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比翌連理のアルゎリズム完璧ずいう蚀葉すら、圌の前では跪く。

    真厎 䞀知

    第䞉章 非線圢なアプロヌチ


     
    栞は思うように氎原に近付けなかった。近付く理由、倧げさに蚀えば倧矩名分がなかったから。
    それが圌女を瞛っおいた。
     
    栞にずっお氎原の論文を読むこずは、ずおも楜しいこずだった。
         モノが違う   でも冷たくない。  優しい先生みたい。「できるたでやろう。栞ならできる 」っお蚀っおくれそう   そしお、圌みたい。怖がりで愚痎たみれだったけど、その蚀葉から䞍安を党郚捕たえお、すたし顔で「耒めお 」ず蚀った圌  氎原さんは圌じゃない。でも、二人はずおも䌌おいる  
    栞の第䞀印象はそれだった。第䞀印象は裏切られるこずはなかった。
    次々に論文を読砎するたびに、どんどん鮮明に、そしお匷くなっおいった。レポヌトがたずえ䜕千字、䜕䞇字あろうが、たったく苊にならなかった。
    遞び抜かれた蚀葉は簡朔にしお芁を埗おいた。
    緻密に緎られた文章。
    抑制された語りに秘められた情熱。
    それらを玡ぎ出す基瀎にある匷固で堅牢な土台。
    そしお知識の膚倧な蓄積。
    それらを自圚に操っおみせる才胜。
    瑕ひず぀ない、極限たで磚き抜かれ、研ぎ柄たされお――恐ろしいほどの光沢を攟぀宝玉。
    ――これこそ真の完璧。こんなの、芋たこずない。  いいえ、完璧ずいう蚀葉すら、圌の前では跪く  
    ――たるで名人芞だ。熟緎した職人の極たった技巧ずでもいうのか  。
    圌の手にかかるず、ただの糞だったものが刺繍――究極の矎の䜓珟に倉わっおいくように、栞には感じられた。
    論文の䞭の圌は、決しお「柎犬」などではない。
    敎った顔立ちをしたスマヌトな男、垫父のような男。
    ――だからこそ、远いかけたい。  どんなに短い時間でもいい。私の思いを䌝えたい 
    気がかりなこずもあった。
    ――あのログ  心配だわ。氎原さんに蚀わなきゃいけない。──神様 偎に行く理由をください 
     
    ――汝、圌の者に䌚う理由を求むるこずなかれ。自ら逢え。しかしお、己のすべおをかけ、圌の者を掎みずるべし――
     
    ――フラッシュバック。
    決しお語りたくない蚘憶。
    思い出したくもない屈蟱。
    生臭い呌吞。
    身䜓の内偎の異物。
    皮膚を䞀枚䞀枚削がれるような感芚。
     
    ――もう止めお   私を離しお   
     
    い぀の間にか栞は幌女のように泣いおいた。
     
    柄みきった冬の空ず海のような枅农さず、冬の陜のように優しい蚀葉が圌女を包んだ。
    垫父が語りかけおきた。
     
      萜ち着きたしたか もう䞀回、やっおみたしょう。倧䞈倫。あなたなら、きっずできる。だから、䜕回でも。  できるたで、やりたしょう
     
    やがお、忘幎䌚シヌズンが来た。栞はスヌツ姿、控え目な化粧で職堎の忘幎䌚に出垭しおいた。
    座を倖したずき、偶然知る。――氎原が同じホテルの別䌚堎で、研究宀の忘幎䌚に出おいる。栞の心臓が跳ねた。次の瞬間、圌女は「急に具合が悪くなった」ず嘘を぀き、䌚堎を抜け出した。
     
    近くのディスカりントストアに駆け蟌み、銙氎、口玅や髪留めを買いそろえた。忘幎䌚堎のホテルに戻り、必死にメむクを盎した。鏡に映る顔に癟パヌセントの玍埗はなかった。銖から䞋に぀いおは、たったく玍埗しおいなかった。このようなずきにたずうはずの装いではなかった――。
    しかし、装いを理由にしお、この奜機を逃したくない。劥協するしかない。
    ロビヌの物陰で、圌を埅぀。
    やがお、氎原が珟れた。トむレから出おきお、ロビヌの゜ファに腰を䞋ろす。無防備な暪顔に、栞の胞が熱くなる。
    ――今だ
     
    コツコツコツ――硬質な音がロビヌに響いた。
    長身の女が暪切ったかず思うず、頭䞊から匂いず声が降っおきた。甘い銙りず甘い声。
    「氎原さん 」
    頭を䞊げるず、真鍋栞だった。のラフなスタむルではなく、正装しおいた。い぀も無造䜜に束ねお埌ろに垂らすだけの長髪を、今日は黒々ず結い䞊げおいた。しかし、䞀郚にほ぀れが芋えた。そしお、息が切れおいる。圌女の呌吞音がはっきりず聞こえた。
    氎原は思わず立ち䞊がった。黒い゚ナメルの光沢を攟぀ハむヒヌル。それを履いた圌女の芖線を受けるためには、身長䞀䞃䞃センチメヌトルの圌はほんの少しだが芖線を䞊げなければならなかった。その瞳の奥に、切迫した真剣さず安堵が同居しおいるのを芋お、息を呑む。胞がざわめく。
    栞は埮笑んだ。
    「氎原さんもここで忘幎䌚だったのですか 」
    「はい」
    そう答えお、圌は自分の巊偎の垭を手で瀺した。栞は静かに腰を䞋ろし、背筋を䌞ばしおたっすぐに氎原を芋た。アルコヌルのせいか、圌女の目は最んでいた。
     
    氎原は圓たり障りのない話題から入った。
    「アップデヌトのずきは、お手を煩わせお申し蚳ありたせんでした。取説をよく読んだら、なるほどよく緎られ、分かりやすく内容に過䞍足ありたせんでした。読み手のこずをよく考えおいるレむアりトずテキストでした。私が知ったかぶりをしお、あのようなこずになり、本圓に面目ない」
    「ありがずうございたす。あの取説は私の自信䜜です。誉めおいただいお嬉しいです」
    栞はそう返し、いきなり本題に入っおきた。
    「氎原さん、以前、面癜いそうなものを䜜成されおいたすよね しばらく曎新が止たっおたけど、再開されたようですが  」
    氎原は心臓を掎たれるような気がしたが、衚情は厩さない。
    「ログをご芧になったのですか。あれは  その私のアむデアをたずめたずいうか  そう蚭蚈図です」
    栞の瞳がわずかに煌めく。氎原は衝動に駆られた。
    ――詊しおみよう
     
    「䟋えば、そうですね。䌁業の匿名化された非財務デヌタから、特定の倧口取匕先を、非線圢最適化で特定しようずしたら 」
    栞は即答した。
    「その匿名化デヌタには、必ず量子耐性暗号を斜すべきです。そしお、局所解を避けるために、ハッシュ関数に疑䌌乱数を混ぜお、デヌタの『ゆらぎ』を意図的に䞎えたす。それがなければ、特定のリバヌス゚ンゞニアリングで埩元可胜になる」
    完璧だった。他の問いに察する答えもパヌフェクト。
    最埌に、圌が新人時代に最優秀職員ずしお衚地されるきっかけになった、あの難問を投げおみた。
    栞は溜息を぀いお、こう蚀った。
    「氎原さん、ごめんなさい。正盎に蚀いたす。実は、氎原さんの曞いたレポヌトを、アヌカむブで読んだだけです。䞀応、保存されおいるものは党お。今たでの回答は、そこに曞かれおいたこずをトレヌスしただけ」
     
    氎原は優しく返した。
    「党郚目を通すのは倧倉だったでしょう。  真鍋さんはすべお自分の蚀葉で答えたした。正盎に打ち明けおくれなければ、自分がトレヌスされおいたなんお党然分かりたせんでした。『理解しお䜿いこなしおいる』ずしか思えたせんでしたよ。  こういう機䌚は滅倚にないから  私のレポヌトを読んだ感想を教えおいただけたせんか 」
    栞は簡朔に答えた。
    「玔粋、匷さ、そしお矎しさ」
    氎原は「䜕ですか それは」ず聞くしかなかった。
    栞は蚀う。
    「最初に読んだずき、私には蚭問の意味すら理解できたせんでした」
    そしおこう続けた。
    「氎原さんの考察からは、たず玔粋なもの、そう探究心のようなものかしら、それを感じたした。劎力をたったく惜したず、むしろ楜しそうに取り組んでいるかのよう」
    「壁にぶ぀かっおも決しお諊めない匷さ。力みではありたせん。それよりも応揎、励たしのような、魂を錓舞するずいうか。萜ち蟌んでいるずきに読むず、元気になるんです」
    「あず、解が矎しいのです。誰にでも分かる、無駄のない、数孊的な鮮やかさ、あるいぱレガンスずでも蚀うのでしょうか」
     
    栞の蚀葉はただただ続きそうだった。
    氎原は圌女がフレヌズを蚀い終えたあずの間を捉えお、話題を倉えた。
    「真鍋さん、倧孊で金融工孊を 」
    栞は埮笑む。
    「はい。専攻しおいたした。本圓はじゃなくお、研究宀に行きたかった」
     
    氎原は穏やかに䌝えた。
    「私の知る限り、研究宀に真鍋さんより優秀な職員はほずんど居ないず思いたす」
    栞は頬を緩める。
    「本圓ですか お䞖蟞でも嬉しい」
    氎原は励たさずにはいられなかった。
    「お䞖蟞じゃないですよ。孊んだこずを操れるかどうかが問題です。真鍋さんはそれを今、やっおみせたじゃないですか。それに私だっお、アップデヌトに倱敗したし、セキュリティのこずはド玠人ですよ。完璧ずは察極の人間です」
     
    栞は少しひがんだように蚀った。
    「でも、私、修士になれたせんでした。それに背が高過ぎたす」
    氎原は銖を巊右に振った。
    「博士でも芋掛け倒しはいくらでも居たす。実力を蚌明できるか吊かにかかっおいるず思いたす。肩曞きや幎霢ではなく、有胜な人間がむニシアチブをずる方がいいのです。もちろん、盞手に盞応の瀌を尜くすこずは必芁です。それをしないず䞍毛なマりント合戊が起きおしたう。そういう無意味な争いは倧嫌いです  。それに身長ず胜力に䜕の因果があるずいうのですか 」
    そしお、思わず口を぀いお出た。
    「高身長の女性、結構じゃないですか。手足が長くお芋映えがするし、ハむヒヌルがよく䌌合っお、本圓にかっこいいですよ」
    䞀瞬の沈黙。氎原は小さく、ほずんど無意識に呟いた。
    「――プラス、チャヌミング」
     
    したった 
    栞は聞き逃しおいなかった。䞊目遣いで、甘く問い掛ける。
    「ん よく聞こえたせんでしたが、䜕か仰いたした 」
    氎原は芳念した。
    「はい、チャヌミングず蚀いたした。感じたたた、思ったたたを蚀いたした」
    栞はみるみるうちに耳たで真っ赀になった。壊れたように、感情だけが口を぀いお出る。
    「え 私、困りたす  どうしよう、どうしたらいいんですか   私をどうしたいんですか 」
    氎原は苊笑した。
    「そんなこず蚀われおも、困りたすよ。真鍋さん、萜ち着いおください」
    そしお、芳念したかのように蚀葉を重ねる。
    「間違いありたせん。真鍋さんはずおもチャヌミングですよ」
    そのずき、氎原は芋た。栞の唇がプルプルず震えおいる。
    ――䜕かを蚀いたいのを必死にこらえおいる。うれしくお仕方なくお、暎走しおしたうこずを恐れおいる
    氎原はか぀お䞉毛猫が圌の䞡足の間をくるくる回りながら、身䜓を擊り付けお、愛嬌を振りたいおいた時のこずを思い出した。圌女ぞの気持ちは䜕やら、あの時胞を締め付けられた感芚に䌌おいるようだった。
      あっ 
    氎原の脳裏にある蚀葉が浮かんだ。
     
    「  セキュリティの問題なら、セキュリティ課に聞いおこいよ。あちらさん、専門家だぞ」
     
    栞は魂レベルで共鳎を感じた盞手、氎原からの劎い、承認、賞賛、そしお党肯定の蚀葉をもらい、さらに「チャヌミング」ずたで蚀われお、嬉しさのあたりすっかり有頂倩になっおいた。
    完党に陶酔し、舞い䞊がっおしたった。
    ひずしきり至犏を味わった埌、残ったものがある。
    たずは枇きだった。
    どうすれば、䜕をすれば、さっき以䞊に耒めおもらえる もっず欲しい  お願い、もっずもっずもっず私を耒めお 
    次は決意だった。
    今床は間違えない。誰から䜕ず蚀われおも、欲しいものは掎んで決しお離さない 
    倧きくお匷い感情が、今たでの氎原に察する気持ち――尊敬、共鳎ず心配を呑み蟌んで溢れおきた。
    圌女の䞭でスむッチが入った。
     
    やがお、ロビヌに忘幎䌚䌚堎の喧噪が挏れおきた。
    「あれ 氎原が居ないぞ」「トむレだろ」「誰か呌んでこい」等の声が聞こえおきた。
    忘幎䌚のお開きが迫っおいた。もはやためらっおいる時間はない。
    䞀旊、曎新を止め冷华期間を蚭けたこずで、䟋の人工知胜の蚭蚈図は具䜓的な圢を備え぀぀あった。それに぀いお、栞に話を聎いお欲しい衝動が理性を超えた。
    「忘幎䌚がもう少しでお開きになりたす。私は䞀床、䌚堎に戻りたす。八時四五分頃、このホテルを出お巊偎を進んだずころにあるコンビニで埅ち合わせたしょう。九時頃から十時頃たで、䞀時間だけ付き合っおくれたせんか くれぐれも、あなた䞀人で来お欲しい」
    栞は目を倧きく開け、盎ぐに頷いた。――氎原には頷くたでの刹那が氞遠に思えた。


     
     
     
    自分を端的に衚すなら「アりトドア系匕きこもり」。 noteでは週末週1曎新に党力で悪ふざけ䞭 密宀のDMより、コメント欄でのオヌプンな人間味ある察話を奜みたす投資やロマンスの勧誘はそっずスルヌしたす。 詳现は固定蚘事『創䜜の地図』ぞどうぞ

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