
#15 目の前で人が倒れたら、何をすればいいか ――心肺蘇生とAED 防災士教本 補講4(防災士が行う各種訓練)
📍 心肺蘇生とAED、やってくれとは言いません。知ってください。
防災士の研修で、人形を相手に心肺蘇生とAEDを体験しました。
でも、正直に言うと。
今、目の前で本当に人が倒れたら、同じようにできる自信はありません。
おそらく、多くの人がそうだと思います。
目の前で人が倒れたとき、何が起きていて、何をどの順番で行えばいいか。
AEDって、止まった心臓を再び動き出させるものだと思っていませんか。
📌 東京マラソンが、100%という数字を出している
東京マラソンは、2007年の開催以来、コース上で心停止になったランナーが、これまで11人いました。
その11人、全員が救命されています。
100%。
これは、医療体制が整っているからこその数字です。
ただ、その背景にある数字は、特別な場所だけの話ではありません。
119番通報をして、救急隊の到着を待つだけでは、救命率は9.2%です。
そこに胸骨圧迫が加わると、2倍になります。
さらにAEDによる電気ショックが行われると、半数以上の人が救われます。
その数分を埋められるのは、救急隊員ではなく、その場にいる人です。
📍 倒れている人を見つけたら、何をするか
ここから書く手順は、日本救急医療財団心肺蘇生法委員会が監修し、JRC蘇生ガイドライン2020にもとづいた「救急蘇生法の指針2020(市民用)」という、市民のための公式な指針を参考にしています。
医師や救急隊員が学ぶものと、同じ土台の上に立っている内容です。
1️⃣ まず、周囲を見る。それから、声をかける
倒れている人を見つけたら、すぐに駆け寄りたくなります。
でも、その前に、ひとつだけ確認することがあります。
そこは、安全な場所でしょうか。
車道、漏電している可能性のある場所、ガスの匂いがする場所。
助けようとした人が、次の被害者になってしまうことがあります。
危険がある場合は、近づかず、警察や消防の到着を待つという選択肢もあります。
安全を確認できたら、近づいて、肩を軽く叩きながら、大きな声で呼びかけます。
「大丈夫ですか」
声をかけるのは、ちょっと怖い。
知らない人に、急に大きな声で話しかけるのですから。
そばに居合わせた人が応急手当を行った割合は、平成6年には13.4%でした。
令和元年には50.7%まで上がっています。約4倍です。
ためらうのは、自分だけではありません。
ただ、この数十秒の使い方が、その後を大きく左右します。
2️⃣ 反応がない。それでも、一人で、全部やらなくていい
呼びかけても、反応がない。
実は、心停止が起きた直後には、けいれんのような動きが出ることがあります。
これは呼びかけに応えているわけではないので、「反応なし」と判断します。
反応がない。それだけで、十分なサインです。
呼吸を確認できているかどうかは、まだわからなくていい。
まず、人を呼びます。
周りに人がいれば、役割を分けて頼みます。
「あなたは119番を」「あなたはAEDを」
一人しかいない場合は、まず自分で119番をします。
すぐ近くにAEDがあるとわかっている場合は、その後に取りに行きます。わからない場合は、通信指令員の指示に従います。
119番に電話をすると、通信指令員から胸骨圧迫のやり方などの指導を受けられます。
スマートフォンのスピーカー機能を使えば、両手を空けたまま指導を受けられます。
ここからの数分が、生死を分けます。
救急車が到着するまでは、全国平均で8.7分。
何もしなかった場合の1か月後の社会復帰率は4.4%ですが、心肺蘇生を行った場合は12.3%、約3倍に上がります。
さらに、救急隊が到着する前に電気ショックを行った場合の社会復帰率は46.0%。救急隊が到着してから行った場合の20.9%を、大きく上回ります。
一人で全部をやる必要はありません。
誰かが動けば、その場は変わります。
最初の一人に、なれるかどうかです。
3️⃣ 呼吸を見る。わからなければ、それでいい
胸と、お腹を見ます。
10秒以内で、上がったり下がったりしているかを確認します。
ここで、ひとつ注意することがあります。
心停止が起きた直後には、しゃくりあげるような、途切れ途切れの呼吸が出ることがあります。
これは「死戦期呼吸」と呼ばれるもので、呼吸をしているように見えても、普段どおりの呼吸ではありません。
呼吸がない。あるいは、普段どおりではない。
それだけで、十分なサインです。
10秒見ても、判断に迷うことがあります。
わからない、というときも、心停止として動いていい。
もし、心停止でなかったとしても。
胸骨圧迫によって、重大な害が出ることはないとされています。
ためらう理由は、もう、ありません。
4️⃣ 迷わず、胸骨圧迫を始める
胸の真ん中。
両脇の下を結んだ線の延長線上にある、胸の真ん中です。
そこに、手のひらの付け根を置きます。
もう片方の手を重ねて、指を組みます。
強く。速く。絶え間なく。
胸が約5cm沈むまで、しっかり押します。
テンポは1分間に100〜120回。
想像している以上に、強く押し込むことになります。
動画で見ると、その力加減に驚くかもしれません。
肋骨が折れるのが怖い、と感じるかもしれません。
ですが、力が弱すぎると、血液は流れません。
押した後は、胸が元の高さに戻るまで、しっかり力を抜くことも大切です。
一人で続けるのは、体力を使います。
代わってくれる人がいれば、1〜2分を目安に交代します。
ここで、知っておいてほしいことがあります。
AEDは、すぐに届くとは限りません。
近くに設置されていなければ、誰かが探しに行く時間がかかります。
それでも、圧迫の手は止めません。
圧迫は、救急隊と交代するまで続けます。
効果がなさそうに思えても、あきらめずに続けることが大切だと、指針にも書かれています。
もし、救助した結果、相手が亡くなったとしても。
善意で行った救命処置は、法律によって守られています。
民法上は「緊急事務管理」として、重大な過失がなければ責任を問われません。
厚生労働省も、人命救助のためのAED使用は、原則として免責される、という方針を示しています。
圧迫を続けます。AEDが届いたら、次の段階に進みます。
5️⃣ AEDが届いたら
ここで、最初の問いに戻ります。
私は、AEDのことを、止まった心臓を動かす機械だと思っていました。
でも、違います。
心停止のほとんどは、心臓が完全に止まっているわけではなく、けいれんするように細かく震えている状態です。
これを心室細動といいます。
ポンプとして血液を送り出せない、ただ震えているだけの心臓。
AEDの電気ショックは、その震えを動かすためではなく、止めるために使われます。
一度止めることで、心臓自身が、元のリズムを取り戻すきっかけが生まれます。
電源を入れると、音声が指示を始めます。
「胸をはだけてください」「パッドを貼ってください」。
ひとつずつ、言われたとおりに進めば大丈夫です。
ここで、ひとつだけためらう場面があります。
胸をはだける、という動作です。
倒れている人が女性であれば、なおさら抵抗を感じるかもしれません。
指針にも、こう書かれています。
女性の胸を露出させることはためらいがちですが、電極パッドを正しく貼り付けることを優先します。そのさい、できるかぎり人目にさらさない配慮も大事です。
周りに人がいれば、囲んでもらう。
タオルや上着で、できる範囲だけ覆う。
救命と、その人の尊厳。両方を、同時に守る方法はあります。
子どもの場合は、未就学児用のパッドがあれば使います。
なければ、大人用のパッドで構いません。
あとは、音声に従うだけです。
AEDの使い方は、先ほどの動画の続き、胸骨圧迫の説明のすぐ後に出てきます。
📍 知っているだけで、何かが変わる
ここまで読んでも、目の前で人が倒れたら、きっと一瞬固まると思います。
私も、たぶんそうです。
ただ、その後にどう動くかは、もう知っています。
周囲を見る。
声をかける。
人を呼ぶ。
胸を押す。
AEDが届いたら、音声に従う。
完璧にできなくてもいい、と指針にも書かれていました。
何か役立つことを、迷わず始めることの方が大切だと。
知っていることと、できることの間には、まだ距離があるかもしれません。
もし、あの場面が来たら。
あなたは、最初の一人になれるでしょうか。
※本記事は、防災士教本「補講4(防災士が行う各種訓練)」に関連する内容を、防災士育成研修での学びをもとに、等身大の視点で整理したものです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
医療に携わる立場の方と、防災や災害医療について考え続けられる場として、無料で利用できる「ドクシル」の中にコミュニティがあります。「知っているけど、できるか分からない」という距離をどう縮めていくか、これからも一緒に考えていけたらと思っています。
※ noteをご覧の医療・介護従事者の方へ。ご登録時、紹介コードの入力欄に「7777777777」(7を10桁)とご記入いただけると、運営の励みになります。直接的なお返しは難しいのですが、いつか別の形でお役に立てるよう、引き続き取り組んでまいります。