
第14話|恋に堕ちる誕生日
これは、自分自身を偽って溺れた男が
人生を裁かれる物語。
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——今日は、結子の誕生日。
にもかかわらず、幸助は仕事で遠方にいた。
予定外の出張が入り、どうしても都内には戻れなかった。
(遊びの女の誕生日を一緒に祝うなんて、今までは頼まれても避けてきたけど…)
「本当にごめん。一緒に祝いたかった。」
LINEでそう送った後、しばらくスマホの画面を見つめる。
すぐに、結子から明るいトーンの返信が届いた。
【気にしないで!もともと友達と過ごす予定だったし、大丈夫だよ〜】
(……友達?)
男か、女か。
誰と、どこで、どんなふうに過ごすのか。
たった一言に、胸の奥がざわついた。
それは疑いというより、「知りたい」という欲だった。
自分が側にいない今日、結子が誰に笑顔を見せているのか。
誰と乾杯して、誰に「おめでとう」と言われているのか。
知る権利などないとわかっているのに、
想像するたび、熱いものが喉の奥にせり上がってきた。
(……やっぱり、俺、嫉妬してるのか)
しばらくして、結子から写真が届いた。
スパークリングワインのグラスを持った結子が、女友達と並んで笑っている。
華やかだけどどこかラフな雰囲気のツーショット。
白のワンピースの結子は、今日は特別に清楚に見える。
「ちゃんと女友達とだよ〜」というメッセージが添えられていた。
それを見た瞬間、幸助は思わず息を吐いた。
——安堵。
胸の奥に詰まっていた塊が、するりと溶けていく。
(……よかった。って、俺なに安心してんだ)
自分でも驚くくらい、深く、ほっとしていた。
(……おかしいだろ。遊び相手の誕生日に、誰と過ごしてるかでこんな気持ちになるなんて)
その直後——
【安心した?】
結子からの追撃。
(……見透かされてる)
情けないほど図星で、思わず吹き出してしまう。
【……しました】
たった一言、素直に返す。
画面越しに、彼女の微笑が浮かぶようだった。
(……ダメだ。完全に沼ってる)
画面を閉じた後も、ふと目を閉じるたびに浮かぶのは、
屈託のない笑顔の彼女。
ベッドで甘えてきた、あどけない寝起き顔。
そして、「コウくん、もう……」と声を漏らした、あの瞬間の艶やかな吐息。
——会いたい。
ただ、もう一度、肌を重ねたくて。
(……今度は、俺がちゃんと祝いたい)
このままでは終われない。
誕生日に隣にいられなかった悔しさを、
すべて埋め尽くすように——
【今度、振替休日取るから。結子の誕生日、ちゃんと一日中祝わせて?】
送った言葉に、結子は
【えー、楽しみにしてるね】
と、あっさり返してきた。
それがまた、彼女らしくて、たまらなく愛おしかった。
だが、幸助の中では別の感情が沸き上がっていた。
——この人を、誰にも渡したくない。
今までの浮気相手とは、明らかに違う。
単なる性欲のはけ口ではない。
心の奥まで、静かに、でも確実に侵食されていた。
(……結子に、俺の全部を注ぎたい)
自分のなかで膨れ上がっていく衝動を、
幸助はもう、止められなくなっていた。
次回|第15話:はじける欲望、祝福の午後に
誕生日デート。
白いワンピースに身を包み、微笑む結子の姿に、幸助の心は完全に奪われていた。
そして、ホテルへ——。
——この恋は、狂気と背中合わせだった。