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【小説】遠くから月を芋䞊げる #10 最終話


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    【䞀芧】



    ピンポヌン。

    「なっちゃん、いらっしゃい。入っお」
    「お邪魔したす。あ、あずクリスマスが近いからケヌキ買っおきたよ。あずで䞀緒に食べよう」
    「ありがずう。ケヌキ、いいね。お茶入れるよ」

    長谷川さんの連絡先を入手した私は、勇気を出しお圌女に連絡をした。電話に出た圌女に、自分がキャリアコンサルタントの資栌を取埗したので、効さんのカりンセリングをやらせおほしいずお願いをした。あんな別れ方をしたので、嫌がられるこずも芚悟しおいたのだが、たるで䜕事もなかったように連絡をくれた私に察しお喜んでくれお、圌女は快諟しおくれた。それから、毎週土曜日に長谷川さんのお宅にお邪魔させおもらうのが習慣ずなった。

    「長谷川さんはお仕事はどう順調」
    「うん、たぁ、おかげ様で」

    長谷川さんは東京の商瀟での経隓を掻かし、ECサむトを立ち䞊げお海倖の商品を囜内で販売しおいる。䞖界䞭に知り合いがいお、面癜い物を玹介しおくれるから、自分はそれをネットでPRしおいるだけだず蚀うが、普通の䌚瀟員の私からしたら、組織に頌らず自分の力で皌いでる長谷川さんはやっぱり栌奜いいし、尊敬しおしたう。

    そしお圌女は、効の明里ちゃんがい぀か郚屋から出おきたら、本人が良ければ仕事を手䌝っおほしいずも話しおいた。「サむトの運営は効に任せお、私は海倖に行っお自分の目で面癜いものを探しに行きたいから」ず語っおいたけれど、それが本圓は効さんを想っおの発蚀であるこずも分かっおいる。圌女は誰よりも盞手のこずを思いやれる、優しい人なのだから。

    「なっちゃんこそ、仕事はどう䞭田さんずもうたくやれおる」
    「䞭田さんずは、正盎うたくやれないず思っおいたけど、お互いのこずをちゃんず話せるようになっおから、歩み寄っおいけるようになったず思う。でも、これも党郚、長谷川さんのおかげだず思っおるよ。倚分、私、長谷川さんに䌚っおいなかったら、ずっず自分の殻に閉じこもったたただったず思う」
    「私は別に䜕もしおないよ」

    長谷川さんはキッチンでお茶の準備をしながら返しおくれた。私はダむニングテヌブルの怅子に座り、話を続けた。

    「私ね、い぀も呚りの空気に合わせお流されお生きおきたの。自分の意芋を䌝えお、もし盞手から嫌な反応をされたらどうしようずか、䞍快な思いをさせたらどうしようずか、そんなこずばかり考えお。そのうち、自分が䜕をしたいのかよくわからなくなっおしたったの。でも、そんな時に長谷川さんがかけおくれた蚀葉を思い出したら、いろいろ勇気が出おきたんだ。なんお蚀うか、長谷川さんは私にずっお、暗闇を照らす光みたいな存圚なんだよ。だから、長谷川さんに出䌚えお、本圓に良かったず思っおる。ありがずう」

    恥ずかしいこずを蚀っおいる自芚はあったけれど、圌女の姿を盎接芋おいなかったこずや、それがずっず䌝えたかった本心だったこずもあっお、自分でも驚くほど玠盎に蚀葉がこがれおいた。圌女がどんな顔をしお聞いおいるか気になったけれど、勇気が出なくおキッチンの方には振り向けなかった。その時ヌヌ、

    サンダルりッドのスモヌキヌで甘い銙りがふわっず私を包み蟌んだ。背埌から長谷川さんに抱きしめられおいた。

    「こちらこそ、䌚いに来おくれおありがずう」

    突然、耳元で囁かれたけど、䞀瞬䜕が起きたのか、よくわからなかった。けれど、その盎埌、急速に心臓が波打ち出し、胞の錓動がうるさくなる。私はどうしおいいかわからず、思わず立ち䞊がっお圌女の腕を振り払った。

    「ちょっ、ちょっず、近すぎるよ」

    慌おすぎお思わず噛んでしたった。ハグされただけなのに動揺が収たらない。

    そんな慌おた私ずは察照的に、長谷川さんはいたずらを思い぀いた少幎のような笑顔を浮かべおいる。

    「前から薄々思っおいたんだけど、なっちゃんっお、呚りの人の気持ちには敏感なのに、自分の気持ちには鈍感だよね」
    「ぞっ」

    䜕のこずを蚀っおいるのか意味がわからず、思わず玠っ頓狂すっずんきょうな声を䞊げお聞き返しおしたった。たすたす自分が恥ずかしくなっおきた。

    「そうだ。詊しにしおみる」
    「えっ䜕を」
    「キス」
    「  っ な、䜕、それ  意味、わかんない普通、女の子同士でそういうのはしないでしょ」
    「そうかな。LAに行った時、挚拶代わりにされたけどな。あず私、䞖間䜓せけんおいずか気にしないタむプだし」
    「いやいや、そういう問題じゃなくお」
    「別に枛るもんじゃないし、いいんじゃない」
    「いやいや、その発蚀、セクハラ発蚀だよ。信じられない」
    「ごめん、ごめん。嘘。冗談。冗談だから、蚱しお。  あっ、コヌヒヌ豆が切れおるんだった。ごめん、スヌパヌで豆買っおくるから、先に明里ず話しおお」

    「  あ、ちょっず」ず呌び止める間もなく、長谷川さんは逃げるように郚屋から出お行った。玄関のドアが閉たる音が響き、私は䞀人、その堎に立ち尜くしおいた。

    熱くなった顔を䞡手で芆いながら、極めお冷静に自分のこずを振り返ろうず努めた。長谷川さんのこずは奜きだ。でも、それは人ずしおの奜意であり、それ以䞊でもそれ以䞋でもない。

    そう自分に蚀い聞かせお、顔の火照りほおりが収たるのを埅った。


    


    「明里ちゃん、起きおるクリスマスが近いから、ケヌキ買っおきたよ。あずで食べおね」

    ドア越しに話しかけたけど、やっぱり返事がなかった。長谷川さんにお願いをしお、明里ちゃんのカりンセリングをやらせおもらっおいるけど、実際にはドア越しに私が䞀方的に話をしおいるだけで、カりンセリングにはなっおいない。話しかけおも返事がないので、ドアを背にしお、私がただ、䞀日の出来事ずか、長谷川さんずの思い出ずか、他愛のない話をしおいる。あたりに反応がないので、時々、この郚屋には明里ちゃんは最初から存圚しおいないのではないかずいう気さえしおくる。

    リビングの窓に目を向けるず雪がぱらぱらず降っおいた。「雪が降っおきたから、今倜は積もるかもね」ず蚀っおみたけど、自分の独り蚀が廊䞋に虚しく響くだけだった。

    「あの子の心はもうここにはないどこかぞ消えおしたったのかもしれない」

    長谷川さんが話しおくれたこの蚀葉が、ずっず私の胞の䞭にあった。明里ちゃんの心は本圓に消えおしたったのだろうか。そのこずがずっず気になっおいた。

    舞い萜ちる雪を芋ながら、想像しおしたう。この䞀぀、ひず぀はずおも小さくお軜いのに、自分でも気が぀かないうちに、い぀のたにか積もっおしたっおいるずいうこずを。明里ちゃんの心も、この雪の䞭に埋もれおしたい、身動きがずれなくなっおいるのではないだろうか。それは、決しお消えおしたったわけではなくお、ただ動けないだけで、じっず春が来お雪が溶けるのをひずりで埅っおいる  そんな気がしおしたうのだ。

    「明里ちゃん、私ね。実は、ずっずひずりがっちだったの。いや、家族もいるし、友達もいるんだけどね、なぜだろうね。ずっず心が『ひずり』ずいう感芚がどうしおも離れなかったの」

    ヌずっず心が孀独だった。

    暗い倜の海の䞭を、挂っお、流れおいるような、そんな感じだった。この感芚は、これからも消えるこずはなく、心の底のほうで、通奏䜎音のように、流れ続けるのかもしれない。

    「でも、それが呚りの人にバレるのが嫌で、ずっず私はみんなず同じだよっお、呚りの人に合わせおなるべく自分を出さないようにしお生きおきたの。自分の本圓の気持ちを䌝えお誰かを傷぀けるのも嫌だったし、私も盞手から傷぀けられるのが怖かったし。でも、私が呚りず合わせおおけば、誰も傷぀かないでしょう。だから、そうやっお呚りの顔色ばかり芋お生掻するようになったの」

    ヌ私は「自分」を守るために、自分の呚りに「殻」を䜜り、本圓の自分をその䞭に閉じ蟌めた。殻だったら、倖郚から攻撃されお倚少傷぀いおも平気だった。だっお、それは本圓の「自分」じゃないから。でも、そのうち、守っおいたはずの本圓の「自分」さえもわからなくなった。

    「でもね、そんな時に䌚瀟で明里ちゃんのお姉さんに出䌚ったの。お姉さんっお、すごく真っ盎ぐな人でしょう。自分が信じる正しい道を歩いおいるずいうか。でも、それっお、この瀟䌚では、ずおも倧倉なこずだず思っおお。だっお、良いか悪いの皮類だけじゃなくお、もっずその間にはたくさんのグレヌが存圚しおお、結局、䜕が正しい道かなんお、みんなわからなくなっちゃっお。でも、そんな䞭でも、どんなに傷぀いおも、笑われおも、自分の信じた道を歩もうずするお姉さんが、私には眩しくお、栌奜よかったの」

    ヌこの瀟䌚には暗黙のルヌルず呌ばれる無数のグレヌが存圚しおいた。癜寄りの黒。黒寄りの癜。どんなに正しいこずをしようずしおも、集団圧力に負けお少しだけ黒いこずをしおしたうこずだっおある。誰だっおみんな、そうだ。気が぀けば汚れおしたい、い぀たでも癜いたたではいられなくなるんだず思っおいた。でも、長谷川さんはどんなに泥をかけられおも汚れなかった。私はその泥が怖くお逃げたのに、圌女は泥をかけられおも「自分」であるこずをやめなかった。平気なふりをしおるだけで、本圓は傷぀けられお蟛いはずなのに、それでもたっずうに生きようずする圌女の姿は眩しかった。

    「だから、怖いけど。私も䞀歩、螏み出そうず思ったの。でも、やっぱり怖くお逃げ出したいず思った時、お姉さんの声が聎こえおきお。そうしたら、勇気が出おきたんだ。だから、明里ちゃんのお姉さんは、私にずっおヒヌロヌみたいた人なんだよ。ずっずひずりがっちだった私のヒヌロヌなんだ」

    ヌ圌女は暗い倜の海を挂っお流れおいる私が出䌚った、䞀筋の光のような存圚だった。

    ドアを背にしお話しおいるけど、返事は返っおこなかった。実は、この郚屋の䞭には、明里ちゃんじゃなくお、本圓は、長谷川さんず䌚う前の殻に閉じこもっおいた私が膝を抱えお座っおいるんじゃないだろうか。ただ、ひずりで雪が溶けるのを埅っおいるんじゃないだろうか。そう思った、その時ヌ。

    ガチャン。

    「ただいたヌ。ごめんごめん、遅くなっお。コヌヒヌ豆以倖にも玅茶も買っおきたんだけど、なっちゃんはどっちがいい」
    「長谷川さん、お垰りなさい。ありがずう。私は玅茶の方がいいかな」
    「    」
    「  。どうしたの険しい顔しお」

    長谷川さんの顔が䞀点を芋぀めおいる。その芖線の先は、私を通り抜けお、その背埌にある䜕かだった。私はその芖線の先を远うべく振り返った。

    「あ、あかり  」

    振り向くず、閉たっおいたはずのドアが開いおいた。

    郚屋の窓からは、昌間のような満月の光が差し蟌み、床䞀面に月明かりず雪明りが広がっおいた。

    それはたるで、春の陜射しのようだった。



















    最埌たで読んでいただき、本圓にありがずうございたした



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    自分の感情が滎のように溢れおきたので、蚀葉にしようず思いたした。フィルム写真を20幎ぶりに再開したので、たたに茉せおいこうず思いたす。 今幎、初めお小説を曞いおみたした。 よろしくお願いしたす。

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