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なぜか見てしまうものたち③|群馬の畑で、魔界の女王さまに出会った。

    ニンゲンとして暮らしていると、ときどき脳みそがバグるときがある。
    たとえば、宮崎県にはじめて行ったとき。空港から市内に向かう大きな道路。その中央分離帯にヤシの木が並んでいた。え?と思う。ここどこだったっけ?と脳みそが一瞬パニックに陥る。日本だという前提でいたのに、南国の景色が目にはいってきたからだ。

    つまり、ひとの脳みそは、前提がいきなり狂うと一瞬止まる。ここにあるはずのないもの、想定していなかった景色、見たことのない形。そういうものが目の前に現れると、脳みそが処理待ちになる。

    そして昨日、またそれが、群馬の畑で起きてしまった。

    なぜ、群馬かというと、知り合いが群馬に移住して、古民家を改築したカフェを開いたからだ。そこに友人たちと遊びにいった。
    1年以上ぶりの再会。近況や古民家改築の話で盛り上がる。遠方からはるばる、ということで、もともとその地域に住んでいる娘さんが、畑で採れたお野菜をふんだんに使ったランチプレートを作ってくれた。

    畑から直行の採れたて野菜は、とにかくおいしい。カフェの軒先では、そうした野菜なんかも売っていて、わたしたちは、いろいろと気になる野菜を購入。そしてそのあと、せっかくだから、と畑も見せてもらおうということにした。

    思った以上に広い畑。これからなにかを植えるために準備したエリアが数面あって、そのほかは、ナス、トマト、ほうれん草などなど、見慣れたお野菜がひたすら並ぶ。

    スナップエンドウはすでにいい感じになっていて、ちぎって食べてもいいよ、とのこと。遠慮なくちぎって口に放り込むと、ぽりっとして、とても甘い。あまりにおいしくてもうひとつ食べ、そしてもうひとつ、と3つ目に手を伸ばしたら、友人に「ユキちゃん、3つ目からは1000円いただきます」と笑われた。

    えへへと笑いながら、次のエリアに移動する。

    そしてまた次のエリア、次のエリアと案内されているときだ。突然、明らかに異質な

    植物がぬっと現れた。

    なんだこれ。
    なんだこれ。なんだこれ。
    なんだこれっ!

    なんだか南国ちっくな風貌で、赤紫のマントをまとった魔界の女王さまといった感じ。カタチとしては、カラーというお花に似ているのだけれど、あれよりずっとデカい。1メートルは優に超える感じ。堂々とした姿。ちょっと毒気のある出で立ち。威圧感。カタチも雰囲気も全然ちがうのだけれど、存在感としては、アメリカの荒野にたたずむサボテンのイメージと、すこしダブる。

    もう一度、しげしげと見てみる。
    棒がぬっとそびえ立つ感じ。そして、真ん中あたりにラッパ状のマント。そのマントのなかから、さらにぬーーーっと伸びた棒芯。その棒芯は、大きいもので70〜80センチくらいはあるかもしれない。

    さらにもう一度、下からじっくり構造を確認していく。
    地面からまっすぐの棒がすーっと伸びる。たぶん茎。緑がかった黄色のような茶色のような色。ちょっとオレンジっぽい部分もある。それを目で追っていくと、次にはラッパ状のマントがくる。マントの外側は黄緑に茶色や赤紫の斑点みたいな感じ。
    マントの上のほう、開いたラッパの縁は赤紫。マントの内側は、濃い赤紫。そしてそのなかからは、ちょっと太めの赤紫の棒が、ぬーっと空に向かって伸びる。この棒芯は、天に近いあたりで、黄緑系にグラデーションになっている。

    さらに、マントの中を覗き込んでみると、帯状に白っぽいブツブツがたくさん。

    けったいなカタチだなぁ、と、思わず口から出た。

    そしてつい、マントから出た太い棒を触ってみたいという衝動に襲われた。
    つまんでぷにっと押してみると、べこっと凹んだ。え?これだけの威圧感があるのに、実はハリボテ?と、脳みそがさらにバグる。
    さらに、ぷにっ、ぷにっ、と押してみると、べこっ、べこっ、と凹む。

    ふーむ。と思って、鼻をこすったら、その指から強烈なニオイがして、うへっとなる。
    ただ、どこかで嗅いだことのあるニオイ。生臭いというか、干物が腐ったような、なんだかイヤなニオイ。
    念のため、棒芯に鼻を近づけてニオイを確かめてみたら、おえっとなりそうになった。念のため、と思ってニオイを嗅いだ自分を軽く呪う。

    とりあえず、持っていたウエットティッシュでゴシゴシ、ゴシゴシと指を拭き清める。そして指がクサくないか確かめたあと、スマホで画像検索をしてみると、なんと、こんにゃく芋の花らしい。しかも、その花は、4〜5年たたないと咲かないとのこと。
    そんなに珍しい花だったら、この威圧感、許してあげよう。クサいことだって許す。わたしの手がクサくなったことだって、へでもない。

    それにしても、造形としておもしろすぎる。これ、もし自宅に庭があったら植えたいやつだ。でもきっと、気候や土とかの条件が揃わないと育たないやつ。

    うーん、ほしいなぁ。
    もしこれが、オブジェとして販売されたら、ぜったいに買う。
    なんなら自分で造っちゃおうか。

    なんてことを考えていたら、「ユキちゃーん。もう行くよー」と、遠くから声を掛けられた。

    とりあえず「はーい。行きまーす」と返事をして、小走りにみんなのもとに向かう。後ろ髪ひかれまくり。何度か振り返る。遠くなっていく女王さま。

    魔界の女王さまが赤紫のマントの奥で、「わたしの魅力をもってすれば、あんたなんかイチコロね」とささやいた気がした。
    ……まあ、実際イチコロだったけど。


    ※この話は「なぜか見てしまうものたち」連作の3本目です。

    前の話はこちらです。
    なぜか見てしまうものたち②|ニンゲンは、くるくる、ぐるぐる、しゃらしゃらにあらがえない。

    ※この記事は、はてなブログ「今日も懲りずに『脳みそ散歩』」に掲載したこちらの記事をもとに、note創作大賞応募用に整えたものです。


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