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第11話|東京にマンションを買うつもりなんだ

    これは、自分自身を偽って溺れた男が
    人生を裁かれる物語。

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    カーテン越しに朝の光が差し込み、ホテルの室内がふんわりと白く照らされる。


    「……もうチェックアウトの時間だよ」

    結子の声に、幸助はベッドで顔をしかめた。

    「まだいいじゃん……」

    「だめ。追加料金とられるってば」

    鏡の前で身支度を整える結子の姿を、名残惜しそうに見つめながら、幸助はベッドの端でぐずっていた。

    「だってさ……せっかく、こうして2人きりなのに」

    背後から結子の腰に腕を回し、うなじに唇を押し当てる。

    「こ、コウくん!」

    思わず笑ってしまう結子が振り返り、
    彼を軽く押し返す。

    「ほんとに、もう!ちゃんと起きて」

    「……最後に、キスだけ」

    「……しょうがないなあ」

    許された幸助は、結子の唇にそっとキスを重ねた。深く、短く、また角度を変えて——。

    「……んっ」

    結子の小さな吐息が、朝の静けさに溶けていく。

    そのまま、まだ熱の残る身体を抱き寄せてしまいそうになるのを、なんとか理性で止める。

    「……延長しようかな」

    「だーめ!」

    結子が指で彼の額を軽く弾いた。

    「もう、ちゃんと仕事行って!」

    ようやくベッドから起き上がる幸助。

    ふと視界の隅に映ったベッドサイドのゴミに、目が止まった。

    ——散乱する殻、空になった箱。

    「……そうだった」


    昨夜開けたばかりのゴムの箱。

    「えっ……全部使った?」

    目を見開く結子。

    「……そう、いつのまにか。」

    学生時代、最高記録は8回。あの頃でさえクタクタになった記憶がある。

    けれど、今回は——

    (まさか、使い切るとは)

    「……私も、こんなの初めて」

    結子が呆れたように笑う。

    「ちょっと…コウくんが元気すぎるんだよ?
    覚えたての高校生かと思った。」


    「俺だってこんなの初めてで…
    結子のせいだよ?」

    幸助は軽く肩をすくめ、結子の腰を抱き寄せながら囁く。

    「……まだ足りない」

    「…?嘘でしょ?!
    てかもう無いんだから。だーめ」

    結子はそう言いながら、また軽く彼を叩いて笑った。

    ——こんなふうに拒まれても、愛おしさは膨らむばかりだった。


    チェックアウトを終え、2人は近くのカフェでブランチを取ることにした。

    テラス席に差し込む朝の光の中で、結子は黒のシンプルなワンピースに身を包んでいた。
    緩く巻かれた髪、ナチュラルだけど透明感のあるメイク、完璧なバリキャリ美女——

    さっきまでベッドで甘えていた人と同一人物とは思えない。

    (すごいな……)

    思わずつぶやきそうになる。

    自分の前でだけ見せる、あの無防備な寝顔。

    あの甘い声や、肌の感触。

    すべてが「特別」に感じられる。

    (刺さりすぎる…)

    結子は幸助の熱い視線に気づく。

    「ん?どしたの?」

    「……綺麗だなって、思っただけ」

    結子は照れたように笑って、カフェラテを口に運んだ。


    そして、ふいに幸助の口から出た言葉。

    「東京に、マンション買うつもりなんだ」

    「え、すごい!どのへん?」

    「うーん……便利なとこかな。来る?」

    結子は少しだけ目を見開いて、冗談っぽく笑った。

    「一部屋ちょうだい。駅近がいいな」

    「……検討しとく」

    結子と笑いながら、しかし内心はざわついていた。

    ——なぜ、言ったんだろう。

    本当はすでに、都内の新築マンションの契約書にサインしていた。
    35年ローンのタワマン。ステータスを気にする妻の希望で、今の年収ではかなり背伸びして購入を決めた物件だった。

    それを、今こうして結子に伝える意味は……?

    (……未来を、考えてる?)

    それに気づいた瞬間、胸の奥がひどくざわついた。



    駅までの道すがら、幸助は手を繋ぎたい気持ちに駆られた。

    (いや、誰かに見られたら…)

    迷っているうちに到着してしまった。


    「……じゃあね、コウくん」

    改札前。見送りの最後、ほんの一瞬でも彼女の唇にキスをしたくなった。

    けれど、ぐっと堪える。

    「……またね」

    「うん、行ってらっしゃい」

    手を振る結子の姿が見えなくなるまで、何度も振り返った。

    (もう……すぐに会いたい)

    ——この気持ちが、すでに恋なのだと、幸助はまだ気づいていなかった。



    次回【第12話|絡みつく余韻と止まらない衝動】
    彼女の名を呼ぶたびに、熱が蘇る。
    出張先のホテルでも抑えられない衝動。
    ——歯止めは、もう利かない。

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