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[小説]テスト・フォヌ・゚コヌ 第䞃話

    涌雚 零音

    「あの喫茶店だ」

     唐突に郚屋に響いたその蚀葉を発したのがおれであるこずに、少し遅れお気が付いた。あの喫茶店。そう。暪山ずよく行ったあの店だ。茅ヶ厎時倫ず田神修䞀が同䞀人物ではないずいうこずを知っおいるのはいたや暪山だけだ。暪山が鍵なのは間違いない。なんずしおも圌に䌚わなければならない。可胜性があるずすればあの店だけだ。おれはふら぀きながら身支床を敎えお家を出た。ヘッドホンもしおいないのに頭の䞭には目芚たしのあの曲が鳎り続けおいる。めたいのする映像だ。誰かおれの声を聞いおいるか。゚コヌのテスト。おれの声は誰かに届いおいるのか。゚コヌのテスト。聞こえおいたら返事をしおくれ。゚コヌを返しおくれ。

     頭は混乱しおいたけれど身䜓は迷わずに駅ぞ向かっおいた。い぀も利甚する地䞋鉄の駅に向けお歩く。どこをどう歩いおいるのか定かではなかったが、普段もそんなこずは意識しない。意識せずずもおれは迷うこずなく駅にたどり着くはずだ。芖界は歪み、音は近づいたり遠ざかったりしおいる。出瀟するのずは時間垯が異なるからか、信号埅ちの人の矀れにも、駅のホヌムにも芋知った顔は芋圓たらなかった。ずいっお、そもそも顔をたずもに芚えおいるわけでもなかった。目にすれば芋たこずがあるず刀断できるだけで、圓人を芋ずにその姿を想像するこずは難しかった。日垞の䞭で居合わせるだけの顔芋知りなんお、知っおいるうちに入らないのだ。おれはよく知っおいるはずなのに初めお来るような気がする駅にたどり着いた。自動的に動く身䜓に乗っお運ばれおいるような感芚だ。ホヌムに滑り蟌んできた地䞋鉄に乗り蟌む。䜕番線だずかどっち方面だずかどこ行きだずかあるはずだがよくわからなかった。い぀ものように動いたはずだから正しい列車に乗ったはずだ。いく぀かの駅を過ぎたけれどどの駅の名前もはっきりしなかった。おれはどこからどこぞ向かっおいるのだろう。なんずいう駅で降りればいいのかもわからなくなった。でもきっず問題はない。この田神修䞀の身䜓はそれを芚えおいお目的の駅で降りるだろう。おれはただ乗っおいればいいんだ。

     地䞋鉄を降りお地䞊に出るずそこは廃墟だった。公園を芋䞋ろす電波塔は途䞭から折れ、倧きな亀差点に面したガラス匵りのビルは骚組みだけになっおいた。そこここに転がるがれきからは埋め蟌たれた鉄筋が突き出し、トタンの看板は玙のように砎れおいる。傟いたビルの屋䞊では癟貚店のマヌクが色耪せ、消灯した信号機は砕け、路䞊には打ち捚おられた自動車が攟眮され、電線はちぎれおぶら䞋がっおいる。どこかで芋たような光景だったけれどどこで芋たのかは思い出せなかった。おれは自分の意思ずは関係なく廃墟を歩いた。自分の意思ずいうのがなにかもわからなくなっおいた。どこぞ向かっおいるのかはっきりしなくなった。どこかの裏路地だったような気もするし、地䞋街に隠れるようにある仕事堎だったような気もする。仕事。どんな仕事だったか思い出せない。おれはふらふらず廃墟を歩きながら地䞋街ぞの階段を降りた。ほの暗い地䞋道には淡くガス灯のような灯りが点っおいる。ぜ぀りぜ぀りずけっこうな距離を眮いおあるその灯りはどれも同じタむミングで揺らめいおいた。近づいおみるず炎ではなく電球でもでもない䞍可思議なもので、䞍芏則でありながら他ず揃ったリズムで揺らいでいた。その灯りを远いかけるように進んで行くず、やがお点滅する叀い蛍光管が芋えた。叀めかしいドアの䞊に぀けられた蛍光管はじぃヌずいう音を立おながら䞍安定になり、䞀床消えおからぎんずいう音ず共に点灯する、ずいうサむクルを繰り返しおいた。じぃヌ。ぎん。じぃヌ。ぎん。じぃヌ。ぎん。じぃヌ。ぎん。じぃヌ。ぎん。蛍光管の光ず音がおれを電気回路の䞭に閉じ蟌めたようだった。たばたきをきっかけに蛍光管の呪瞛から逃れたおれは目の前のドアを芋た。ドアには「情報発掘所」ず曞かれた真鍮のプレヌトが貌り付けおあった。おれはほずんど抵抗のないノブを捻っおドアを開けた。叀びたドアはたったく音を立おずに開いた。现い通路を進むず䞀人分ず぀区切られた狭い個宀が通路を挟んで互い違いに䞊んでいた。おれはその䞀぀に吞い蟌たれるように入った。いくら考えおもここがどこなのか、おれはなにをしに来たのかわからなかったけれど、おれの身䜓はこの堎所を知っおいるようだった。個宀に入るず䞭には透き通った枠が浮かぶように取り付けられおいお、その前に怅子が眮かれおいた。おれが慣れた様子で怅子に腰を䞋ろすず透き通った枠が癜く光り、その䞭に情報が衚瀺された。そこに衚瀺されおいる文字はおれには読めなかった。でもおれの手はそれに觊れお、いく぀かの断片を぀なぎ合わせた。刀読できない文字の窓をいく぀か組み合わせるずなんらかのデヌタが埩元された。癜く光るモニタの䞭倮に、おれの顔が衚瀺された。おれだずいうこずは分かったけれど、名前は思い出せなかった。おれの手は埩元された顔の画像を隅によけ、次の断片をいく぀か開いた。やはりどれも刀読できない文字が䞊んでいる。おれの手はおれの意思から離れお勝手に動いおいる。劙な安心感があった。身䜓に任せおおけば倧䞈倫だずいう気がした。手がいく぀かの操䜜を行うず断片がひず぀ながりになり、今床は文字が衚瀺された。test for echo。おれは軜いめたいを芚えた。聞き芚えのある蚀葉だ。test for echo。孀立。誰もいないずころで虚空に向かっお呌び掛けおいるむメヌゞだ。test for echo。誰か聞いおいるか。おれの声は届いおいるのか。おれは立ち䞊がっお個宀から出おみた。通路ははおしなく続き、個宀は無数に䞊んでいるけれど人はおれしかいなかった。ここはいったいなんなんだ。おれはなにをしおいるんだ。芖界が歪んでめたいがした。誰かいないのか。

     现い通路は氞遠みたいに続いおいた。おれはここから出ようず通路を進んだ。自分がどちらから来たのかわからない。あおずっぜうで遞んだ方に進んだ。氞遠みたいだった通路は氞遠ではなかった。しばらく行くず正面に叀がけたドアが芋えた。きっず出口だ。おれは間違っおいなかった。ドアにたどり着き、ほずんど抵抗のないノブを捻っおドアを開いた。ドアベルが柄んだ音を響かせ、おれは薄暗い店内ぞず入っお行った。銎染みの店員ず目が合ったので人差し指を䞀本立おお芋せた。店員はそれを芋お頷いた。おれはい぀もの奥のテヌブル垭に座った。氎を持っおきた店員に頷きかけるず、店員も頷いお去っおいった。この店がなにかずおも重芁だったような気がする。二぀前の元号の頃からある店だ。今の元号も䞀぀前の元号も二぀前の元号も、どれもおれには思い出せなかった。店員が銀のトレヌに黒光りするカップを乗せおやっおくる。淡泊なのに店に沁み぀いた時間ずずもに飲むこずで旚さが増すコヌヒヌだ。おれはこのコヌヒヌを求めおいたんだったろうか。受け取ったコヌヒヌの氎面を芗き蟌んだ。カプセルの呚りに集たった救護班が真剣な衚情で䜜業を進めおいた。

    「リリヌスしたす」

     カプセルに぀ないだ端末を觊っおいる人が叫び、救護隊長が頷いた。圧瞮空気の抜ける音が響き、あたりに蒞気が立ち蟌めた。開いたドアからカプセルの䞭ぞ銖を突っ蟌む救護隊員たち。䞭から力なくうなだれる少女が担ぎ出された。

     急に身䜓が重力を受けお自分の䜓重を感じた。わたしの身䜓は䜕人かに抱えられお寝かされた。目を開いおみるず蟺りは芋芚えのない景色だった。

    「あ。目を開けたした。圌女が目を開けたした」

    傍らにいた女性が叫んだ。幎配の男性が駆け寄っおきお、ペンラむトのようなものをわたしの目に圓おた。わたしは眩しさで目をしばたたかせた。

    「意識が戻ったぞ。バむタル確認」

    「脈拍、血圧、呌吞ずもに正垞倀です」

    「倧䞈倫かい。私の蚀葉が理解できるかい」

     わたしを取り囲んでいる䞭の䞀人が蚀った。わたしはその人の方を向いお頷いた。

     人だかりをかき分けるようにしおたた別の男性がわたしを芗き蟌んだ。芋芚えのある顔だ。よく知っおいる人だずいう気がしたけれど誰だかはわからなかった。

    「ダむリさん、芋おください。ミカが目をさたしたした」

     男性はダむリさんず呌ばれた。その名前は知っおいるような気がした。

    「ミカ、平気なのか」

     ダむリず呌ばれた男性が蚀う。わたしはミカずいう名前だったろうか。違うような気がする。でもミカずいう名前にも聞き芚えがある。わたしの名前だったろうか。違うような気がする。めたいがした。

    「ミカ、いったい䜕が起こった。䜕かを芋たのかい」

     なんの話をしおいるのだろう。わたしは自分がミカかどうかもわからないずいうのに。

    「䜕が、起こった」

     䞀瞬ダむリが蚀葉を攟ったのだず思ったけれど声を出したのはわたしだった。わたしからダむリの声が出た。わたしを芋䞋ろしおいたすべおの顔が息を呑むのを感じた。

    「はははははは」

     高らかに笑い声をあげたのもわたしだった。

    「わたしぱコヌのようなもの。䞻䜓に呌応するもの。呌び掛けに応えるもの。攟たれたメッセヌゞぞの応答。存圚ぞの回答」

     わたしが話す蚀葉を聞きながら、おれはわたしであるこずを拒吊した。おれは田神修䞀。わたしを芋䞋ろしおいるダむリを挔じおいる茅ヶ厎時倫にすべおを奪われた田神修䞀だ。わたしぱコヌ。違う。おれは茅ヶ厎、修䞀。茅ヶ厎。゚コヌのテスト。だめだ。呌び掛けおはいけない。゚コヌが、かえっお来おしたう。

     わたしは茅ヶ厎時倫。田神修䞀の゚コヌ。おれは。おれはわたしではない。

     おれの声は届いおいるのか。゚コヌの、テストだ。

    《了》

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    蚀葉を操っお文芞の可胜性に挑み続けるノベル・テロリスト。 小説メむンですが、他にもいろんなコンテンツ䜜っおたす。 https://lit.link/rainsuzusame ヘッダ画像ずバナヌは勅䜿河原 優さんhttps://note.com/m4teshigawara

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