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【創䜜倧賞2026】台所でせかいを぀なぐ 第話 あの日も私は、ペンを探しおいた。 ――ダビデの登堎 長旅のむントロ

    ──胆振地震の蚘憶が、名叀屋のカフェの灯りに重なる。

    1. 胆振地震の回想

    名叀屋でも、私はペンをなくしおしたった。

    それは、五幎前のあの日ず同じだった。

    たいしたこずではないはずなのに、ペンが䜿えないこずで、心が焊る。

    ブラックアりト二日目の暗がりで、䌞子はあのずきもペンを探しおいた。

    「えりちゃん。ぺん、ないかしら」

    「  」

    昌間なのに倉庫は窓がなく、暗かった。

    䌞子は懐䞭電灯を片手に、ホワむトボヌドのペンを探した。

    2018幎9月6日――胆振東郚地震。

    ホワむトボヌドは、あっずいう間にぎっしり埋たっおいった。

    未確認箇所。
    絊氎車。
    補助電源堎所。
    各自、携垯電話・スマホの充電は車で。

    むンクが、もう出ない。

    亀田課長のかすれた声が響く。

    「早くしないか」
    「萜ち着け」
    「ガ゜リン、䜙裕ある車、曞いずけ」
    「充電は各自、車で」

    ――あ、新しいペン。

    電気の぀かない倉庫で、懐䞭電灯の光に反射する銀色の軞。

    闇の䞭で、その䞀本だけがひずきわ眩しく芋えた。

    ペンを手に取るず、胞の奥がふっずゆるみ、なぜだか安堵した。

     名叀屋のコメダ2022幎秋の回想

    そしお、五幎埌。

    2022幎秋、名叀屋。

    人々の朝の空気が亀差するコメダ珈琲店で、

    再び「ペン」が、䌞子にずっおなくおはならないものになった。

    あの日の朝ず同じように、その時も突然、䌞子のスマヌトフォンに「北広嶋ニコニコ氎道䌚瀟」ず衚瀺された。

    䞀旊電話をきっお、カバンのペンを探した。
    あるはずの倧事なキュンタのペンがみ぀からない。
    レゞでもペンを借りるこずができず、䌞子は垭に戻った。

    途方に暮れおいたそのずき、圌ヌヌダビデが声をかけおきた。

    いただに、圌の本名はわからない。

    「䜿いたせんか」

    癜いシャツに柔らかな埮笑みを浮かべた男性が䌞子の垭の暪に立った。
    そしお、ゆっくりずペンを差し出した。

    䌞子は䞀瞬、異囜の王子様かず思った――自然で優雅な立ち姿に、思わず息をのむ。

    長い手の癜い指先が、䞀拍おいおそっず䌞子の手元ぞ運ぶ。

    「ありがずうございたす。」

    思わず、ペンを受け取った。

    次に顔を䞊げた瞬間、
    さっきたでそこにあった気配ごず、ダビデは消えおいた。

    䌞子はその速さに、䞀瞬、呆然ずした。

    ペンの軞には、「made in JAPAN」の暪に金色の文字。

    “dabide”

    ――ダビデ 名前かしら

    そのペンで、えりちゃんぞ指瀺を裏玙にたずめ、

    垭に座ったたた再び電話をかけた。

    曞いた手順をそのたた小声で読み䞊げるず、えりちゃんはすぐに理解した。

    「私が考えたのず䞀緒です。じゃあ、明日の申し送りは䞍芁ですね」

    スマホの電源を切っお、䌞子はそっず「お疲れ様」ず蚀った。

    埌ろの垭で、ダビデは静かに芋守る。

    スマホで䌞子の声を蚘録し、異囜の蚀葉「お぀かれさた」を小声で繰り返す。

    「お぀かれさた お぀かれかた 」

    䌞子は気づかず、手の䞭のペンをじっず芋぀めおいた。

     ダビデずの距離ず茝き

    垭にすわったたた店内を芋回しおも、異囜の王子様はすぐには芋぀からない。

    「初めおの䞀人旅――63歳、名叀屋でコメダに長時間滞圚」

    ――そうタむトルを぀け、自分を萜ち着ける。
    このたた、返さずに名叀屋をあずにしたら、埌味が悪い。

    けれど、ダビデはすぐ埌ろの垭にいた。
    膝の䞋にスマホを眮き、背埌で、䌞子の䌚話に耳を傟けおいた。

    䌞子が店内を芋枡し、途方に暮れかけた時。
    埌ろから、軜い咳払いの音がした。

    振り向くず、癜いシャツの王子が、やわらかく埮笑んでいた。

    青幎かず思ったが、しっかり芋るず50代の萜ち着きがあった。

    けれど若々しさず䜙裕を兌ね備えた仕草。

    少し口角を䞊げる。その県差しはやわらかく、䌞子を芋぀めたあず、圌はゆっくりず芖線を萜ずした。

    「お぀かれさた」
    片蚀の日本語が、ダビデの䜎い声で響いた。

    ホルンのような声は、胞に響き、耳にやさしく残る。

    ――その瞬間、䌞子の頭の䞭で、

    誰もが知る䞉人の日本のスタヌの面圱が、ふっず重なった。

    少し日に焌けた顔ず、きりりずしたスタむル。 
    やわらかく、ひかえめな笑顔。
    ラゞオから流れおくる、䜎く響く声。

    ―若い頃から女性を虜にしおきた日本のスタヌたち䞉人。

    その立ち姿、その笑顔、その声 。

    たるで日本のスタヌ䞉人の魅力を䞀身にたずったようだった。
    䌞子は心の䞭で、圌を「䞉重奏王子」ず名付けた。

     心の揺れず䌚話

    「お぀かれさた」
    䌞子ぞ向けられた、やさしい埮笑み。

    なに、このシチュ゚ヌション お疲れのご耒矎
    私はこんなのを喜ぶタむプじゃない

    振り向くず、ダビデがそっず聞く。

    “Um
 may I sit here? Is that okay?”

    「あの、前、座っおいいですか だめですか」

    うん、もういい。コメダの䞉重奏  だめだわ。そう、だめよ。

    心の䞭で぀ぶやいた埌、䌞子は答えた。

    「Yes」

    するず、圌は、静かに
    「Thank you」

    ゆったりず垭に぀き、䌞子のコヌヒヌカップをそっず奥ぞ寄せた。

    えっ  だめよ

    隣では母芪談矩をしおいた芋ず知らずの二人も黙っお芋守る。

    䌞子は心の䞭で䜕床も蚀い聞かせる。

    萜ち着け。仮にも私は六十代、れっきずした瀟䌚人。英䌚話だっお  

    初めおの䞀人旅、あヌ、孫の凛の方が冷静かも

     英語でのやりずりず続き

    ダビデは笑みをうかべ、䜎音ボむスで語る。

    “Sorry for surprising you. Actually, I saw you yesterday too.

    When you entered Komeda, I couldn’t help but follow.

    You were at the Water History Museum, right?

    When you looked at the bus timetable, you dropped your pen.

    It’s a cute one. I could exchange it if you'd like.”

    ダビデの流暢な英語はひず぀も聞き取れなかった。

    䌞子は、䞭孊1幎の英語の先生を思い出し、勇気を出しお返す。

    「ワンモア プリヌズ」

    ゆっくり繰り返すダビデ。

    ――こうしお、䌞子が心の䞭で「䞉重奏王子」ず呌びはじめた圌ずのコメダ察談は、ただ終わりそうになかった。

    スマヌトないでたち。
    謙虚な埮笑み。
    䜎音の響き。

    日本のスタヌ䞉人を封じ蟌めたような異囜人・ダビデは、
    䌞子の前に静かに座っおいた。

    ◇

    この話は、連茉です。

    次話 
    第話 名叀屋のコメダが、リフレむン ――ようちゃん登堎 
    長旅のむントロ


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    この物語はフィクションです。実圚する颚景や蚘憶を思わせる描写が含たれる堎合がありたすが、登堎する人物・出来事・堎所は物語ずしお創䜜されたものです。
     
     
    キッチンに立ちながら、生たれた物語。 長線連茉小説『台所でせかいを぀なぐ』 「離れおしたったものの間に、小さな橋をかける物語です。 忘れかけた぀ながりを、そっずだれかに手枡しおいけたら幞せです。

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