
第13話|止まらない独占欲
これは、自分自身を偽って溺れた男が
人生を裁かれる物語。
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21時近く。
駅で落ち合い、二人は自然と並んで歩いていた。
「そんなに私に会いたかったの?澤井くん。」
冗談っぽく言う結子を見つめながら、幸助は言った。
「少しの時間でもいいから、会いたかった。」
「もう…昨日会ったばかりだよ?」
頬を染めて、でも少し嬉しそうに笑う結子を見て、胸がギュッとした。
(なんなんだ、これは…ただの性欲だろ?)
結子の最寄駅近くには、ラブホはない。
終電までは3時間程度。
「…ご飯食べてきちゃったよね?」
「そこの温泉施設、個室があるらしい。そこでゆっくりしない?」
幸助の提案に、結子は少し考えた後
「じゃあ、温泉、行こうか。」と微笑んだ。
個室に入ると、結子が
「疲れてるんだから、お風呂にゆっくり浸かりなよ」
と促す。
でも——そんな余裕はなかった。
「……結子。」
幸助は、浴衣を手に取った彼女の手首を掴んだ。
「え、ちょ、コウくん……。」
「……もう独占欲が出てきたかも……やばい。」
まるで獣のように、彼女の唇を奪う。
「……待って……コウくん……。」
結子は戸惑いながらも、抗うことはしなかった。
「声、我慢して…?」
お互いに、止められなかった。
(この人の全部、俺のものにしたい。)
本能が叫ぶ。
——もう、戻れない。
◆走る終電、待っている妻
時間が過ぎるのは、一瞬だった。
この短時間でも幸助は結子を貪った。
(なんだこれ…昨日より、もっと、いい…)
「ねえ、結子って何か身体に仕込んでる?」
「…麻薬みたいな女?ってこと?」
結子はあざとく笑った。
ージリリリ
時計のアラームが鳴って、幸助は思わず
舌打ちをする。
「チッじゃないの。もう終電だよ…。」
息も絶え絶えに結子が幸助の身体を推し剥がした。
「もう終電、いいかな…」
幸助は、再度結子の身体を引き寄せる。
「勘弁して…私、明日も仕事なの。
コウくんも2日でどんだけ出してんの…!
帰るよ?」
母親のように幸助の頭をポンポン叩く結子。
幸助は名残惜しそうに口をつぐむ。
「ごめん。でも、またすぐに会いたい。」
駅に向かう足は、妙に重い。
ホームで電車を待ちながら、スマホを取り出す。
時子からの未読メッセージが溜まっていた。
「……帰るか。」
自宅には、具合の悪い家族が待っている。
時子はワンオペで文句タラタラだ。
——でも、そんなことはどうでもよかった。
「またね。」
改札の向こうで、結子が手を振っている。
終電に駆け込みながら、幸助は高鳴る鼓動がもはやどこから来ているのか?
考えないふりをした。
……彼はまだ知らなかった。
この歯止めの効かない独占欲が、やがて自らの人生を狂わせることを。
一方その頃——
自宅のリビング、ソファに身を沈めながら、
時子はスマホを見つめていた。
「えー、あんなハイスペイケメンの旦那さん、浮気するんじゃない?」
友人の言葉に、わざとらしくムッとした表情を作る。
「浮気なんて器用な人がやることよ。うちのはそんなのじゃないし」
(……不器用だから私を選んだ。そう思ってる)
自分は“理想の女”ではない。
それは、薄々分かっていた。
でも、彼は真面目で誠実な男だと信じていた。
(浮気なんて、するはずがない)
——時子は、信じたかった。
次回|第14話:恋に堕ちる誕生日
彼女の誕生日に、そばにいられなかった——。
送られてきた“女友達とのツーショット”に、思わず安堵する自分。
それでも消えない独占欲が、心をざわつかせる。