第67話 「井伊氏旅立ち」
スコットランド人やアイルランド人の姓には、マクガイアとかマクドナルドとかマクミランとかマケンヂーとかマクファーレンとか超人ハルクを追いかけまわす三流記者のマギー等 Mac で始まるものがある。これは Mc とか Mᶜ とか M' とかに省略されたり他国に至って Mak と変化したりもする。この接頭辞の後は大概大文字で始まる規則性があり、それは誰誰の息子という意味があるからでマクドナルドならドナルドさんの子孫な訳である。似た物にデンマークやノルウェー人姓に於ける接尾語のセンがあり、代表的なものにアンデルセン(アンダーセン)とかピーターセンとかマットセンなどがあるが、注意深く探してみればドウモセンとかワカリマセンとかウマレテスミマセンとかも居るかもしれない。いないいない。
然し、ドウモさんとかワカリマさんとかは居そうになくとも、金さん銀さんなら現実味は増し、金さんの子孫はマキーン、銀さんの子孫はマギーンであり、そうするとマッキーンコは金庫さんの子孫かい、とうっかりボケツッコミしそうなところ、何と吃驚する事にちょっと並べ換えてやればキッコーマン。字で記せば亀甲男である。そうか、ショッカーの怪人だったのか。
「お前は今日から亀甲男として仮面ライダーと闘うのだ。
行け。地獄谷へ!」
と、首領の声が聞こえてきそうである。また適当な事を言っていると御疑いなら、キッコーマンの醤油瓶を手に取って確かめてみると良い。瓶には堂々と亀甲マークが描かれているであろう。だからといってマッキーンコさんが怪人だという事には全然ならないのだけれど。
ところで吃驚男と亀甲男は似ている。
変わった名前といえば数年前に自らの子に「悪魔」と命名した輩がいたのを思い出す。「命名権の濫用ではあるが一旦受理した出生届は有効」とした家裁の判断に、当時の私は大きな懸念を抱くに到った。誤解して貰っては困るのだが、親の命名権の濫用だとか悪魔だとかサタンだとかデビル雅美だとかは全く知った事ではない。では一体何が問題なのかというと、明日の我が国を背負う童の将来に対して家裁はちょっと配慮が足らないという事であって、果ては国の威信に関わる問題を内包しているという危惧なのである。
何を大袈裟な。遂に気が狂ったかと、お思いの方もおられようが全くその通りで…、否否、そういう展開も亦楽しからずや。って何を言っているのだ。そうではなくって、つまり私が憂慮するのは「アクメ」と呼ばれて苛められる可能性なのである。思春期の子供はそういう言葉を猿の様に好んで言いたがるものだから、私も中学時代にあらゆる教科書の表紙にペンで大きく SEX と執拗に悪戯書きをされて困った経験がある。その恥しい教科書を二度と見なくていい様にと猛勉強した甲斐あって、今では立派な社会的地位と名声と金銀財宝と美人秘書とを夢見るだけの駄目人間に堕落してしまった。豈図らんや。
そういう次第で、悪魔君がアクメ君と指を差して笑われるのは自明の理であるし、それを乗り越えて勉学に燃えて例えば国際派人間を目指したとしても、特にフランスを志望しようものなら可成り惨めで恥しい思いをするであろう事は請負いである。鼎(かなえ)と命名して子から殺された親もいるくらいだから、将来屹度大変な事になるのは想像に難くない。鼎ならば日本人しか苛める者はいないだろうが、「アクメ」だと欧米人からも物笑いの種とされ、トラウマになって親を殺すだけでは飽き足らず、名前の通り本当に悪魔になって国際テロリストの道を歩んでしまうかも知れないのである。それはそれで国際派だけれど。
この事件は別の名前で届を再提出して一件落着した訳だが、悪魔は漫画の登場人物名に因んでいたらしく、もし再届けの名前が同じく漫画の登場人物名、例えばカツオだとかゴマだったりすると、これまた国際派人間を目指した場合、特にイタリアとかスペインだと、矢張り惨めで恥しい思いから同様の運命を辿るであろう事は想像に難くない。一体如何な名前を届けたのか興味津津である。最近は蹴球でそういう国に行く人もいるので留意しておいた方が良い。
では普通の名前をつければ良いかというと、案外そうでもない場合もある。苗字が増岡だったりすると用も無いのに「升を書くん」と召喚されてちょっと困りものな訳で、更に名前が「こうじ」とか「こうぞう」だったりすると「升を書こうぜ」等と声をかけられて嘸や大変である。同様に、増尾という姓も気を付けねばならない。「柿子」とか「かいと」等と「か」ではじまる名前は絶対に避けた方がいい。牡蛎蔵とか角蔵も止した方がいいだろう。そんな名前を付ける者がいるとも思えないが、一応注意されたい。
ここで苗字に絡む珍説にいってみよう。鉞担いだ金太郎。実は韓国人という説がある。姓を金(キム)名を太郎。韓国の昔話にも金太郎とよく似た話があると聞くから、強ち嘘とも言い切れない。
金氏は格式のある姓であるが、もう一つ伝統的な姓に李(イー)氏がある。ヘボン式ローマ字に綴ってしまうと I(アイ)になってしまって訳が解らないし、そうかといって小文字にすれば良いかというと今度はデンマーク語で「これ」の意味になってしまってどちらも紛らわしい。そういう理由かどうかは知らないが英表記では Lee とか Yee とか Yi とか Rey とかの色々な綴りが見られるのは非常に興味深く、韓国語を喋る時は皆「イー」さんなのに英語を喋る時は「リー」さんに変わったりするのだから面白い。英語と母国語とは違うという割り切りが窺える。
金太郎は伝説の人物であるが、なんちゃって韓国人、何と吃驚する事にモノホンの人物にもその存在が確認されている。それは安政の大獄で御馴染みの井伊直弼で知られる井伊氏である。井伊氏は遠江国引佐郡井伊谷の豪族に拠を発する近江彦根の譜代大名であった。だが実は「イー」の発音からも解る様に、由緒ある李氏の苗裔であってそりゃもう凄い来歴なのである。
「イイ」と「イー」は違うしショッカーじゃないかとか、いい加減な事を言うなと咎められそうであるが、その際には言い直すけえ大目に見てつかあさい。
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