かみなりの告白 第3話 ふつうの声で話す家|ともしびの仲間たち
夜ふけ、コトはカイのあとを追って、壁の外へ出ます。
小さな小屋の戸が開くと、
この谷ではじめて聞く「ふつうの大きさの声」がしました。
今回のことばは How long have you 〜?
「どのくらいずっと〜?」と、should。
英語 約535語 / 読む時間 約6分 / 朗読 4分24秒

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壁の小さな戸は、まだ開いていた。外の夜は広くて灰色で、カイの小さなランプが、道のずっと先でゆれていた。
コトはあとを追った。足音を立てずに歩いた──静かでいることが、ついに、何かの役に立った。
最初の角で、影がひとつ、足音もなくとなりにすべりこんだ。ナギだった。「…起きてたから」
それだけ言った。
カイは、山のふもとの小屋の前で止まった。
小屋は少しかたむいていたけれど、
窓はあたたかかった。

カイはノックした。タン……タン・タン。
ひみつのノック。
戸が開いて、光と声がいっしょに出てきた
──ほんものの声。
ふつうの大きさの声。
この谷に来てから、はじめて聞く声だった。
「カイ! お入り、お入り。
それから、そのふたつの影さんたちもね」
カイはくるっとふり向いた。
コトとナギが、暗がりの中で、
見つかって立っていた。
小屋の中は小さくて、きれいだった。
ほしたハーブが天井からぶら下がり、
ストーブの上でやかんが歌っていた。
おばあさんは小さくてまるくて、
鳥みたいにすばやい黒い目をしていた。
オトだ。
「またパンかい」と、カイのかごを受け取りながら言った。
「あんたはわたしを太らせる気だね。
おすわり。みんなもだよ。
ここでは、ささやかない。
ここには、わたしと空しかいないからね。
空は、大きな声のおしゃべりが好きなのさ」
「これはパン!」
トモがかごに飛びこみながら歌った。
「あったかいパン!」
「…パン」とコトは言った。
しゃべる火花を見ても、
オトはまばたきひとつしなかった。
パンを切りながら、
コトのランプの中の、四つの小さな光を見た。
「四つ」とオトは言った。
「赤、青、シアン、緑。
ほう、ほう。じゃあ、ほんものだね。
ランプの旅人の話は、聞いたことがあるよ」
「ここには、どのくらい住んでいるの」
とナギがたずねた。
「三年」とオトは言った。
三日、みたいな言い方だった。
オトはカイが食べているあいだに
コートのボタンをつけ直し、
からになったかごに茶色い卵を六つ、
むりやり持たせた。
カイはささやき声で抗議した。
オトはふつうの声で勝った。
カイのランプがまた道のずっと先まで行ってしまうと、
オトはコトとナギのほうをふり向いた。

鳥の目が、するどくなっていた。
「かみなりのランタンを取りに来たんだろう」
とオトは言った。
「なら聞きな、ちいさなランプ。
あのランタンはね、
たったひとつのものにしか灯らない。
何もかくさない声。
それだけさ。
それから、空?
空はおこってないよ。
空は三年間、質問をしてるんだ。
ゴロゴロ、ゴロゴロ──
同じ質問を、何度も何度も。
だれかが答えなきゃいけない。
声に出して。
大きな声でね」
「…ほんとうのことを、町の人に言うべき」
とナギが静かに言った。
「鐘をわったのは、あなたじゃない」
オトはほほえんだ。
あたたかくて、同時に、
がんこなほほえみだった。
「ほんとうのことにはね、
わたしのものじゃないものも、あるのさ」
オトは、
カイが帰っていった暗い道に目をやった。
それから、コトの手を、小さなかわいた両手で包んだ。
「あんたもだよ、ちいさなランプ」
とオトは言った。
「のどの奥に、質問がつかえてるね。
聞こえるよ。
あんたは、
あんたの質問に、もう答えたのかい?」
コトは口を開けた。

何も出てこなかった。
ふしぎな一瞬、コトは小屋の中にいなかった
──灰色の海のそばの、
こわれた町にいた。
だれも決して言わない名前の前に、
立っていた。
オトはコトの手をぽんぽんとたたいた。
「おやすみ」とやさしく言った。
「答えは重いからね。ゆっくり、持って帰りな」
「あんたの質問に、もう答えたのかい」。
------To be continued
コトは、口を開けたままでした。
つづきは、また明日。
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