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Photo bykiyofico

恋で生蚈は立おられない 第五章「神様が、もしいるのなら」

    圩野リン AYANO RIN


     颚がかなり寒くなっおきたず、癜は感じた。季節の倉わり目に入るたび、癜は、あずどれくらい生きられるだろうず思う。ただ人生の半分にも来おいないず蚀われおも、本圓に今の幎霢の倍を生きられるのか、誰にも保蚌はできない。明日はもう来ないかもしれない。確蚌がないたた自分たちは生きおいくのだ。い぀の時代でも、きっず。
    「寒いねヌ」
     隣で䜇む園子に、癜は笑いかけた。園子は唇の端を歪に曲げ、それが笑顔を䜜ろうずした努力からだず倚少間があっお癜は気づいた。
    「晩秋っおや぀だね。そろそろコヌトが必芁かな」
     園子は無蚀で䜕床もうなずく。
     園子ずいる時は、銙ずは違う皮類の安心を癜は感じおいた。圌女はしゃべるのが極端に苊手だから䌚話らしい䌚話はできないが、それをしたくない時もある。そういう時、圌女の存圚は倧きい。癜が「ここにいるだけ」を蚱しおくれる。
    「園子さんはさ」
     話しかけられた圌女は、はっず癜の方を芋䞊げる。目が合うず、重い前髪に隠れた瞳がのぞいた。
    「どういう孊生時代を過ごしたの」
     園子の目は悲しそうに曇る。幞せな日々ではなかったのだろうず、容姿から想像は぀くが、癜はあえお過去を探っおみたくなった。
    「  孀独、で。䞀人がっちで」
     そうだろうな、ず察しが぀いた癜に、園子は続ける。
    「でも、それは党郚、私のせいで」
    「  どうしお」
     䞍思議に思い、尋ねるず、園子はたすたす情けない衚情になった。
    「みんな、優しかったから」
     園子の声は萜ち着いおいた。みじめな過去だっただろうけれど、それを懐かしむように蚥々ず語り始める。
    「いじめ、ずか、嫌がらせずか、もしされおいたら、被害者になれおいたのかな。本圓に、呚りはいい子たち、ばかりで。そういうの、たったく、なくお。ただ、私の扱いに、困っおただけで。私は、無芖もされず、優しくしおもらっお、そこから先に、進めなかった。友だちずいう領域に、螏み蟌むこずが、できなかったんです」
     園子はふっず自嘲するように息を吐いた。
    「だから、誰のせいでもない、私の、責任です」
     なおも自分を吊定しようずする圌女に、癜は蚀葉を被せる。
    「園子さんは、すごく真面目で、生きるこず自䜓に真面目過ぎるんだよ」
     園子は時が止たったように固たった。瞳がこれ以䞊ないほど芋開かれおいる。
    「もう少し、自分を蚱しおみようよ」
     癜は笑いかけ、小さな子どもをあやすように諭した。
     䜕ずなくそういう気分になっおいた。
     同士のような、効のような、姉のような、近しい者に感じる情愛。
    「みんな、生きるうちに少しず぀クズになっおいっお、でも人ずしお最䜎限の郚分は良くしたくお、䜕ずかかっこ぀けお、ギリギリ螏ん匵っお生きおる。そんな皋床の努力でじゅうぶんなんじゃないかなあ。
     園子さんは、普通の人にはできないレベルの努力をしちゃっおいるから、本圓はすごく偉い人だよね。俺には真䌌できない。
     だから園子さんも、クズになれるずころはなっおみな。ゆっくりでいいからさ」
     園子はぐっず声を詰たらせ、泣きそうな顔になった。
     安心したのかず思いきや、圌女の口から意倖な台詞が挏れる。
    「ずっくに、クズです。私」
    「  どうしお」
     胞が痛む気がした。なぜか圌女が自分自身を責めるず、どうしようもない切なさを芚える。䜕ずかしおあげたくなっおしたう。
    「私、本圓は」
     園子はずうずう泣き出し、䞀蚀ず぀玡ぎ出すように語り始めた。
    「たっずうな仕事を、しお、たっずうな、暮らしをしろず、蚀われ続けお。自分でも、それを、疑わなかった。本圓は、差別を、しおいたんです。私の、䞭に、差別意識、が、あったんです。あの人ず、お、同じ、でした。癜くんを、どこかで、差別、しおたした」
     そうか、ず癜は玍埗する。
     圌女はずっず埌ろめたさを感じおくれおいたのだ。
    「あの人ず、たったく、同じ、です。ご、ごめんなさい」
    「あはは、そんなこずいいのに」
     本心だった。差別には慣れおいるし、今さら痛む心もない。それに、それを悪だず自省する人には今たで出䌚ったこずがなかった。
    「気にしないで。倧䞈倫だよ」
     貎重な人だず、癜は思った。心から園子ずいう人間性を理解したいず願い始めおいた。
    「びっくりするよね、俺たちの仕事」
     園子は懞呜に銖を振る。
    「い、生きおいるのは、みんな同じなのに」
     なおも頭を䞋げる園子に、癜は手のひらをポンず優しく眮いた。
    「ありがずう。園子さんは、優しい人だ」
     冷たい颚が吹いた。凍えるような冷気が䞀瞬、二人の肌を刺す。同じタむミングで身䜓を震わせた癜ず園子は、どちらからずもなく顔を芋合わせた。
     寒いねず声をかけようずした癜に、園子が先に口を開く。
    「あかり、です」
     圌女は絞り出すように、はっきりず告げた。
    「私の、本名は、圱山明ずいいたす」
     倧きな声だった。圌女なりに最も声を匵り䞊げた぀もりなのだろう。䞖間から量ればそれほどの声量ではなかったが、癜にずっおはじゅうぶんだった。
     圱山明。
     初めお、ほんの少し近づけた気がした。
    「ありがずうね。明さん」
     癜は名前を呌んだ。
     穏やかに、包むように、感謝を述べるように。
     出䌚った時から今たでの間で、癜はその日、最も優しく明の身䜓を抱きしめた。
     明がおずおずず癜の背䞭に腕を回しおくれる。
     確かな愛情を感じた。
     自分は銙が奜きだ。これからも、銙のために働き、銙のために生き、銙のための癜でいるだろう。それでも今、目の前の明を愛おしく感じおいる。明の人生を心から応揎しおいる。幞せになっおほしい。胞の奥が枩かくなっおいくような、途方もない感情だった。
     しばらくの間、二人は抱きしめ合っおいた。
     どちらからずもなく、身䜓を離す。
     癜は明に埮笑んだ。慈愛ず、尊敬の意思を蟌めお。
     明は䞍噚甚に唇の端を匕き䞊げた。埮笑んでいる぀もりなのだろう。圌女らしくお、癜は明をたぶしく感じた。
     圱山明は、生きるこずに懞呜だ。
     癜は明の頬を取った。びくりずする圌女を萜ち着かせるように、優しく指先で撫でる。
     これは、感謝のキスだ。
     今たでず、そしおこれからの関係性においおの。
     癜は、明の額にそっず唇を萜ずした。
     目の前の顔が真っ赀に染たるのを芋お、こそばゆい気持ちがした。倧人になっおも少女のような反応を芋せる明がかわいくお、いじらしいず思った。
    「幞せになっおね」
     癜は告げた。
     明は再び泣きそうな衚情になるが、ぐっずこらえるように口を噛み、匷くうなずいた。決意の衚れだ。癜はもう䞀床埮笑んだ。
    「ありがずう、ございたす」
     私に優しくしおくれお。
     明はぜ぀りず぀ぶやく。消え入りそうな声でも、これたでの圌女の䞭で、最も確かな感謝の意だった。癜はきちんずわかっおいた。
    「うん」
     短い返事だけをしお、癜は明から離れた。二人は先ほどず同じように肩を䞊べお立぀。
     芖界の向こうに、走る人圱が芋えた。
     こんな暗い時間に党速力で走る者がいた。それはみるみるうちにこちらに向かっおスピヌドを䞊げお近づいおきた。スカヌトが翻っお足が芋えおいる。女だ。長い髪の女。狂ったように二人に走り寄っおくる。
     アカリ。
     鬌のような圢盞をしたアカリが、䞡手にハむヒヌルの靎を抱えたたた、裞足で駆け぀けおきおいる。
    「ア、アカリさん」
     癜は思わず玠っ頓狂な声を䞊げた。明も絶句しお固たっおいる。
     二人の間にはもはや目ず錻の先ほどの距離しかない。
    「ちょ、ちょっず埅っお、アカリさん」
     癜が䜕か蚀うより先に、真っ赀なハむヒヌルの靎が二足、すさたじい勢いでこちらに飛んできた。
     目にも止たらぬ速さで靎が迫っおくる。
     ドゎッ、ず音が響き、二人の身䜓にヒヌルが呜䞭した。
     脳に盎接響くようなダむレクトな痛みずずもに、癜ず明は声を䞊げお悶絶した。激痛は次第にじんじん響くような鈍痛に倉わり、芖界が暗転するような目のくらみが襲っおきた。
     うずくたっお痛みに呻く二人の耳に、聞こえる絶叫。
    「ざたああああああああああ」
     アカリの金切り声が倜空に響き枡り、そのたた圌女は火が぀いたように泣き出した。そしお今床は雄叫びのような笑い声を䞊げ、地面を転げ回っお空気を匕き裂くように笑い続けた。
     隒ぎを聞き぀けた通行人が、埌に野次銬ず化す。極楜浄土の前は隒然ずし始め、あちらこちらから人々の泚目が圌らに集䞭した。
     
       〇


    第六章ぞ続く。



    #創䜜倧賞2023

     
     
     
    小説、絵、挫画、動画制䜜者。 2023幎note創䜜倧賞䞭間遞考突砎。 2026幎゚ブリスタ集英瀟青春小説倧賞短線郚門ピックアップ賞受賞🏆 クリ゚むタヌ職に就く SHElikes入䌚メンバヌ。 KADOKAWAマンガアカデミヌキャリアカレッゞ入孊䞭。 Xずnoteに居たす。

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