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第2話 ライダーカード

    1999年10月のある日、コンビニを覗くと何とあの仮面ライダースナックが並んでいるではないか。おおっ。72年から74年頃、紙袋に封入されたカードを、精算時に宛ら籤引きの如く引かせてもらったあれである。「ようし、一つ」と思うものの、ええ歳越いたおっさんが、うら若き店員のおねーちゃんに対峙し、およそ実写の仮面ライダーの精瞰な勇姿とは程遠い漫画ライダーが描かれた袋を手にして、「これ、カード引かせてくれるんですかあ」などと尋ねるのもかなり恥ずかしい。

    どうしてくれようかと考えあぐねていると、ふと気付く。あれ、ライダースナックじゃなくて、ライダーチップスとなっているではないか。更にあれれ、カードは袋にくっ付いておるではないか。おおっ、これなら憶面も無く買えるではないか。カルビー様様である。無言のままとっとと精算を済ませて足早に店を去り、頭の中では「速攻で開封だー。偉いぞカルビー。ヒューバンバン、パチパチッ」と、花火の乱舞である。幼き日々のコレクションを御母堂にあっさり捨てられてしまった積年の恨みを今晴らすのじゃあ。って、勝手に殺すなよ。まだ御健在である。と思いきや、またもや障害が立ち塞がる。こんな所で呆けを咬ましている場合ではない。カードの袋が鋏なしでは開かんではないか。あかんではないか。ゑ、カルビーよ。止む無く家に戻り仕切り直しである。家路は遠い。

    色々な思いが走馬燈のように駆け巡る。二十数年前、日本初のトレーディングカードとして鮮烈なデビューを果たし、ライダー旋風を強烈に撒き散らし、名付けて「スナック菓子食べずに捨ててカードだけキープ事件」という奇妙な事件が続発し、世間を震撼させたという曰く付きのカードである。犯人は未だ捕まっていないという。恐ろしい。また、「駄菓子屋のおばちゃんの目を盗んで一度にカードを二枚重ねで抜きとるの技」という高等テクニックなども用いられた。この技は、トレードに於いても、秘技「相手のカードを見せてもらう間にこっそり盗むの技」として転用された。勿論、私の事ではない。交渉相手は専ら、言語能力に劣る幼児が標的である。一枚のカードの価値を巧みな言葉で騙し、数枚のカードと交換する口撃テクニックが遺憾無く発揮された。策士である。断じて、私の事ではない。更に、下級生を脅してカードを奪取する、名付けて「下級生から強奪作戦」って先刻からそのまんま、という事も日常茶飯事であったと云う。だから私じゃないってば。

    ううむ。それにしてもどうしてこんなに頑丈な袋なのか。斯様な悪業を重ねた我々世代への神の怒りなのであろうか。御免なさいジーザス。成る程、それでジーザスを使わないと開封出来ない仕掛けになっているのか。納得。って、そりゃシザースだろ。一通りの回想を終えたところで罪深き迷える子羊を代表して自省の念を促し、先ず菓子から頂くことにする。開封と同時に朧げながら胸裏に懸念が広がった。それは菓子を抓んだ瞬間、的中した。

    「おお。こんな脂っこい物、やっぱ体に良くないぜ。成人病の敵だぜやっぱ捨てるかあ」

    おいおい、それでは昔のまんまではないか。いや、チップスを先に食べると油脂で手が汚れるから矢張りカードを先に拝見しなきゃいけないんだよ、と全くもって身勝手な、もとい、精緻な洞察力と明晰な論理でチップスを食す行為を見事に回避して、カード接見への最短コースを辿るあたり、流石、百戦錬磨である。チップスは他人に喰らわせる事にしよう。

    斯くしてカード袋開封の運びに至り、カードを眺めると矢張り懐かしさが込み上げて来る。以下同左、百数十回の涙ぐましい反復行為の後に、全七十七種のカードの蒐集が完遂する。重複カードの数も半端ではない。八つ買いの八つ既取得という日もあった。全種取得までの険しい道のりの代価として、部屋には未だ食されぬチップス君がピラミッドを形成している。壮観である。

    では、我軍の手中に収めた怪人達を眺めながら、心地よい回想に耽けるとしよう。1番蜘蛛男、2番蝙蝠男、5番かまきり男、9番コブラ男とオーソドックスな名前のラインナップ。圧巻である。特に蝙蝠男は目が血走っていて流石に怖い。幼い子供であれば恐怖症に罹る事必定である。それからどれどれ、15番がひとで男、16番蟹男、19番アマゾネス、20番ムササビ男、で、23番がむかで男だな。ウンウン。大体、ベースになっている動物の名前に男を付けるのが基本である。頷きながら裏面の解説を見ると、ゑっ、なぬー。ヒトデンジャー、カニバブラー、アマゾニア、ムササビードル、にムカデラス、だとぉっ。久々に甦る記憶はいい加減である。

    異色もある。32番トリカブトってそのまんまだし、30番は蟻の怪人だから蟻男かいやそんな名前ではなかったぞ今みたいな例もあるし一体なんであろう、と息継ぎ無しに説明的な疑問を呈しつつ裏面を見ると、何とアリキメデス。意表を突く露骨な駄洒落攻撃であるが、猶も攻撃の手は緩まない。29番アルマジロング、70番ヒルゲリラなどと、およそ怪人の名前としては意味の無い語尾を節操無く附加するという手法が続く。特に22番地獄サンダーは異彩を放つ。薄羽蜉蝣の蟻地獄。まさか地獄男ではあるまいとの期待を裏切るサンダーの格好良い響き。サンダーバードやグレートサンダーなどに代表される如くサンダーとは勇者にのみ相応しいのである。「正義の戦士、地獄サンダーッ」と、言わんばかりに両手を挙げたポーズは戴けない。

    過度に基本を逸脱した命名の続出に視聴者からの苦情が相継いだのであろうか、終盤は67番 蝿男、69番 狼男と落ち着いてゆくが、何何男という形式に閉塞感が漂い逃避的である。矢張りホラー映画定盤の安直な名前は避けたいところではあろうが、いっそ筋を通して欲しかった72番スノーマン。製作者の苦悩を色濃く滲ませた惨澹たる命名に合掌しつつ、かくして第一弾蒐集は幕を閉じるのであった。

    記憶では、実際の放映第一弾の区切りとは一致していない気もするし紅一点の蜂女がいないのが残念であるが、そんな事は最早どうでもよい。感涙に咽ぶのみである。重複カード取得の日々が続くコレクションであった。是れ苦笑。等と言ってる間に、もう第二弾発売である。

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    142話までは「パブロフの屁」(ぱりぱり噛めん:Parikame) のテキスト復刻版です。見出し形式「第○○話」がテキスト本編、「no.○○」が対応するダイジェスト図解版です。ご贔屓いただけると新作公開の励みになりますのでよろしくお願いいたします。え?頑張らなくていい……ですか

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