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なぜか見てしまうものたち①|元アリンコ愛好会、会長です。

    ある日のこと、高尾山を登っていた。登山といっても、本格的な登山というよりは、ちょっとしたレジャーとして、多くのひとが楽しむような山。
    とはいえ、友人たちが、インドア派のわたしのことを気遣って、ケーブルカーを使うことを提案してくれた。でも、せっかくの初登山。往路だけはちゃんと登ることにした。

    あー、疲れた。と言いながら、途中で何度も休憩をする。そのうち、疲れていることにも麻痺してきて、頭が空っぽになってくる。ほげーっとしながら、ひたすら足を動かし前進する。

    すると、後ろを歩いてくれていた友人が、ユキちゃん、靴ひも、ほどけてるよ。ちゃんと結ばないと、と声をかけてきた。

    空っぽの頭で足もとを見ると、たしかに右足の靴ひもがほどけている。
    よっこらしょっ、としゃがみ込み、靴ひもを結びにかかった。

    そのとき、視界でなにかが動いた。
    うぬ?となったけれど、とにかく靴ひもを結ばなければ、と手もとに集中する。
    しかし、やはりなにかが動いている。

    気になってその方向を見ると、アリンコだった。街中で見るよりも大きなアリンコ。思わず、きちんとしゃがみ込み直し、観察する。
    えっさほいさ、えっさほいさ、と歩いていくそのアリ。ちょっとでっぷり。というより、がっしりしていてメカっぽい。街なかのアリンコよりも、意志がありそうで、なんだか戦闘的な雰囲気すら漂っている。
    おぉおおおお、と夢中に⋯⋯なりかかったところで、友人の声。

    ユキちゃん、結べた?

    慌てて靴ひもをしっかり結び、うん、結べたー。お待たせーと言って立ち上がった。
    アリンコが気になったけれど、ここは我慢。みんなに遅れまいと歩いたけれど、今度は、頭は空っぽではなく、逞しそうなアリンコの姿を思い浮かべていた。

    実は、もう何年も前。わたしはアリンコ愛好会の会長だった。
    愛好会といっても、会員はわたしを入れて3名。アリンコを見つけたら写真を撮ってシェアをするという、それだけの会だったのだけれど、似たような感性の友人とアリンコ愛を語るのは、なかなかに楽しかった。

    ただ、その愛の方向性はちょっとちがった。
    友人Aと友人Bがシェアしてくる写真は、ほぼほぼ一匹のアリにフォーカスしていた。一方、わたしは、アリがズラズラズラと歩いている写真が多かった。
    たぶん友人たちは、アリンコのフォルムそのものに興味があったのだろう。わたしはといえば、あのサイズ感のくせに、ボンキュッボンというしっかりした構造をしていることにも興味はあった。けれど、それ以上に、もっとこう、生態というのか、行動というのか、そんなところに惹かれていた。

    というのも、アリって見ていて飽きない。
    一匹のアリを見つけると、最初はウロウロ、チョロチョロ動く。そのうち、二匹、三匹になり、それぞれがウロウロしたあと、なんとなく、みんなが同じ方向に動く。
    しばらくすると、いつの間にか列になって道ができる。と思えば、途中でいきなり崩れたり、また道が復活したり。なんか、ちゃんとしてそうでしてない感じ。

    ふと、これって、なんか似てるやつあるよな、と思う。
    たとえば、寄せては返す波。決まった動きがあるようで、毎回すこしずつ違う。
    あるいは、焚き火の炎。そこに火はあるのだけれど、小さくなったり大きくなったり、不規則に揺れる。
    そういったものを見ていて飽きないのと、同じ感覚。(たぶん)

    こう考えてみると、わたしはアリそのものよりも、アリンコが作り出す現象を楽しんでいるのかもしれない。
    好き勝手動いているわけではないのに、かっちりルールで動いているわけではない流れ。

    そういえば、ひとの流れもちょっと似ている。ラッシュ時の駅だったり、渋谷のスクランブル交差点みたいなところ。
    無表情に歩いていく人々のなかで、ちょっと焦り気味で早足で歩くひと。あくびをしながら歩くひと。スマホを見ながら歩くひと。すっすっすっと大股で歩くひと。ちょこちょこちょこっと歩くひと。カツッ、カツッ、カツッとヒールを鳴らして歩くひと。とんでもない厚底で、よたよたよたと歩くひと。

    でも、そのとき見ているのは、ひとりひとりの事情ではない。人がつくる流れのなかに、どう揺らぎが混じっているか、なのだと思う。
    歩幅も違えば、靴の音もちがう。流れはあるけど、ちょっとずつちがう。

    アリの列、ひとの流れ、波のうねり、火のゆらぎ。
    もしかしたら、すべて同じ種類の現象として、わたしの目には映っているのかもしれない。
    そして、そうしたものを見ていると、頭の中が少し静かになる。これ、ちょっと瞑想みたいなものなのだろうか。

    アリンコ同好会なんてふざけた話を持ち出したけれど、実はものすごく深い話だったのかもしれない。(しらんけど)


    ※この話は「なぜか見てしまうものたち」連作の1本目です。

    つづきはこちらです。
    なぜか見てしまうものたち②|ニンゲンは、くるくる、ぐるぐる、しゃらしゃらにあらがえない。

    ※この記事は、はてなブログ「今日も懲りずに『脳みそ散歩』」に掲載したこちらの記事をもとに、note創作大賞応募用に整えたものです。


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