
🦋場を受け渡す三つの所作②〜閉まる扉を、急がせない〜
エレベーターに乗り込んだ。
「本日はありがとうございました」
扉の外で、クライアントが深く頭を下げている。

私はパネルの前に立ち、「閉」ボタンへ指を伸ばした。
早く閉めなければ。

その時だった。
「何を急いでおる。」
後ろから仙人の声がした。

「えっ……だって、早く閉めないと相手に申し訳なくて……」
「ボタンを押すのが悪いのではない。お前の心の問題じゃ」

仙人は私の指先を見た。

「始まりと終わりほど、人は急ぐ。」
私は息を呑んだ。

私はもう一度、扉の向こうを見た。
相手は、静かに頭を下げ続けていた。
相手の揃えられた靴先が、まだ同じ場所に留まっていた。

私はパネルから指を離した。

扉の向こうで、相手はもう一度、深く頭を下げた。
私も頭を下げた。

機械がゆっくりと扉を閉める間、私はそのまま動かなかった。

扉が閉まっても、私はまだ、頭を下げていた。




