その顔の向こう側Ⅱ
彼は最愛の妻を病気で亡くしていた。
病気が分かってからは、本当にあっという間で、結婚生活は二年ほどだったと思う。
家族ぐるみの付き合いがあり、亡くなられた折には、夫とともに葬儀に参列した。
彼の悲嘆ぶりが胸に迫った。
そんなわが子に寄り添う高齢のご両親は、いかにも素朴な感じのする方で、突然のことに戸惑っておられる様子だった。
やがて、彼は徐々にではあるけれど、日常を取り戻していき、再婚されたと聞いたときは、ひとまず安堵した。
どなたかが縁を結んでくださったらしい。お相手の女性は、亡くなった奥さまとゆかりのある、心優しい方と聞いた。
それから数年が過ぎたが、たまに見かけることがあっても、どうしてか、二人からは夫婦という気配が感じられないのである。
かつては、彼の方は肩幅の広い立派な体格だったが、今ではひとまわり小さくなり、白髪も混じるようになった。
屈託のない笑顔が消えている。何となく人目を避けているようで、おひとりになったときよりも、辛そうに見える。
お子さんはない。 奥さまは明るく振る舞っておられるけれど。
二人の住まいは、亡き奥さまが設計した瀟洒な家だ。
彼にはもう少し時間が必要だったのか。
その家にいれば、亡くなった奥さまのことを思わない日はないだろう。
ありし日の姿を、繰り返し再生せずにはいられないかもしれない。
そして、今の奥さまは夫と先妻の姿を想像したりするかもしれない。
窓から漏れる明かりを見る度に、気立ての良い奥さまの心の内を密かに案じている。
* * *
「その顔の向こう側」は、3編の連作エッセイです。
それぞれ独立して読めますが、通して読むとひとつの物語のようにつながっています。
第1作:その顔の向こう側Ⅰ
第2作:その顔の向こう側Ⅱ
第3作:その顔の向こう側Ⅲ
