
#14 災害は自然災害だけじゃない ――CBRNEって知ってますか 防災士教本 第9講(行政の災害対策と危機管理)
防災士として学ぶ中で、「災害」という言葉の意味が、少しずつ変わってきました。
地震、台風、水害。
災害と聞いて思い浮かぶのは、たいていそのあたりまでです。
そんな中で出会ったのが、DMATの先生による講演でした。
テーマは「CBRNE災害における健康危機管理」。
CBRNE。
私はこの文字を読めませんでしたし、聞いたこともありませんでした。
📍 CBRNEとは何か
CBRNEと書いて、「シーバーン」と読みます。
Chemical(化学)、Biological(生物)、Radiological(放射線)、Nuclear(核)、Explosive(爆発物)。
この5つの頭文字を取った言葉で、これらが原因となる災害を、CBRNE災害と呼びます。
📌 名前を知らなくても、実は経験している
CBRNEと聞くと、テロや兵器の話に聞こえるかもしれません。
災害医療の専門誌によると、
実際、この言葉が使われるようになったのは、2001年のアメリカ同時多発テロがきっかけです。
それまでは、NBC(核・生物・化学)という呼び方が使われていました。
ただ、名前ができる前から、この種の災害は起きていました。
1995年、東京の地下鉄でサリンが散布された事件。
死者13名、6,000人以上が被害を受けました。
当時はまだCBRNEという言葉はありませんでしたが、今ではCの典型例として位置づけられています。
2011年、東日本大震災に伴って起きた福島第一原発の事故。
RとN、放射線と核に関わる災害です。
2020年から世界に広がった新型コロナウイルス。
Bの、生物による災害に準じるものとして扱われます。
聞き覚えがなくても、多くの人が、もう経験しています。
📌 テロでなくても、起きる
CBRNEと聞くと、「意図的な攻撃」のイメージが先に来ます。
でも、テロより現実的な脅威は、事故かもしれません。
石油コンビナートで火災が起きたら。
化学工場で薬剤が漏れたら。
原子力発電所が、自然災害と重なったら。
意図がなくても、起きてしまう。
2005年、アメリカで列車事故が起きました。
塩素ガスが流出し、9人が死亡、550人以上が病院に運ばれました。
テロではなく、事故でした。
1984年、インドの化学工場でガスが漏れました。
何万人が亡くなったのか、正確な数は、今もわかっていません。
これも、事故でした。
海の向こうの話に聞こえるかもしれません。
でも、日本の上空にも、今も弾道ミサイルが飛んでくる可能性があります。
だからこそ、Jアラートという仕組みは、今この瞬間も動いています。
📍 ハザードマップに映っていないリスク
このシリーズで、以前ハザードマップについて書きました。
浸水域や土砂災害の危険区域を確認する。避難先を確認する。
それは、大切な備えです。
📌 浸水だけでは、終わらない
ただ、ハザードマップに映る範囲だけが、リスクのすべてではありません。
空港。原子力発電所。危険な化学物質を扱う工場。
事故や、何らかの妨害行為によって、大きな健康被害につながりうる施設が、実は身近にあります。
たとえば、洪水で水が来たとします。
ハザードマップの通りに、浸水域が広がった。
でも、その範囲の中に、化学工場があったら。
水の質が変わります。
被害の種類が、変わります。
ハザードマップは、自然災害の被害範囲を示すための地図です。そこに何があるかまでは、教えてくれません。
📌 重なっているのは、偶然ではない
日本には、9か所に15の石油化学コンビナートがあります。
原料を運ぶタンカーが使いやすいよう、太平洋岸や瀬戸内海沿岸の埋め立て地に多く立地しています。
つまり、もともと海に近い、低い土地です。
水害や高潮のリスクが高い場所と、化学工場の立地は、重なりやすい構造になっています。
2017年、アメリカのテキサス州をハリケーン・ハービーが襲いました。
ヒューストンの化学工場で、洪水によって停電が起き、化学物質を冷却するための電源が失われました。
その結果、爆発が2回発生しています。
洪水そのものではなく、洪水が引き起こした停電が、化学反応の制御を失わせた。
同じ条件は、日本の沿岸にもあります。
自分の住む地域のハザードマップを、もう一度見てみてください。
その地図の中に、空港や原子力発電所、化学工場はあるでしょうか。
見つかったら、地図に丸をつけてみる。
それだけで、自分だけの、CBRNEを意識したハザードマップが、ひとつできます。
そこが、ミサイルやテロの標的にならないとは、誰にも言い切れません。
📍 防災庁に期待すること
防災庁の設置法案が、今の国会で成立する見込みになっています。
首相をトップとする専任の閣僚を置き、他省庁に対して防災対応を促す「勧告権」を持たせる。
2026年11月ごろの発足を目指しています。
「勧告権」という言葉が出るとき、私はCBRNEのことを思います。
化学物質の管理は経済産業省。
感染症の対応は厚生労働省。
テロや事件は警察庁。
放射線は原子力規制委員会。
CBRNE災害は、その性質上、複数の省庁にまたがります。
一つの事案が、どこの管轄なのか、すぐにはわからない。
防災庁が他省庁に勧告できるとしても、CBRNEのような複雑な事案で、その権限がどう働くのかは、まだ見えていません。
防災庁ができれば解決する、とは思っていません。
ただ、「災害」という言葉の射程が、どこまで届いているのか。
新しい組織が問われるのは、結局そこなのかもしれません。
※本記事は、防災士教本「第9講(行政の災害対策と危機管理)」に関連する内容を、防災士育成研修での学びをもとに、等身大の視点で整理したものです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
医療に携わる立場の方と、防災や災害医療について考え続けられる場として、無料で利用できる「ドクシル」の中にコミュニティがあります。この記事で触れたような、助ける側のこころのケアについても、ぜひ一緒に考えていけたらと思っています。
※ noteをご覧の医師の方へ
ご登録時、紹介コードの入力欄に「7777777777」(7を10桁)とご記入いただけると、運営の励みになります。
直接的なお返しは難しいのですが、いつか別の形でお役に立てるよう、引き続き取り組んでいきます。