
第12話|絡みつく余韻と止まらない衝動
これは、自分自身を偽って溺れた男が
人生を裁かれる物語。
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新幹線の座席に体を沈めながら、幸助はまだ、現実に戻れていなかった。
隣の席は空いている。窓の外は、どこまでも続く郊外の景色。
けれど、彼の脳裏には、昨夜の彼女の吐息や肌の温度が、まだ色濃く残っていた。
——あの唇、まだ、覚えてる。
カーテンの隙間から朝日が差し込んだあの瞬間。
無防備な寝顔。うっすら紅潮した頬。
そして、「だーめ」と微笑みながらゴムの空箱を指差した彼女の顔。
(…可愛すぎるんだよ、ほんと)
思わずスマホを開き
彼女のアプリのプロフィール写真のスクショを
反芻する。
(この人が、あんなに甘く乱れるなんて…)
記憶の中の彼女の顔が、どんどん美化されていく。
(やばいな……なんでこんなに会いたくなるんだ)
昨夜から今朝にかけて、何度抱いたか覚えていない。
ゴム一箱使い切ったなんて、学生時代にもなかった。
(これ……完全に、ハマってる)
LINEを開き、指が無意識に彼女の名前を探す。
【幸助:見送りありがとう!甘いキスの余韻がまだ残ってる……】
送った直後、既読がついた。
【結子:エロいことばっか考えてないでちゃんと仕事してくるんだよ?澤井くん。】
クールな返信に、にやけそうになる。
(ツンデレか……?
性格も、やっぱ好きだ)
不意に、彼女の素っ気ない返信すら愛おしく思えてしまう自分がいた。
このまま仕事に行けるのか不安になるほど、
体の芯がまだ熱を帯びていた。
——思考も、理性も、すべてが、彼女に絡みついていた。
(……あの肌の柔らかさ、唇の甘さ)
記憶が、また再生される。
「……コウくん、もう……」
彼女がベッドで囁いたあの声が、脳内に何度も反響する。
思わずズボンの上から熱を持つ中心に触れそうになり、慌ててスマホを閉じた。
(ちょ、落ち着け……人前だぞ)
新幹線の中であることを、ようやく思い出す。
視線を下に逸らしながら深呼吸したその時、不意にスマホが震えた。
通知欄に表示された名前は——
「時子」
一瞬、心臓がドクンと跳ねる。
【時子:子供達、具合悪いの。私も熱っぽくて…
早く帰ってきて……】
その文字を見た瞬間、全身から血の気が引いた。
(……ああ、そうだった)
自分には、家庭がある。
妻がいて、子どもがいて、休日には家族で出かけるのが“普通”の父親。
——けれど。
(今、俺の頭の中にいるのは……)
どうしても思い出してしまう。
寝起きの彼女が、まだベッドに埋もれたまま、甘えるように目を細めた顔。
——「おはよう」の声が、まだ耳に残ってる。
罪悪感があった。
でもそれを上回るほど、彼女の存在が甘すぎた。
こんなに求めたことはなかった。
肌も、匂いも、声も、全部。
まるで溺れるように、彼女に夢中になっていた。
(……このまま、引き返せるか?)
答えは、もう出ている気がしていた。
——歯止めは、きかない。
出張先で泊まったビジネスホテルの部屋。
スーツを脱ぎ、シャワーを浴びた後も、幸助の頭から結子のことが離れなかった。
(……やばいな、さっきのキスの余韻が、まだ抜けない)
寝ようとしても、ふとした瞬間に彼女の肌の感触が蘇る。
香り、声、あの時の体温——
すべてが、記憶の中で繰り返し再生されていた。
(……だめだ、今、思い出してる場合じゃないのに)
シーツに包まりながら、スマホを取り出す。
LINEの画面を開き、無意識のように彼女の名前をタップしていた。
「……明日、仕事早く終わったら、会えない?」
送信するまでに何度か迷った。
送った後も、画面を凝視したまま動けない。
やがて既読がつき、少しして返事が来た。
「えっ、明日?
出張帰りだよ?大丈夫なの?」
——その返事がもう、半分OKに聞こえた。
「少しでも会いたい。夜遅くなってもいい」
そう打つと、またすぐに既読がつく。
「……わかったよ。待ってるね」
たったその一文で、幸助の理性は完全に壊れた。
(……結子に、全部、注ぎたい)
その夜、彼は日課の自慰行為をあきらめた。
ひとりで処理してしまえば少しは楽になると分かっていた。
けれど、それをしなかった。
(これは……結子じゃないと意味がない)
(この衝動を、全部、彼女に注ぎたい)
明日、再び結子に会える。
——ただそれだけで、身体の奥から熱が湧き上がるような感覚。
その晩、幸助は夢の中でも結子を抱いた。
少しでも結子に会いたい。
貪りたい欲求が止まらない幸助。
「全部俺のものにしたい」
ますます加速していく-。