
母の日、3000円のカーネーションを前に、私は死んだふりをした。
母の日、私は自宅の居間で「死んだふり」をしました。

野生のクマに遭遇した時の正解は、決して死んだふりではないと聞きます。
でも、家庭内に生息する二柱の猛獣を前にした時、一番の子分である私にできることは、気配を消し、呼吸を止め、ただ床と同化することだけだったのです。
発端は8800円の秘密
事の発端は、数日前にさかのぼります。
私は最近、文具沼の誘惑に勝てず『トラベラーズノート カードサイズ 20周年セット』をこっそり購入しました。
お値段、8800円。
もちろん、親分には内緒です。
しかし、長年連れ添った勘の鋭さは恐ろしく、あっさりとその存在がバレてしまいました。
「また無駄遣いして」という冷ややかな視線。
我が家には、重く淀んだ空気が流れるようになりました。
ここで言う「サプライズ」とは、純粋に相手を喜ばせるためのものではありません。
自分の過去の罪(無駄遣い)を相殺し、家庭内の平和を維持するための「平和維持活動」という意味です。
完璧な隠し場所の罠
5月8日、私は休日出勤の代休をいただいていました。
「よし、この隙に防衛線を張ろう」
私は花屋に駆け込み、3000円のカーネーションを奮発しました。
親分の機嫌を直すための、起死回生のアイテムです。
5月10日まで、絶対に見つかるわけにはいきません。
こっそり母の日のカーネーションを買ってきた💐 妻へのサプライズなんだけど、こういうのって意外と隠し場所に困るよね😂 当日まで見つかりませんように🙏#母の日 #いつもありがとう #妻へ pic.twitter.com/zbWdMxXCC5
— アラ還おじさん (@arakan79937) May 8, 2026
私は、庭にあるガーデニング道具を入れる小屋に向かいました。
中は少し薄暗く、ひんやりとしています。
土と肥料の匂いが微かに漂うその空間は、生花を隠しておくにはちょうどいい温度だと思いました。
しかし、世の中そんなに甘くありません。
その一部始終を、ビッグボスが物陰からこっそりと見ていたのです。

そして迎えたXデー
そして今日、5月10日の母の日当日。
私は満を持して小屋からカーネーションを取り出し、親分に差し出しました。
「いつもありがとう」
親分の顔がパッと明るくなり、私は胸を撫で下ろしました。

ミッション・コンプリート。
そう思った瞬間でした。
「私より嫁を優先するとは、この親不孝者が!!」
背後から、鼓膜をつんざくような怒号が響き渡りました。
振り向くと、そこには修羅の形相をしたビッグボスの姿が。

どうやらビッグボスは、小屋に隠された花を見て、「てっきり自分が貰えるもの」と思い込んでいたようです。
ワクワクしながら待っていた当日に、目の前で嫁にプレゼントを渡される屈辱。
ビッグボスの怒りのボルテージは、一瞬でレッドゾーンを突破しました。
背中をツーッと冷や汗が流れ落ちます。
心臓が跳ね上がり、喉の奥がカラカラに乾いていくのが分かりました。
右を見れば喜ぶ親分、左を見れば激怒するビッグボス。
間に挟まれた私は、完全に思考停止しました。

咄嗟に、テレビで見た「クマに襲われた時の対処法」が脳裏をよぎりました。
逃げても無駄、戦うのは論外。
結果、私は居間の床で「死んだふり」を選んだというわけです。
床からの生還と、妻の神回避
実は、この話には続きがあります。
床の木目を数え始めて437個目、頭上から信じられない声が降ってきました。
「お義母さん、これ私からです」
薄目を開けると、親分が修羅の形相のビッグボスへ、小さなプリザーブドフラワーと春物のパジャマを差し出していました。
「えっ……これ、私に?」
さっきまでの怒声は消え去り、ビッグボスの顔にパァッと満面の笑みが咲きました。

嫁姑がキャッキャと喜び合う平和な空間で、床に転がっている私は完全にブラックホール行きです。
真のサプライズとは何か
なぜ、親分はこんな完璧な準備ができたのでしょうか?
答えは簡単、日頃から相手が喜ぶものを考える『観察眼』のレベルが違うのです。
私のカーネーションが「場当たりのクレーム処理」だとすれば、親分の贈り物は顧客の潜在ニーズを満たす「完璧なソリューション提案」と言えます。
かつて「有能なIT営業」を自称していた私も、家庭内では足元にも及びませんでした(笑)
でも、結果として真の平和が訪れたのだから、今日は良しとしましょう。
冷え切った体をゆっくりと起こし、今夜は美味しい和菓子とお茶で、密かに妻への感謝を噛み締めたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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