沼津展望水門びゅうおと、胸元のペニーワイズ
数年前、家族で沼津に行った。
伊豆・三津シーパラダイスを見学し、沼津港近くで海鮮丼を食べ、展望水門びゅうおに寄った。
入場料も安いし、地味かなと思っていたのに、その日の中では、びゅうおが一番思い出に残っている。

まず景色が素晴らしかった。
見渡す限り、青い海と青い空。


午後の中途半端な時間に行ったからか、人も少なく、ほとんど貸切みたいなもんだった。
人気の少ない館内の隅を係員の女性が一人、ホウキで床を掃いていた。
そして、私たちをじっと見てきた。
何か言いたげな様子で。
その時、当時小4の娘と幼稚園児の息子が、はしゃいで追いかけっこをしていた。
しまった、騒がしかったか。
気まずくなり、私は子供たちを注意した。
夫は高所恐怖症で、ずっと壁際に張り付いていたが、「怖い。俺もう帰りたい」と、とうとう限界を迎えてしまった。本当は夕陽まで粘りたかったけど、諦めて皆で下に降りた。
そうしたら出口で、さきほどの女性係員とまた会った。その人は、またこちらをじっと見てきた。
何だろう?と思っていたら、「すみません」と声をかけられた。
「あっ、上でうるさくしてすみません」
私が反射的に謝ると、その人は慌てて手を振った。
「あっ、違います!それは全然!」
では何でしょう。
「あの、その素敵なTシャツはどちらでお買い求めですか?」
「えっ?Tシャツ?」
予想外の言葉に面食らった。
「そうです。素敵なTシャツだなぁと思って。つい、じっと見ちゃって。すみません」
その日、私は映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のTシャツを着ていた。
その人はうっとりと私のTシャツを見ながら続けた。
「グッズ欲しいけど、なかなかなくて。いいですよね、ペニーワイズ。IT、お好きなんですか?」
咄嗟に返事できなかった。
映画は観た。アマプラで。
一回しか観ていないけど。
『IT』は確かに面白かった。
話題になるのも納得の映画だった。
でもめちゃくちゃ怖かった。
正直、私はホラーが苦手なのだ。
観ている間、怖すぎて鳥肌が止まらなかったし、何度も一時停止しながら、頑張ってラストまで観た。
Tシャツは、GUでたまたま見かけて、「お、いいじゃん、これ」と深く考えずに買った。
黒縁メガネの黒髪ボブという物静かそうな見た目なのに、なかなかコアな趣味をお持ちのようだ。
その人は嬉しそうにニコニコしている。
やばい。
絶対に『IT』が好きだと思われてる。
Tシャツ着るほどのファンだと思われてるに違いない。
実は一回観ただけの小心者のニワカなんです。
Tシャツ着ててすみません。
「えーと、GUで買いました。990円でした」
「えっ、GU!帰りに行きます!ありがとうございます」
「買えるといいですね!」
「はい!勇気を出して話しかけてよかった!」
すごくいい出会いだった。
あんなに喜ばれるなんて、ペニーワイズでびゅうおに来てよかった。
あのあと、無事に買えただろうか。
Tシャツは、デザインと値段でうっかり選んではいけない。思わぬところで「同好の士」を引き寄せてしまうから。
『その素敵なTシャツはどちらでお買い求めですか?』
なんて丁寧で素敵な言い回しだろう。
私もときめくものに出会ったら、この素敵な言い回しを使ってみたい。
※これがそのTシャツ。
GUのMovieコレクション的なシリーズだった。

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前回書いた記事が「沼が怖い」だった。
沼に引っ張られてる。
読んでくださってありがとうございます。
よかったらまた覗きに来てください。
