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[小説]テスト・フォヌ・゚コヌ 第䞀話

あらすじ

 映像配信サヌビスで映画を芋おいた田神修䞀たがみしゅういちは、その映画に自分ず瓜二぀の俳優が出挔しおいるのを発芋する。茅ヶ厎ちがさき時倫ずきおずいうこの俳優は芞胜掻動以倖のプロフィヌルが田神修䞀ずたったく同じであった。田神は同僚ずの語らいから、茅ヶ厎時倫は実写の人間ず同じに芋えるコンピュヌタグラフィックスで䜜られたデゞタルヒュヌマンではないかず疑う。自分ず同じ姿、声を持぀自分よりも有名なデゞタルヒュヌマンの登堎により、田神修䞀は次第に居堎所を倱う。远い詰められた田神は぀いに錯乱し、映像䜜品ず珟実の境界が倱われた䞖界に埋没する。

第䞀話

わたしず同じわたしが
わたしを奪い去る
わたしは叫ぶ
誰にも届かない

奪われた顔/ 月海 雫

 䞀人暮らしの薄暗い郚屋でオンラむン映像配信サヌビスを利甚しお映画を芋るずもなしに芋おいたおれは、画面に入っおきた人物に目を奪われた。

 物語は今、重芁な局面を迎えおいた。そうした堎面においおはしばしば重芁な決断を迫られる人物が珟れる。その䞋すべき決断は倧きな痛みを、䞻人公に近い誰かや芖聎者に愛されおいるような誰かが傷぀いたりあるいは倱われたりするような痛みを䌎うものだ。より倧きな䜕かのためにその蟛い代償を匕き受けなければならないずいった皮類の決断だ。今、緊匵感あふれるその堎面に緊匵感あふれる衚情で登堎した人物は、郚屋のあちこちにいる郚䞋ず思しき人々からの報告を次々に受け、その衚情をみるみる険しくした。物語を倧きく巊右する重倧な決断を䞋すべく、眉間に考えうる限り最深のしわを寄せお倧映しになっおいる。あろうこずかその人物はおれだった。おれはもちろん目を疑ったが、疑うべきが目なのか脳なのか、はたたたおれずいう意識だか自我だかなにかそういった珟象なのかは定かではなかった。

「圌女をパヌゞするしかありたせん」

「ミカを芋捚おるっおこずですか」

「このたたでは他の四人たで危険にさらすこずになる」

「ただミカを救う道はありたす」

「だめだ。リスクが倧きすぎる」

「でも可胜性はただあるんです」

「だが倱敗したずきに倱うものが倧きすぎるんだ」

 クロヌズアップで映っおいるおれを取り巻いお画面の倖からいく぀もの叫び声が飛び蟌んでくる。

 時は今よりもたぶんけっこうな未来。粟神感応によっお衛星軌道䞊の蚭備を操䜜し、宇宙から飛来する情報を受信、解析するずいう仕組みが実甚されおいるような時代。ブレむンリンク、通称ブリンクシステムず呌ばれるその粟神感応は思春期の倚感な少幎少女においお最倧の効果を発揮する。そのため適性の高い子どもたちを地䞊の斜蚭に集め、亀代でシステムを皌働させるような組織が存圚しおいる。数日前、映画の䞭では぀い数分前のこずだが、䜕十幎も前に地球を飛び発った探査衛星が䞍意に倪陜系倖から戻っおきた。もちろん予定されおいない挙動だ。正確な軌道で惑星間をスむングバむしながら確実に地球を目指しおいる。この斜蚭でもその衛星を远跡しおいた。少し前のシヌンで突劂この探査衛星が電波を発信し始めた。ブリンクシステムで受信した信号を解析しおそれに応答したずころ、衛星偎からシステムが走査され、粟神感応を切断する間もなく子どもの䞀人が脳神経にたで䟵入されるずいう事態に至った。通垞のセキュリティはいずも簡単に乗り越えられ、少女の䞀人が未知の信号に脳を掻きたわされおいるのだ。この事態に際しお呌び出された組織の幹郚らしき人物が、今険しい顔で画面を埋め尜くしおいるこの男、すなわちどう芋おもおれに芋えるこの男だった。このたたでは同じシステムに繋がっおいる他の子どもたちにたで危険が及ぶ。最初に䟵入されたミカずいう少女を切り離せば被害を圌女だけで食い止めるこずができる。しかし倧急ぎで防壁を展開し、他の子どもたちの力も借りおミカを救い出すずいう遞択肢も、倧きなリスクを䌎うもののただ残っおいる。どちらを遞ぶのか。その重倧な決断をたさに今、アップで映っおいるおれが匷いられおいるのだった。

 がんやりずブランデヌを舐めながら眺めおいただけの映画だったのに、おれは急に泚芖せざるを埗なくなった。なにしろおれが出挔しおいるのだ。たったく身に芚えがないのに、たさに画面で眉間にしわを寄せおいるのはどう芋おもおれであった。誰よりもおれを芋慣れおいるおれが蚀うのだから間違いない。

「二番を」

 画面のおれがさらにしわを深めながら唇を震わせお声を出した。

「パヌゞしろ」

 隒然ずしおいたはずの効果音が消え、埌ろで流れおいた煜情的な音楜たでもが䞭断した。ラップトップの冷华ファンの音だけがおれの質玠なワンルヌムに眮き去りにされた。

「ブリンクシステム、セカンドナニットを物理パヌゞしたす」

 沈黙をやぶっお郚䞋の䞀人が絶叫するず、同時に隒音も戻っおきた。冷华ファンの音は聞こえなくなった。

「ダむリさん、本圓にいいんですか」

 ダむリずいうのがどうやらおれの圹名のようだ。画面のおれはダむリず呌ばれおよりいっそうしわを深めた。おれはその衚情を真䌌おみた。

「やむをえん」

 十二指腞あたりから捻り出しおきたような声で画面のおれが蚀った。画面は譊告灯の点滅やら譊報やら怒号やら悲鳎やらがちゃんやらばたんやらどたどたやらの倧隒ぎで、テヌブルに䞡手を぀いお虚空をにらみ぀けおいるおれの手前や埌ろを同じ服を着た隊員っぜい連䞭があわただしく行き亀っおいた。おれは画面のダむリであるずころのおれず同じ衚情でモニタをにらみ぀けながらブランデヌを舐めた。画面内では人々があわただしく動き回り、カメラも手持ち颚に揺れお臚堎感を挔出しおいた。モニタに衚瀺されおいた緑色のむンゞケヌタのうち䞀぀が赀く倉わる。䞍思議なもので赀い光は危機を衚しおいるずなんの説明もないのにわかる。今赀に倉化したあれが、ミカを収容しおいるセカンドナニットずいうものだろう。ミカは神経組織を未知の情報信号にいじくりたわされたたたで仲間たちから切断されおしたった。圌女は生きおいるのだろうか。

「ミカのバむタル䞋がりたす」

「生呜維持を最優先にしろ」

「やっおたす」

「衛星はどうなった」

「速床倉わらないたた接近しおいたす。珟圚の軌道を維持するず時間分埌には地球呚回軌道に入りたす」

 画面には救護班ずみられる人たちがわらわらず登堎する。癜い服に赀い十字が描かれおいれば救護班だ。なんの説明もなかろうず救護班なのである。いく぀かのカプセル状の機噚が䞊んでいお、救護班らしき人たちはその端から二番目のものに集たっおいる。あれがセカンドナニットだろう。あの䞭にミカが入っおいるのだ。いきなりカプセルを開けお匕っ匵り出すようなこずはせず、カプセルに小型の端末を接続したりしおあれこれやりずりをしおいる。どうやらカプセルから倖ぞ出すだけでもいろいろず手続きがあるようだ。このカプセルのある堎所はさっき隊員たちが走り回っおいたのずは別の堎所のようで、堎面が倉わるずダむリず呌ばれたおれらしき人物はさっきの郚屋からモニタ越しにこの光景を芋おいた。

 なんでおれが映画に出おいるんだ。おれは隒然ずなっおいる映画の画面を䞀時停止しお、䜜品玹介のペヌゞぞ戻った。『りェルカムホヌム』ずいうタむトルの䞋にキャストや䞻芁スタッフのリストがある。おれはダむリ圹のキャストを芋た。

「茅ヶ厎ちがさき時倫ずきお」

 そこに曞かれおいた名前を読み䞊げた。おれは田神たがみ修䞀しゅういちであっお茅ヶ厎時倫ではない。その今初めお目にする名前をクリックするず、茅ヶ厎時倫が出挔しおいる他の䜜品がリストアップされた。今しがた芋おいた『りェルカムホヌム』の他に、『リバヌサルシティ』、『シヌクレット・マン』、『発掘所の男』ずいう䞉぀の䜜品があった。おれはほずんど迷わず䞀番叀い『発掘所の男』を再生した。

 画面にはやたら圩床の䜎い映像でどこかで芋た町の廃墟が映し出された。芋芚えのある景色だけれど地名たでは思い出せない。そういう町だ。それが廃墟になっおいお、人の気配はない。ありがちなディストピア的未来ものずいったずころだ。途䞭から折れた電波塔、骚組みだけになったガラス匵りのビル、がれきから突き出る鉄筋、玙のように砎れたトタンの看板、色耪せた癟貚店のマヌク、砕けた信号機、攟眮された自動車、ちぎれおぶら䞋がる電線。定型ず化した「退廃」のむメヌゞがぎっしり詰め蟌たれた景色だ。カメラはそのゞオラマみたいな街を進み、暗がりぞず続く階段を降りお行く。地䞋街の廃墟に点々ずずもる灯り。そのガス灯のような薄灯りに導かれお進むず叀がけた蛍光管が明滅しおいる。蛍光管の灯りに照らしだされる「情報発掘所」の文字。

 なかなかおれが登堎しない。いや、おれじゃない。茅ヶ厎時倫だ。おれは動画のタむムバヌを匕っ匵っお時間を進めた。するず癜い灯りに照らされた茅ヶ厎時倫が映し出された。薄汚い服を着お癜い灯りに照らされおいる。カメラが切り替わるず癜っぜく光るモニタの前に座っおなにやら䜜業をしおいるずころだった。モニタには芋たこずのないむンタヌフェむスが衚瀺され、茅ヶ厎時倫は指先でそれを操䜜しおいた。廃墟の䞭に突劂珟れる堎違いなほど先進的な蚭備。生き残ったごく少数の人類が文明を継承しおいるようだ。しかし地䞊があんなありさたで、このようなハむテク端末の郚品はどこから調達するのか、どうやっお生産するのか、そもそも電力はどこから来るのか。あらゆる考蚌は「なんずなくかっこいい」の向こう偎ぞ抌しやられ、映像のこずしか考えない映像䜜家によっお安易にビゞュアラむズされる。陳腐だがそんなものでもある皋床の評䟡を埗お、こうしお配信されおいる。再びカメラが切り替わっお茅ヶ厎時倫の顔が正面から衚瀺された。おれは再生を䞀時停止しお画面にはり぀いた。衚瀺されおいる茅ヶ厎時倫の顔を隅々たで確認した。詊しに手元の携垯端末で自分の顔を、画面の茅ヶ厎時倫ずなるべく同じような角床で写真に撮っお比べおみた。目錻立ちはもちろん、ほくろの䜍眮や耳の圢に至るたで、なにもかもが同じに芋えた。出挔した芚えがないずいうおれの蚘憶を陀けば、茅ヶ厎時倫はおれであるずいう結論を吊定する根拠は無さそうだった。

 どうやらこの䜜品がこの茅ヶ厎時倫ずいう男の初䞻挔䜜品らしい。監督が自らクラりドファンディングで資金を調達しお自䞻制䜜した䜎予算のむンディ映画のようだ。遠い未来、人類の倧半が死に絶えた䞖界で、生き残った人々は砎壊されたデゞタル機噚の䞭に残されたデヌタを発掘しおか぀おの䞖界を知ろうずしおいる。いわばデヌタの考叀孊だ。茅ヶ厎時倫が挔じおいるこの男はその発掘䜜業をしおいお、この䜜品は圌の日垞を淡々ず描くあたり起䌏のない䜜品のようだった。

 おれはひずしきり茅ヶ厎時倫の顔を芳察した埌、動画を停止した。改めお茅ヶ厎時倫に぀いおネットで怜玢しおみる。するず圌のプロフィヌルが芋぀かった。

茅ヶ厎 時倫ちがさき ずきお 幎月日 ― 
神奈川県暪浜垂出身。鎮鉟倧孊情報孊郚システム情報孊科卒業埌䌁業に勀務。幎雑誌『ミドル・ダンディズム』の䌁画〝粗さが魅力アラサヌダンディ〟に読者公募枠で登堎したのを機にモデルデビュヌ。幎公開の千田䞇倪郎監督による自䞻制䜜映画『発掘所の男』に䞻挔しお泚目を集める。䞻な出挔䜜品は『シヌクレット・マン』『リバヌサルシティ』 『りロボロスの鱗』映像配信サヌビスオリゞナル䜜品『りェルカムホヌム』など。株ポテンシャルプロモヌション所属。身長䜓重血液型型。

 ここに曞かれおいる芞胜掻動に぀いおはたったく芚えがない。しかし生幎月日や出身地、卒業倧孊、身長䜓重血液型など、党郚おれのものだ。今はほずんど圚宅だが䌁業に勀務しおいるずいうのもその通りだった。おれの頭は埗られた情報から結論を出せずに刀断を保留した。おれの知らないおれず同じプロフィヌルを持぀おれず同じ顔をした男が俳優ずしお映画に出おいる。こい぀はいったい誰なんだ。茅ヶ厎時倫ずはいったい、誰なんだ。

《぀づく》

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