37. 地面はつながっているから
少し大きめの地震があった翌日。
年長の保育室では
朝、女の子が登園してきた。
「先生、昨日わたしのおうち地震があったの。すごく怖かったんだ。ママと机の下に隠れたの」
「怖かったよね。先生もびっくりしたよ」
「先生のおうちも揺れたの?」
「うん、揺れたよ」
そう答えると、少し安心したような表情を見せた。
そのあと、次々と子どもたちがやってくる。
「先生ー!昨日、俺の家、大きな地震きたんだよ!」
すると近くにいた女の子が驚いた顔で言う。
「えー?私の家にもきたの!」
「えっ、本当??一緒じゃん!」
さらに別の男の子。
「先生、昨日さー、地震がきて、お母さんの携帯とお父さんの携帯が鳴って、本当びっくりしたんだよ!」
「えーーー!たけしの家も?」
「俺の家もなんだけど!!」
「えー?まじかよ!」
また別の女の子も。
「先生、おはよう。昨日私の家、地震きたの。いっぱい音が鳴ってすごく怖かった」
「え?ゆうなちゃんの家もきたの??」
「うちもなんだけど!」
「えー!怖かったよね!」
どうやら子どもたちは、自分の家だけが揺れたと思っているらしい。
なるほど。
大人にとっては当たり前のことでも、子どもたちにとって地震はまだ「自分の家で起きた出来事」なのだ。
そして登園してくる子に、
「揺れた?」
「携帯は鳴った?」
「震度5だったんだって!」
「震源地は○○なんだって!」
と聞いては情報交換。
中には、
「2、3日は気をつけてね」
「1週間くらいは気をつけた方がいいんだよ」
と、どこかで聞いた知識を披露する子もいる。
朝の保育室は、小さな防災会議のようだった。
そんな中、あみちゃんが登園してきた。
「先生、おはよう!」
そして続けて言った。
「昨日の地震、怖かったよね!」
さらに、
「ゆうなちゃんも大丈夫だった?」
と自然に尋ねた。
あみちゃんは、みんなの家が揺れていることを知っていたのだ。
すると周りの子どもたちも気づく。
「なんであみちゃん、先生とゆうなちゃんの家に地震がきたって知ってたの?」
あみちゃんは当たり前のように答えた。
「だって、わたしの家も揺れたから」
すると別の子が不思議そうな顔で聞く。
「なんであみちゃんの家が揺れたら、先生の家も揺れるって分かるの?」
その質問に、あみちゃんは少し考えてから言った。
「家が揺れてるんじゃなくて、地面が揺れてるんだよ。」
そして続ける。
「地面はつながってるから、お家が結構近い人はみんな揺れてるってこと」
「そうだったんだー!!」
子どもたちは目を丸くしていた。
私はそのやり取りを聞きながら、なんだか感心してしまった。
たった朝の1時間ほど。
昨日の地震について、それぞれが体験を持ち寄り、知っていることを伝え合い、疑問を投げかけ、考え、納得する。
先生が前に立って教えたわけではない。
子ども同士の会話の中で、いくつものことを学び取っていったのだ。
子どもたちは毎日こうやって世界を広げている。
自分だけの出来事だったものが、誰かの話を聞くことでみんなの出来事になっていく。
地震は怖い。
でもこの日の朝、子どもたちの学び合う力の大きさを目の当たりにして、改めて子どもってすごいなと思った。
