第37話 「人生劇場」
海外での独り暮らしが長いと演歌が恋しくなる。厳寒の季節、しんみりとした曲をバックに望郷に想いを馳せながら熱いのをくいっと一杯やる。何十年も前から海外在住で今はデンマークにお住いのヒロコ大先輩からは「何言ってんのよ」とか「うわっ、暗い。どうして日本人ってあの暗いのが好きなのかしら」とか有難い忌み事を頂戴するのであるが、そりゃあ成熟した80年代の演歌の良さは、「酒は涙か溜息か」とか「名月赤城山」とか「人生の並木道」とか「別れの一本杉」とか暗い曲ばっかり聴いてきた世代には理解出来ぬでしょうよヒロコさん。演歌は男の人生。時に感涙を誘い、時に喝を入れ、男の喜怒哀楽を盛り上げてくれるのが演歌なのである。という次第で、希薄な記憶と曖昧な知識と素人の偏見を基にして、熱く適当に演歌を語ってみたいと思う。
演歌歌謡の源は戦後から60年代にあると言え、当に胎動ともいうべき萌芽の時代である。日本歌謡は藤山一郎や淡谷のり子が活躍した「国民音楽」と呼ばれた戦前に遡ってもいいが、魅力的な曲がないので割愛させて頂く。戦後はブルースが流行って「ムード歌謡」なんて呼ばれたりもした。フランク永井「有楽町で逢いましょう」のあの歌声も然る事乍ら、「ふあ〜んふあふあん」という完全にワウったレトロな響きが時代を感じさせて何ともいえぬし、「夜霧のブルース」なんかもへちまを潰す様な「ぶわ〜ん」というサックスの音には全く痺れる。昔はファンキーといえばブルースを意味したのである。いやあ、ブルース。死語でっせ。それから「影を慕いて」「柔」「人生劇場」などに代表される古賀メロディー。六十年代は古賀政男の時代だと言って良いだろうが、まあこの時代は「高校三年生」「霧の摩周湖」「恋の季節」みたいな演歌調の曲がある一方で正統的な「なみだ船」「王将」などが誕生した訳で、演歌という区別はまだなく所謂「流行歌」が隆盛した時代である。
そして演歌歌謡は70年代に開花する。平尾昌晃の黄金時代である。「私の城下町」「よこはまたそがれ」「夜空」「うそ」「二人でお酒を」「カナダからの手紙」などを筆頭に以下省略、後は古賀政男の弟子を名乗るベテラン勢、人生ものの吉田正「傷だらけの人生」、暗さなら誰にも負けない猪股公章「おふくろさん」「空港」、あかぬけた唱歌を匂わせる遠藤実「せんせい」「北国の春」「夢追い酒」、船ものが多い船村徹「矢切りの渡し」「おんなの出船」達が活躍する。変わり種として小林亜星「北の宿から」、都倉俊一「あずさ二号」が異彩を放ち、彩木雅夫「長崎は今日も雨だった」「なみだの操」、中村泰士「喝采」「心のこり」、森田公一「あの鐘を鳴らすのはあなた」などが紛れ込む中で新進気鋭の若手、浜圭介「そして神戸」「雨」「終着駅」「舟唄」及び、三木たかし「能登半島」「津軽海峡冬景色」が健闘した時代である。平尾の「二人でお酒を」には必殺シリーズ音楽の源流が垣間見えるし、トランペットの音色を十分に生かした「さよならの彼方に」は最高である。「ぱゎぱっ〜〜〜ぱらっぱ〜、ぱゎぱっ〜〜〜ぱらっぷ♭〜」の所なんて「太陽に吠えろ」に通じるものがある。極めつけは「津軽海峡冬景色」の迫力あるイントロだ。
80年代は三木と浜の時代がやって来る。編曲では竜崎孝路と森岡賢一郎が大暴れし、若草惠、前田憲男も活躍する。浜圭介「雨の慕情」「悲しみ本線日本海」「待ちわびて」や、三木たかし「時の流れに身をまかせ」「遣らずの雨」「追憶」などの痺れる名曲のラインナップ。かと思いきや大瀧詠一「冬のリビエラ」「熱き心に」が乱入し、弦哲也「人生かくれんぼ」「あなたひとすじ」「ふたりぐらし」「ふたり酒」「天城越え」が暴れまくる。中村泰士も忘れてはならない「北酒場」「そしてめぐり逢い」。吉幾三も「おら東京さいぐだ」「雪国」「酒よ」で殴り込み。彩木雅夫も竜崎孝路の編曲で息吹をふき返す「港の五番町」。船村徹も「風雪流れ旅」「矢切りの渡し」「兄弟船」「北の大地」で健在ぶりをアピール。平尾の影響か編曲者の腕なのかは知らないが、「兄弟船」ではトランペットバリバリ全開モード。そして異色は加藤登紀子が詩曲、若草が編曲の中森明菜「難破船」である。若草の手にかかれば誰が歌おうが立派な演歌である。誰もがレコード大賞を信じて疑う事のなかった名曲である。
90年代は殆んど海外生活につき全く事情がわからんので、他事総論の締め括り。堀内孝雄「恋唄綴り」「影法師」などが演歌に分類される中で、谷村新司「三都物語」は演歌ではないのか。もっと言うなら「いい日旅立ち」「ダンディズム」「陽はまた昇る」「22歳」「昴」「群青」はどうなのか。船村系のものを「演歌」と定義するならそれは狭すぎの定義であり、確かに「演歌」は終焉したと言える。だが古賀メロディー、平尾マジック、船村サウンドと各年代で見られる様に、作曲家には夫々違った味がある。もともと演歌などという言葉はなかったのだし、実体など存在せぬ。その時代の流行歌謡に調和したものが生き残ってきたに過ぎないのである。
最後に選曲リスト。中にはちょっと違うんじゃない?みたいなのもあるが、厳格な定義は無いということで御免。百選にするつもりが44曲超過。
影を慕いて、有楽町で逢いましょう、おまえに、東京ナイトクラブ、君恋し、黒い花びら、街のサンドイッチマン、裏町人生、なみだ船、函館の女、薩摩の女、王将、無法松の一生、唐獅子牡丹、高校三年生、錆びたナイフ、くちなしの花、港町十三番地、柔、男、悲しい酒、霧の摩周湖、花と蝶、恋の季節、長崎は今日も雨だった、ラブユー東京、ブルーライトヨコハマ、港町ブルース、夜と朝の間に、笑って許して、また逢う日まで、よこはまたそがれ、長崎から船に乗って、傷だらけの人生、雨の御堂筋、喝采、あの鐘を鳴らすのはあなた、雨、せんせい、終着駅、太陽がくれた季節、空に太陽があるかぎり、夜空、なみだ恋、おんな港町、中之島ブルース、そして神戸、襟裳岬、二人でお酒を、うそ、なみだの操、女のみち、空港、シクラメンのかほり、心のこり、私鉄沿線、北の宿から、もう一度逢いたい、悲しみのヘッドライト、針葉樹、能登半島、津軽海峡冬景色、歩、愛の終着駅、あずさ2号、カナダからの手紙、秋桜、気まぐれ雨、東京砂漠、さよならの彼方へ、おもいで酒、舟唄、おんなの出船、夢追い酒、北国の春、新宿港町、立待岬、雨の慕情、大阪しぐれ、あれから一年たちました、とまり木、迷い鳥、倖せさがして、ふたりの夜明け、帰ってこいよ、別れても好きなひと、賢い女じゃないけれど、風雪流れ旅、函館本線、兄弟船、愛し続けるボレロ、あなたひとすじ、悲しみ本線日本海、人生かくれんぼ、流れのままに、すきま風、飛翔、江戸の黒豹、君は人の為に死ねるか、アマン、あなたの女、あなた待つ港、ブランデーグラス、みちのく一人旅、奥飛騨慕情、越前岬、越冬つばめ、冬のリビエラ、夢芝居、さざんかの宿、つぐない、釜山港へ帰れ、ラヴイズオーバー、氷雨、待ちわびて、秋冬、三年目の浮気、居酒屋、もしかして PART II、そして…巡り逢い、遣らずの雨、俺ら東京さ行ぐだ、熱き心に、男と女のラブゲーム、追憶、雪國、男と女のはしご酒、難破船、港の五番町、天城越え、祝い酒、想い出迷子、酒よ、愛しき日々、冗談じゃねえ、恋唄綴り、影法師、真夜中のシャワー、都会の天使たち、三都物語、忍ぶ雨、雪中花、流恋草(はぐれそう)、蜩(ひぐらし)。
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