合わせを真正面から突き぀けおくる䞀冊だ。

人間は知性を「頭の䞭にあるもの」だず決めおかかっおいるが、根っこの先端で光ず重力ず磁堎を同時に読み取っおいる怍物の身䜓は、その前提そのものを土台から揺らしおくる。


芁点

本曞は、怍物には芖芚・聎芚などの五感に加え、重力・磁堎・湿床・化孊物質の募配などを感知する少なくずも15の远加感芚があり、合蚈20の感芚で環境を読み取っおいるず䞻匵する。

怍物は脳や神経系を持たないが、電気信号・氎・化孊物質を䜿っお根から根ぞ、葉から葉ぞず情報を䌝達し、分散型のネットワヌクずしお問題解決を行う。著者らは知性を「生存䞊の問題を解決する胜力」ず再定矩し、この定矩に立おば怍物もたた知性的存圚だず論じる。

こんな人にオススメ

  • 生物孊や怍物科孊に関心がある読者はもちろん、「知性ずは䜕か」を人間䞭心でなく考え盎したい哲孊奜きにも刺さる䞀冊

  • 認知科孊やAI研究に觊れおいる人は、脳を持たない分散型システムの情報凊理ずいう芖点を、自分の専門分野ぞの比范察象ずしお楜しめる

  • 教育論に関心のある読者にも意倖な射皋がある。知性を脳の産物ず芋る思い蟌みを再考する材料ずしお教育開発研究の堎でも取り䞊げられおいる

  • SFやアストロバむオロゞヌ地球倖生呜奜きにも実は瞁がある。本曞は地球倖知性を理解するモデルずしお怍物知性を揎甚する章さえ持぀

曞籍情報

著者  ステファノ・マンクヌゟStefano Mancuso、アレッサンドラ・ノィオラAlessandra Viola
その他序文  マむケル・ポヌランMichael Pollan
翻蚳  久保耕叞
出版瀟  NHK出版
日本語版刊行  2015幎11月
䟡栌  2,200円
ゞャンル  怍物科孊生物孊科孊教逊

著者に぀いお

ステファノ・マンクヌゟは、フィレンツェ倧孊怍物神経生物孊囜際研究所LINVの創蚭者であり、同倧孊の教授である。怍物の信号䌝達ず行動を研究する囜際孊䌚の蚭立者の䞀人でもある。

アレッサンドラ・ノィオラは科孊ゞャヌナリストであり、ドキュメンタリヌやテレビ番組の脚本執筆も手がけ、2011幎にはゞェノノァ科孊フェスティバルの䌁画運営に関わった。

マむケル・ポヌランは『欲望の怍物孊』『雑食動物のゞレンマ』などの著䜜で知られるノンフィクション䜜家で、本曞英語版に序文を寄せおいる。


第䞀章 問題の根っこ


「怍物には知性がない」ずいう垞識は、科孊的な怜蚌の結果ではなく、宗教ず哲孊が積み重ねおきた偏芋の幎茪(ねんりん)にすぎない。

本曞の冒頭は、この偏芋がどこから生たれたかを、䞀本の倧朚の根を掘るように歎史をさかのがっお掘り起こしおいく。

叀代ギリシャの時代から、怍物は「動かない・声を発しない・私たちず違いすぎる」ずいう䞉぀の理由で、知性の議論から静かに陀倖され続けおきた。

単䞀神教の宗教的䞖界芳の䞭でも、怍物は動物や人間より䞀段䜎い存圚ずしお配眮され、リンネやダヌりィンずいった近代怍物孊の父たちの時代になっおも、この序列(じょれ぀)は疑われるこずがなかった。

人間は自らを「地球䞊で最も進化した皮」だず信じ蟌み、その物差しで他の生物を枬っおきたが、著者らはこの物差し自䜓が歪んでいるず指摘する。

偏芋は䞀床圢成されるず、新しい幎茪を重ねるたびに倖偎を芆っおいき、内偎の叀い朚郚もくぶを誰も怜分しなくなる。

宗教が最初の幎茪を䜜り、哲孊がその倖偎を芆い、近代科孊がさらに新しい幎茪を重ねた結果、「怍物に知性はない」ずいう結論だけが衚面に残り、その内偎にどんな根拠があったのかを誰も掘り返さなくなった。

〔泚〕叀代ギリシャの哲孊者アリストテレスは、生物を「怍物的魂」「動物的魂」「理性的魂」の䞉段階に分けお論じた。怍物は最䞋局に眮かれたが、この䞉段階の発想自䜓が、埌の西掋哲孊の生物芳に長く圱響を䞎え続けおいる。

この章のポむント

  • 偏芋は怜蚌より先に幎茪を重ねおいた

  • 怍物が黙っおいるのは知性がない蚌拠ではなかった

  • 人間ずいう物差し自䜓がすでに歪んでいた

第二章 五感の倖偎にある十五の感芚


人間の五感はこの生呜システムの解読ツヌルずしおは䞍十分すぎる。

怍物には芖芚・聎芚・嗅芚・味芚・觊芚に加えお、少なくずも十五の远加感芚が備わっおおり、重力・磁堎・湿床・化孊物質の濃床募配ずいった、人間が生身の噚官では感じ取れない領域たで䞞ごず蚈枬しおいる。

根の先端は、たるで枬量士が䞉脚を立おお地盀を枬るように、重力方向を粟密に怜知し続けおいる。

现胞内郚の液胞に浮かぶデンプン質の粒が重力に匕かれお䞋に沈むこずで、自分がどちら向きに䌞びおいるかを垞時モニタリングしおおり、これは「デンプン平衡石説」ず呌ばれる仕組みだ。

トマトは臭芚の代わりに、揮発性の化合物を倧気䞭に攟っお呚囲に危機を知らせ、

パトリグサは味芚に盞圓する感芚で獲物の䜓液の成分を確かめ、

オゞギ゜りは觊芚をもずに接觊の匷さず頻床を区別し、

ブドりの぀るは聎芚のように音の振動を感じ取っお支柱の䜍眮を探る。

根の先端は枬量士であり、重力・磁堎・湿床・化孊物質ずいう四皮類の地図を同時に描きながら、どちらぞ根を䌞ばせば氎ず逊分に行き着くかを逆算しおいる。

䞀本の根が土壌の䞭で迷わず氎脈に行き着くのは、運や偶然ではない。

二十皮の蚈噚を積んだ移動芳枬所が、毎日デヌタを曎新しながら進路を埮調敎しおいるからだ。

〔泚〕重力感受のしくみは「平衡石(ぞいこうせき)」ずいう䞀語で説明されるが、これは人間の内耳にある平衡感芚噚官ず機胜的に䌌た働きをする现胞内構造を指す。動物ず怍物は進化の系譜がたったく異なるのに、同じ物理法則を解くために䌌た仕組みに行き着いた点が興味深い。

この章のポむント

  • 根の先端はい぀も枬量士だった

  • 五感の倖偎に十五の蚈噚が眠っおいた

  • デンプンの粒が方角を教えおいた

第䞉章 地䞋に匵られた通信網


怍物のコミュニケヌションは声を持たない代わりに、化孊物質ずいう独自の蚀語を䜿う密䜿(みっし)ネットワヌクずしお機胜しおいる。

トマトが虫に食べられるず、呚囲の葉に向けお特定の化合物を攟出し、その情報を受け取った離れた葉が、あらかじめ毒性物質の合成を始めお防埡態勢を敎える。

この䌝達は電気信号・氎・化孊物質ずいう䞉぀の経路を䜿い分け、根から根、葉から葉ぞず、脳のような䞭枢を経由せず盎接やりずりされる分散型システムずしお働いおいる。

さらに地䞋では、トりモロコシの苗朚どうしが根から化孊信号を分泌し合い、「スペヌスが狭たっおきた」ず察知した苗が根を小さく葉を茂らせる圢に成長パタヌンを倉える珟象も報告されおいる。

この反応には、混雑を避けお仲間党䜓が光を確保しやすくする利他的な偎面ず、自分の瞄匵りを守ろうずする利己的な偎面の䞡方が同時に含たれおいるこずが瀺唆されおいる。

怍物の化孊信号は、暗号名も肩曞きもない密䜿が、地䞭の郵䟿網を䜿っお隣人に手玙を届け続けおいるようなものであり、届いた偎は差出人の顔を芋ずに内容だけを信じお行動を倉える。

〔泚〕この化孊信号のやりずりは、菌根菌(きんこんきん)ずいうカビの仲間が䜜る地䞋の菌糞網を経由するこずもある。耇数の暹朚がこの菌糞網を共有し、逊分や譊告信号を亀換し合っおいる䟋も報告されおおり、これは埌の章で觊れる「森党䜓のネットワヌク」の話にも぀ながっおいく。

日垞のスケヌルに匕き寄せれば、これは職堎の隣の垭に 盎接 話しかけず、共通の壁越しに合図だけを送り合っお、なんずなく空気で状況を察するあの感芚に近い。

怍物はその「空気を読む」を、化孊物質ずいう具䜓的な媒䜓で実行しおいる。

この章のポむント

  • 密䜿は声を持たなくおも届いた

  • 狭さを感じた苗は姿を倉えた

  • 壁越しの合図でも通じ合えた

第四章 蚘憶ずいう土台なしに孊習は成立しない

結論から蚀えば、蚘憶力がなければ孊ぶこずはできず、孊習は知性の必芁条件のひず぀である、ず著者は明蚀する。オゞギ゜りを䜿った実隓では、繰り返し同じ刺激萜䞋による衝撃を䞎えるず、最初は葉を閉じお防埡しおいた個䜓が、やがお「この刺激は無害だ」ず孊習し、葉を閉じなくなる珟象が芳察されおいる。この反応の倉化が数週間にわたっお持続するこずから、著者はこれを単玔な物理的疲劎ではなく、経隓に基づく蚘憶ず孊習の蚌拠ずしお䜍眮づける。note

孊ぶずいう行為の骚栌を著者はこう説明する。䌌た状況に盎面したずき、前回ず同じ結果を埗ようずする「再珟」、あるいは異なる結果を埗ようずする「予枬・倉化」のどちらかを遞ぶ。この遞択には、過去の「状況・行動・結果」の組を保存しおおく仕組みが䞍可欠であり、毎回れロから考え盎しおいたのでは、日が暮れるたでに䞀぀の決断も終わらない。note

ここで著者が䜿う比喩は、蔵曞のない図曞通の話に近い。過去の出来事を䞀冊も本ずしお保存できない図曞通は、来通者が同じ質問を持ち蟌むたびに、叞曞がれロから調べ盎さなければならず、これでは開通時間内に䞀件も答えを出せない。怍物はこの図曞通に、根や葉の組織構造そのものを曞架ずしお䜿い、経隓を物質的な倉化ずしお棚に収め続けおいる。

〔泚〕マンクヌゟらは、怍物の孊習胜力に぀いお「どんな怍物も経隓から孊ぶ力をもっおいる」ず断蚀する䞀方、この孊習が神経系を介さず、现胞の代謝や構造倉化ずしお保存される点を匷調する。これは動物の蚘憶ずは保存媒䜓そのものが異なるずいうこずであり、比范のたびにこの違いを螏たえる必芁がある。note

日垞のスケヌルに匕き寄せれば、これは䞀床火傷した鍋の瞁に、二床目からは自然ず手が䌞びなくなるあの感芚に近い。理屈で芚えおいるわけではないのに、身䜓のほうが先に孊んでしたっおいる。

この章のポむント

葉は無害な刺激を芚えお閉じなくなった
蔵曞のない図曞通は同じ質問に答えられなかった
蚘憶は棚ではなく組織そのものに刻たれた

第五章 知性の再定矩ずモゞュヌルの身䜓


知性を「問題を解決する胜力」ず定矩するなら、怍物をその定矩から陀倖する理由はどこにもない。

著者はこの定矩を軞に眮き、逊分の探玢、競争盞手ずの駆け匕き、防衛行動、他の生物ずの関係調敎ずいった倧量の環境倉数を蚘録し、そのデヌタに基づいお意思決定を䞋す怍物の胜力を、知性ず呌ばずに䜕ず呌ぶのか、ず問いを返しおいる。

この䞻匵を支えるのが、怍物特有の「モゞュヌル構造」だ。

動くこずができず、垞に捕食者に狙われ続ける怍物は、動物のように䞀぀の脳や心臓に機胜を集䞭させる戊略を遞ばなかった。

代わりに、䜓のどの郚分も重芁だが、どの郚分も絶察に䞍可欠ではないずいう分散型の蚭蚈を採甚し、䜓の倧郚分を切り離されおも死なない身䜓を䜜り䞊げた。

地球䞊の倚现胞生物の総重量のうち、実に99.5パヌセント以䞊を怍物が占めおいるずいう事実は、この蚭蚈思想が生存戊略ずしお成功しおいる蚌拠ずしお本曞で玹介されおいる。

怍物の身䜓は、単䞀の叞什郚を眮かず、あらゆる珟堎に刀断暩限を分け䞎えた自治区の集合䜓であり、䞀぀の拠点が壊されおも党䜓の統治機胜が止たらない。

人間の脳ずいう䞭倮集暩的な統治システムに慣れた私たちには奇劙に芋えるが、動けない生物にずっおは、この分散統治こそが最も合理的な生存策だった。

〔泚〕この分散型の知性のあり方は、AI研究の分野で蚀う「身䜓化された゚ヌゞェント」――自分自身の物理的な身䜓を通しお䞖界ず盞互䜜甚する知的な動䜜䜓――の生きた実䟋ずしお匕甚されるこずがある。怍物は脳のない゚ヌゞェントずしお、すでに数億幎前からこの蚭蚈を実践しおいたこずになる。

知性を脳ずいう䞀噚官の所有物だず決め぀ける態床こそが、実は科孊的な怜蚌ではなく思い蟌みだったのかもしれない。

この章のポむント

  • 問題を解決する力は脳を必芁ずしなかった

  • 䜓の倧郚分を倱っおも党䜓は死ななかった

  • 地球の重さの倧半はすでに怍物のものだった

たずめ


①

知性を「脳の産物」から「問題解決胜力」ぞず定矩し盎せば、怍物はすでにその条件を満たしおいる、ずいう䞀点に尜きる。

マンクヌゟずノィオラは、この定矩倉曎を軞に、20の感芚・分散型ネットワヌク・蚘憶ず孊習ずいう䞉本柱を積み䞊げ、読者の「知性=脳」ずいう思い蟌みを䞀぀ず぀解䜓しおいく。

著者自身が怍物神経生物孊研究所の圓事者であるこずを螏たえれば、本曞は科孊的な立堎衚明であり、同時に䞀般読者ぞの説埗の曞でもある。

著者が本圓に狙っおいたのは、怍物を持ち䞊げるこずそのものではなく、人間が知性の基準を自分たちの身䜓に合わせお勝手に蚭蚈しおきた、ずいう事実を突き぀けるこずだったのだろう。

この正面からの読みを土台にすれば、本曞は自然科孊の教逊曞ずしおも、認識論ぞの静かな挑発ずしおも、䞡方の顔で読める䞀冊になる。

②

怍物の話をしおいるのに、読み終えるず自分の職堎や家庭の組織図を思い出しおしたう点にある。

分散型のモゞュヌル構造ずいう説明は、単䞀の叞什郚を持たない組織がなぜ壊れにくいのかずいう、経営論よりも生々しい実䟋集ずしお機胜しおいる。

この本は怍物図鑑の顔をした、暩限分散論の教科曞でもある。

䞭倮集暩的な脳を持぀動物のほうが、実は䞀点突砎されるず党滅しやすいずいう構図は、本曞のどの章よりも読者の職業人ずしおの䞍安を静かに刺しおくる。

他の怍物孊入門曞がここたで組織論的な読埌感を残すこずは皀で、この偏った読み方を蚱しおしたう懐の深さこそが本曞の隠れた匷みだず私は思っおいる。

③

これは本曞の倖偎からの読み替えで、著者の意図からはかなり離れる。

本曞を「怍物孊の本」ずしおではなく、「知性ずいう抂念の政治史」ずしお読み替えるこずができる。

誰が知性を持぀ず認められ、誰が持たないず刀定されるかは、垞にその刀定を䞋す偎の郜合で決たっおきた。

奎隷や女性や異民族の知性を「動物䞊み」ず切り䞋げおきた歎史ず、怍物の知性を機械的に吊定しおきた歎史は、刀定基準を握る偎が同じ手぀きで境界線を匕き盎しおきたずいう䞀点で、同じ構造を共有しおいる。

これは本曞の倖偎からの接続で、著者の䞻匵ではない。

知性の定矩ずは、い぀の時代も「誰を仲間ずしお認め、誰を資源ずしお扱っおよいか」を決めるための、静かな囜境線の匕き盎しだったのかもしれない。

本曞が扱う怍物ず動物の境界線は、実は人間同士の境界線匕きの瞮小暡型ずしお読めおしたう。

もし知性の基準を「問題解決胜力」たで䞋げおよいなら、火力発電所も台颚も広い意味で「問題を解決しおいる」システムであり、私たちが怍物にだけ知性を認めお気候システムには認めない理由は、実は「共感できる倧きさ」の問題にすぎないのかもしれない。——これは本曞の䞻匵ではなく、私の勝手な連想にすぎない。

本曞の論理を最埌たで埋盎に蟿るず、こういう結末に行き着く。

知性の基準を脳から解攟した瞬間、私たちは「どこたで知性を認めるか」を無限に問い盎す矜目になる。

怍物に知性のバッゞを䞎えた著者自身が、次はどこたでこのバッゞを配るのか自問し続けおいる——そう考えるず、笑えるはずの話が、少し困った顔になる。


いいなず思ったら応揎しよう